「自然に聴く」姿勢で栽培を工夫された和田博之さん
千葉県三芳村(現・南房総市)で、三芳村生産グループの代表をされていた和田博之(故人)さん。
約50年前に消費者グループの要請をきっかけに、露木裕喜夫氏の指導を受けながら有機農業を始められました。自然観察を通して工夫された栽培は、持続可能な地域資源循環型そのものだと思います。
生産グループが有機農業を始めたきっかけ
食べ物の安全性に危機感を持っていた首都圏の母親たちのグループ「安全な食べ物を作って食べる会」から、「農薬を使わない野菜を作ってほしい」「生産されたものは全量引き取ります」「価格は農家が決めてください」と頼まれたことがきっかけで農家がグループを結成し、1973年より無農薬・無化学肥料で露地野菜を作り始めました。
当時、首都圏の母親たちに、生産グループの農家が運転して農産物を毎週配達していました。
土壌動物相が豊かな不耕起畑
調査した不耕起畑では、畑近くの竹やぶの竹を半分に割って畦間にほぼ20㎝間隔に敷き、通路にしていました。畦間、作物を栽培している畦面とも豊かな土壌動物相が見られました。
和田さん宅を千葉県農業試験場の研究員が訪れた際のできごとをお聞きしました。農薬を使っていないのであれば、当然発生しているであろう害虫のことを尋ねられたとき、和田さんは「畑ではそのような虫は見たことがない」と答えたそうです。「そんなことはない」と言われたので、畑を案内したところ害虫がいないのに驚かれたとのことです。
研究員が「農業技術を農家に指導する姿勢から農家から学ぼうとする姿勢」で和田さんに接していれば、その後の対応は違ったと思います。
露木裕喜夫氏の指導で栽培
生産グループの栽培法は、露木裕喜夫(1911-77)氏より「自然観察の大切さ」を徹底して指導されたとのこと。和田さんは、「露木先生なら、この畑の状態をどう見られるか」を常に考えながら栽培方法を工夫されているとのことでした。「実践をとおして、露木先生の言われたことに気づく」とも。
露木裕喜夫著『自然に聴く 生命を守る根源的智慧』(1982)は、「安全な食べ物を作って食べる会」と「三芳村生産グループ」が遺稿集刊行会を組織し、出版されました。化学肥料や農薬に頼らない栽培をしている方、しようと検討されている方には、ぜひ、読んでいただきたいと思います。
※和田博之さんを訪ねたのは、1987年4月。有機農業畑の土壌動物相を調べるためでした。
※畦間と畦面の関係については、「畑地の土壌生物群集を豊かにする有機農業・不耕起栽培のメカニズム」をご覧ください。
※害虫の発生を抑制するしくみについては、「生物による密度調節機能」「害虫をただの虫にする栽培」をご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?