有機農業への転換と減農薬という考え方
有機農業とは、農薬や化学肥料に頼らない(頼らなくても可能な)栽培であることは、すでに紹介してきました。
しかし、慣行農業からいきなり農薬と化学肥料を使用せずに栽培しても、農地の生態系が整っていなければ作物の生育は思わしくありません。
現在では安定した経営をされている有機農家でも、転換初期のころには大変苦労されました。
慣行の栽培から減農薬栽培に挑戦ことは大変な努力が必要だと思います。
さらに無農薬や有機農業で栽培するには、農地や栽培に対する考え方(捉え方)から変える必要があります。
「虫見板」で判別しながら水田の農薬散布を減らす
宇根豊さん(元 農と自然の研究所代表理事、1950-)から「有機農家からは減農薬栽培という考え方は生まれなかったのでは?」と言われたことがあります。
宇根さんは、福岡県農業改良普及員時代(1978年ごろ)に農薬に依存しすぎる農業に疑問を抱き、減農薬運動を提起されました。
具体的には、害虫でも益虫でもない「ただの虫」たちが自然環境を形成しているという、農業と自然環境との関係を農家に紹介し理解を深めつつ、イネにつく虫を「虫見板」で判別し農家自らの判断で水田の農薬散布を減らす方向へと導かれました。
減農薬でリンゴを栽培したときのこと
約30年前、減農薬で栽培している農家のアドバイスをもらい、防除の要否を私自身の判断で、慣行農業の防除暦から農薬散布の回数や濃度を半分まで減らし栽培しました(図1)。
回数を減らしても美味しいリンゴはできましたが、減らした農薬散布の回数に応じて外観は悪くなりました。
減農薬と無農薬との壁
慣行農業の防除暦は、商品として農産物の外観が保たれるように、例年どおり病害虫が発生することを前提に、予防として散布するように作成されています。
病害虫の発生と大きく関係する冷夏、干ばつなど気象条件の違いは、栽培の前に配布される防除暦には加味されていません。したがって慣行農業では、現状の防除暦から農薬の成分や回数を減らすのは容易なことではありません。
防除暦どおり農薬を予防として散布すれば、ほぼ予定していた単収は得られます。もし、得られなかっても農業共済に加入していれば、収入は保障されます。
減農薬で栽培することは、宇根さんが取り組まれた事例からも誰でもできることではありません。しかし私は、減農薬の先に無農薬栽培、有機農業があるとは考えていません。
農薬を減らし、農地に多様な生きものが見られるようになっても、減農薬栽培から有機農業に転換するには、有機農業を「勇気のいる農業」と揶揄されたように、相当の覚悟が必要です。
すなわち、慣行栽培から減農薬へ、減農薬から有機農業へと、2回大きな転機があります。
これから有機農業に転換されようと考えている方は、まず、有機農業の田畑と自分の田畑の違いを見比べ、小面積、しかも最も条件の良い(栽培しやすく、自宅に近い)農地から有機農業を取り組まれることをお勧めします。
参考文献
藤田正雄(1995)自然農法へ向けたリンゴ栽培-農業試験場の取り組み-.農業試験場 開設5周年記念(自然農法国際研究開発センター)(松本).
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