有機農業に農業共済は適用されるのか?
1985年8月を冷夏の北海道で過ごしました。夜はストーブをつけなければ過ごすことができず、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」にある「寒さの夏」とは、こういうものかと思いました。
冷害に弱い小豆の減収が予想されたため、近くの農業改良普及所で「農業共済制度」について尋ねたところ、「農薬や化学肥料を使用しない栽培は、適切な管理を怠っているため、共済の対象とはならない」と言われました。
この40年で、有機農業での栽培は農業共済の対象になったのでしょうか?
農業共済制度とは
農業保険法に基づき、農業者の経営安定を図るため、自然災害などによる減収などの損失を補填を目的とした制度です。農業者が支払う共済金掛金の一定割合を国が負担しています。
農業共済の実施主体は、農業共済組合で、県域を単位とした農業共済組合が設立されています。
慣行栽培に適用する基準単収(一定の面積あたりの収量や収入)と異なる単収を設定する必要がある農業共済団体の事務に係る費用の一部を、国が負担するとしています。
岩手県農業共済組合連合会のウェブサイトには、「有機栽培など、慣行栽培に適用する基準単収と異なる単収を設定する必要があると判断された場合には、実態に応じた適正な単収を設定します」と明記されています。
農業共済組合が発行する農業共済新聞には、有機農業実施者の記事も多く掲載されるようになり、有機農業が特別な栽培法ではなくなっているように思えます。
有機農業には適用されなかった共済制度
約40年前に北海道の農業改良普及所での話にもどります。
共済制度の目的には、自然災害による減収損失を補填がありますが、有機農業畑には適用されないとのこと。その理由は、「農薬、化学肥料を使わない栽培は、適切な栽培管理を行ってないとみなされるとのこと。もし、適用使用とした場合、慣行農業とは異なる基準単収を設定する必要があるため、どの程度減収しているのかを判断できない」とのことでした。
共済制度を適用したければ、有機農家で組合を作るのがよいとも言われました。
このころの農林水産省では、有機農業の実施者がどの程度いるのかさえ把握していなかったため、有機農業での栽培は共済の対象にもならなかったようです。
消費者による有機農家の救済制度
「消費者も農家の生産に連帯責任を持つ」との考えから、「安全な食べ物をつくって食べる会」では、不作のときの救済制度として有機農家の所得保障方式を導入しました。
保障のための資金は、会への「参加のための条件」に「会員1人あたり保証金1万円を拠出する」ことで充当しました。
消費者は農産物を商品として購入するのではなく、有機農家との運命共同体的な信頼関係を構築するなかで検討された農家を救済するしくみでした。
有機農業に農業共済制度は適用できるのか
先に紹介したように、農業共済制度を有機農業に適用するには、実態に応じた適正な基準単収の設定が必要です。
水稲のように単一作物をまとまった面積で栽培する場合は、単収の設定が可能かも知れませんが、野菜、それも多品目を少量で栽培する場合はどのように設定すれば良いのでしょうか? また、同一地域の水稲でも、有機農業の実施年数、実施面積、単価や栽培者の技術により単収は異なります。
このように、栽培方法が画一化され、農協で販売価格が決められた慣行農業と異なり、有機農業では収量・収入に影響する多様な要因が存在するため、基準単収の設定は困難を要します。
したがって、減収に対する農業共済制度の適用は難しいと思います。
農林水産省も、次に紹介する「環境保全型農業直接支払交付金」で、収量に関係なく有機農業実施圃場への交付金として支払うことで、実施者への支援に充てていると思います。
農林水産省の有機農業実施圃場への支援
環境保全に効果の高い営農活動に対して支援を行う 「環境保全型農業直接支払交付金」を2011年度から実施しています。
2024年度には、有機農業実施圃場10aあたり12,000円(ただし、そば等雑穀・飼料作物は3,000円)が交付され、25年度からは10aあたり14,000円に引き上げられる予定です。
また、すべての補助事業などに対して、最低限行うべき環境負荷低減の取り組みの実践を義務化する「クロスコンプライアンス」を、2024~26年度の試行実施を経て導入するとしています。
これにより農林水産省の補助金などの交付を受ける場合には、環境負荷低減の取り組みが必須となります。