「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さん
2016年6月、青森県弘前市で開催された日本土壌動物学会公開講演会「木村リンゴ園の土壌を考える」に参加し、木村秋則さんのリンゴ園も見学しました。
苦労の末、無肥料・無農薬のリンゴ栽培に成功
リンゴには感染後に落葉を引き起こす斑点落葉病や褐斑病、果実に黒い病斑をつけ品質を損なう黒星病といった病原菌や、ハマキガなどの葉食性昆虫、果実に潜行し内部を食害するシンクイガなど多様な病害虫が発生するため、無肥料・無農薬での栽培は不可能と言われてきました。
しかし「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんのリンゴ園では長い間の苦労の末、無肥料・無農薬の栽培に成功し、慣行農業に匹敵するリンゴが収穫できているとのことでした(図1)。
無農薬で生産できるリンゴ園の仕組み
杉山修一(弘前大学)さんからは、木村さんのリンゴには葉の内生菌や寄生蜂などの生物の活性化が病気と害虫の抑制に効いていることを例に、園地に棲む生物間の相互作用を強化することで無農薬でリンゴを生産できる仕組みが形成されていることが紹介されました(図2)。
有機農業園では多様な土壌動物相
岡田浩明(農研機構 中央農業研究センター) さんからは、青森県内の有機農業と近隣する慣行農業のリンゴ園の土壌動物相を比較し、有機農業園では糸状菌食性線虫、ダニ、トビムシの密度が高かったこと、有機農業園では土壌中の植物体および有機物の量が多かったことが紹介されました。
木村さんのリンゴ園の豊かな生物相は、不耕起で重機を入れずに土壌の圧密を避け、草本由来の有機物が土壌に大量に供給されて常に地表面を覆っていることと関係していると思われます。
観察に徹したリンゴ栽培
木村さんのリンゴ園では、雑草の種類が多く、隣接する慣行農業園に比べリンゴの葉は淡い色をしていました(図3)。
木村さんからは、無肥料・無農薬を続けると雑草の種類が変化してくることなどが紹介されました。
木村さんの話を聞きながら、観察に徹し、そこにある現象(事実)に学ぶ姿勢(動植物と対話ができる?=生態(生きざま)を熟知している)を感じることができました。
なお、2009年から15年までの6年間、岩手県立果樹試験場によるリンゴ無施肥・化学合成農薬不使用栽培の再現試験が行われましたが、病虫害の被害を抑制することはできませんでした。
観察に徹した栽培管理が十分ではなかったのかも知れません。
※害虫を抑制するしくみについては、「害虫をただの虫にする栽培」をご覧ください。
参考文献
金子信博・井上浩輔・南谷幸雄・三浦季子・角田智詞・池田紘士・杉山修一(2018)有機リンゴ圃場の土壌動物多様性—慣行リンゴ圃場および森林との比較—, Edaphologia, No.102:31–39.
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