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作物の品質向上のメカニズム


健康な作物とは

生きものにとって健康とは、環境に適応し、かつ、そのものの能力が十分発揮できるような状態で生活することです。このことは、作物も例外ではありません。
それぞれの生きものはその生活に適した棲みかや餌などの生活資源の範囲(生態的地位)のなかで、他の生きものとの関連のなかで生きています。
生きもの(種)はそこで生活し続けるために、時間をかけて環境に順応し、他の生きものとの関係を築きあげてきました(図1)。したがって、他の生きものとともに生きている以上、さまざまな制約が存在します。
作物栽培においても、ある作物の最高の条件(栽培環境)が必ずしも最適な条件とはいえないのです。

図1 環境と作物の相互作用
(藤山・藤田 2008を参考に作図)

品質向上のしくみ

有機農産物は、一般に美味しく栄養価も高いとされています。しかし、過剰な有機物を施用して不適切な養分管理を行えば、その特色は生かされません。

適切な有機物施用による作物の品質向上のしくみをみてましょう(図2)。
土壌は、ミミズなどの土壌動物のはたらきによって団粒構造が発達し、水はけが良く、水もちが良くなります。そして、土壌動物や微生物による有機物の分解作用(養分の無機化)では、土壌中の作物が利用可能な養分量が少なく、その放出も緩効的になります。

水はけの良い土壌では、作物体内の水の量が減ります。しかし、糖の移動量はさほど影響を受けないので収穫物の糖度が上昇します。

低窒素条件下では、アミノ酸やタンパク質に合成されるはずの糖が余りるため糖度が上昇します。糖からビタミンCが合成されるためビタミン含量が上昇します。
糖濃度が高いと収穫後の組織の崩壊も遅れて、貯蔵性が高まることが知られています。

図2 作物の品質向上のメカニズム
(森 1986、藤原 2001を参考に作図)

不適な環境に適応して生きる力を発揮できる栽培環境が、多様な土の生きものを育み健康な作物を生み出すのです。

※ミミズのはたらきについては「大地の鍬-ミミズのはたらき(1)およびミミズのはたらき(2)」をご覧ください。
※作物の細胞形態の違いについては「栽培方法の違いが作物の細胞形態にも影響する」をご覧ください。

参考資料

藤田正雄(2010)「健康な土をつくる-有機農業における土と肥料の考え方-」中島紀一・金子美登・西村和雄編著『有機農業の技術と考え方』コモンズ.
藤山静雄・藤田正雄(2008)「生態学から見た有機農業」信州大学環境科学年報, 30: 72-81.
藤原孝之(2001)「有機野菜の品質評価研究の現状と今後の展望」『農業および園芸』第76巻第7号.
森敏(1986)「食品の質に及ぼす有機物施用の効果」日本土壌肥料学会編『有機物研究の新しい展望』博友社.


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