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傾斜地に適した「耕さない農業」を実践する松澤政満さん

愛知県で小規模・家族農業を実践している福津農園の松澤政満さん。
山間傾斜地にある農園は、少量多品目栽培による不耕起直播、果樹や野菜の混植、有畜複合などを取り入れた、多様な生きものと共存した世界です。
松澤さんは自然をよく見てよく知り、いつ何をするかを体得し、条件不利と言われる山間地の特徴を活かした農業を実践されていました。


愛知県新城市中宇利字福津にある福津農園の松澤政満さんを日本有機農業学会会員と訪ねたのは、2016年8月28日。築後約300年の家に暮らし、農業の基本に照らしながら、さまざまな試行のなかで体得された農業の姿を見せていただきました。

図1 作物と自然との関係を説明する松澤政満さん
図2 典型的な中山間地にある築後約300年の住宅と福津農園

耕すことをやめ、傾斜地に適した栽培を模索

松澤さんは、1984年に脱サラし実家で農業を始められました。いずれは実家で農業を行うこと決めておられ、化学物質に過敏であることを考慮し、サラリーマン時代からどのような農業をしようか、と模索されていたそうです。その結果、農業の基本を重視し1.4haの田畑で始められたのが、約200品種を栽培する有機農業。
山間傾斜地では農機による耕耘は危険で、「耕す」ことは不利な要因の一つです。そこで、耕すことをやめ、傾斜地にあった栽培を模索したところ、意外と楽に生産でき、結果も良いことに気付かれました。
現在は、「土は草でつくる。草は草で、虫は虫で、菌は菌で制御する」という考え方で、下記の栽培技術を組み立てられました。

①畑では不耕起栽培を原則とすること
②有機質資材などはすき込まず土壌表面に施用すること
③野菜や果樹については単一作物の作付けは行わず、複数の種類を組み合わせた作付け【混植、立体農業(賀川豊彦 1935)】を行うこと
④土壌と作物の相性を見極めたうえで栽培を行うこと


図3 敷草を掻き分け出芽するカブ
図4 自然生えのミニトマト(実割れが少ない)
図5 果樹と野菜を組み合わせた立体農業(果樹の下にコンニャク、サトイモが生育)

土壌表面に有機物を施用することで、土壌生物が土を良くする

畑に生育する雑草や農園内の落ち葉を、有機質資材として土づくりに積極的に利用されています。
雑草などの有機質資材は堆肥にするのではなく、土壌表面に施すだけです。土壌表面の有機物は、ミミズなどの土壌動物や微生物のはたらきにより、土壌の団粒構造が発達・維持され、保水性、保温性を高めています。

雑草や落ち葉を土壌表面に施用するという土づくり以外に、施肥はほとんど行わないそうです。作物の観察から肥料が足らないと判断した場合にのみ、自家製の鶏ふん肥料などを施用されます。
自家製鶏ふん肥料は、鶏舎内の敷料として一面に敷いた落ち葉と鶏ふんを、鶏が毎日かき回してできたもので、においのない粉状の肥料として使われています。

図6 鶏舎を覆うキウイフルーツ

消費者との交流を通して農産物を販売

福津農園で栽培した農産物は、豊橋市の朝市でも販売され、都市部の消費者との交流を深めておられます。朝市は、消費者の視点にたった運営方法で仲間と始められたそうです。
農園は消費者に開放され、多様な生物が生きる豊かな自然を求めて、家族連れや団体が年間約2000人以上訪れているそうです。
松澤さんは、研修会の講師や体験学習など積極的に活動され、 愛知県をはじめ全国の有機農業の推進にも貢献されています。

参考資料

松澤政満(2018)これからの自然農法「自然に学ぶ農」~持続可能性を極める農と実践への提言~. 自然農法(78)4-9.
日本テレビ(2024)「水も肥料やらない!? 甘くて美味しい野菜ができる"耕さない農業"とは」(動画)


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