転換参入者の経営、販売先実態 有機農業への参入のきっかけと経営状況(4/5)
有機農業への転換参入者を対象にアンケート調査を実施した結果、販路を自分で開拓し、農業粗収益、実施面積も、参入時に比べ増加していました。しかし、経営が安定していない農家も存在し、栽培技術の未熟さが課題でした。
販売先では、参入時、現在とも農協・生協、消費者への直接販売が多くあり、現在の特徴として流通業者の割合が増加している実態が明らかになりました。
11年前の調査結果ですが、実態を把握し今後の対策を立てるには有効な情報と考え紹介します。
調査方法など
調査対象および調査時期、転換参入者の概要などについては、有機農業への参入のきっかけと経営状況(1)および(3)を参照ください。
今回は、転換参入者(68事例)の経営状況、販売先などを紹介します。
転換参入後の農業粗収益の推移
転換参入者の参入時と現在(2012年度)の農業粗収益の分布を示します(図5)。農業粗収益の中央値では、参入時が400~600万円で、現在は800~1,000万円に増加し、参入時に比べ800万円以上の農業粗収益を上げている農家(団体)が増えていました。
農業粗収益の平均では、参入時が966万円で、現在は1,696万円と1.8倍に増加し、有機農業実施面積の合計でも、参入時の120haから現在の304haへと2.5倍に増加しました。
家族労働以外の労働力の合計は、参入時の170名(研修生9名、正規雇用10名、パート151名)から現在では336名(研修生24名、正規雇用46名、パート266名)へと約2倍に増加しました。
本人以外の家族(配偶者、子、親など)の合計は、参入時の236名、現在の249名でほとんど変わりませんでした。
転換参入後の主な販売先とその販売割合などの推移
主な販売先の販売額の割合では、参入時は「農協・生協(33.6%)」「消費者への直接販売(29.3%)」「流通業者(農協・生協を除く、22.7%)」「直売所(3.9%)」「飲食店(0.3%)」でしたが、現在では「流通業者(26.9%)」「直売所(6.4%)」「加工業者(5.0%)」「飲食店(3.4%)」が増加し、「消費者への直接販売(27.2%)」「農協・生協(27.8%)」が減少しました(図6)。
現在では57.4%の農家(団体)で有機JAS認証を受けていました。
価格決定の主体では、農協・生協を含む流通業者への販売は、参入時は業者が多かったが、現在では農家、合意の割合が高くなりました。消費者への直接販売、直売所、飲食店は、参入時、現在とも農家の割合が高かったです。
販路開拓では、「農産物の品質向上への努力」が有効回答数の79.4%と最も多く、「農産物フェア、商談会への参加(41.2%)」、「インターネットの利用」と「グループ化による出荷量の安定」がともに35.3%と続ました。
転換参入者の経営状況と今後の意向
現在の経営状況は、「毎年、利益が出て、経営は比較的安定している」が38.2%、「利益が出る年と出ない年があるが、経営は比較的上向きである」が32.4%と、7割以上が安定または上向きの経営でした。いっぽう、「利益が出る年と出ない年があり、経営がなかなか安定していない」「取り巻く状況が厳しく、利益が出ない年が続いている」と答えたうちの75.0%が、その理由として「農産物の収量、品質の不安定」をあげ、新規参入者と同様、栽培技術の未熟さが経営安定の課題でした。
今後の意向では、「将来的には規模を拡大(多角経営を含む)していきたい」が、38.2%、「規模は維持しつつ、効率性をあげていきたい」が44.1%を占めました。
転換参入者の就農実態
新規算入者との共通点として、
農業粗収益、実施面積とも参入時より現在で増加し、新たな雇用を創出していること、
多くが有機農業で自立、発展を希望する農家であることが、あげられます。
その一方で、「利益が出る年と出ない年があり、経営がなかなか安定していない」「取り巻く状況が厳しく、利益が出ない年が続いている」と答えた理由として、新規、転換ともに「農産物の収量、品質の不安定」をあげ、栽培技術の未熟さが経営安定の課題でした。
転換参入の経営規模(面積)は新規参入に比べ大きく、有機農業の実施率では、新規は参入時から100%の割合が9割と高いのに比べ転換は部分実施が多く、農業経営を維持しながら、地域の有機農業の栽培方法を試行錯誤の中から確立してきた様子が推測されました。
転換の農業粗収益の分布を詳しくみると、2,001万円以上が参入時の2倍に増加している一方で、現在でも600万円以下が3割弱存在します(図5)。
転換の実施率を下げている要因として、「農産物の収量、品質の不安定」を課題としている農家の存在を考慮する必要があります。
転換参入の約7割で栽培している水稲作の有機率100%が3割強と新規の8割強に比べ低いことも影響しています。
転換は栽培面積も広く、一部の面積で有機農業に取り組むことが、大規模有機稲作の特徴でもあります(中川 2010 ; 宮武 2014)。
有機農業の拡大には、地域ごとの条件に応じた栽培技術の確立、とくに水稲栽培の阻害要因(技術、販路など)を取り除くことが必要です。
参考文献
藤田正雄・波夛野豪(2017)有機農業への新規および転換参入のきっかけと経営状況:実施農家へのアンケート調査結果をもとに. 有機農業研究 9(2):53-63.
中川孝俊(2010)有機稲作の経営規模を規定する要因の探索. 関東東海農業経営研究100:59-62.
宮武恭一(2014)大規模稲作経営における有機栽培と米販売. 農業経営研究52(1-2):49-54.
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