見出し画像

畑地の土壌生物群集を豊かにする有機農業・不耕起栽培のメカニズム

多種多様な生物が棲息し、生物の持つ多様なはたらき(生態系サービス)を活用することで、農薬や化学肥料に頼らない栽培が可能となります。
そのはたらきを利活用するには、多くの生物が生活しやすい環境を整える栽培管理が大切です。
そのヒントが、有機農業の不耕起栽培にあります。


生物の持つ多様なはたらきを活用する

不耕起・有機農業畑では、多種多様な生物が棲息し、生物の持つ多様なはたらき(生態系サービス)を活用することで、農薬や化学肥料に頼らない栽培が可能となります。
いっぽう、表層を均一に管理した耕起畑では土壌の生物相は貧弱になり、多様な生態系サービスが活用できません。

持続性のある安定した農業を実現するには、生態系内に現に棲息し、機能している多くの生物のはたらきを活用することが大切です。すなわち、多収穫を目的に化学化、機械化、省力化を進めるなかで、近代化農業が無視してきた多くの生物のもつ多様なはたらきを、農業生態系の中で再び活かすことです。

土壌生物の生活を保障する有機農業・不耕起栽培

農薬の多用により多くの昆虫などの動物は排除されます。さらに、化学肥料が多用され有機物の施用量が少ない状況では、本来土壌中で有機物の分解や物質循環に関与し生態系の中で重要な役割(生態系サービス)を担っていた土壌生物(動物、微生物)は、棲息が困難な状況になります。

化学肥料を使用せず有機物を積極的に利用した有機農業では、有機物の分解に係わる土壌動物群集は重要なはたらきをしています。さらに不耕起で栽培することで、多種多様な生物群集を保障することが可能となります。

農地の異なる微環境の存在が豊かな生物群集を保障

不耕起・有機農業畑の生産に直接関与しない畦間と作物を栽培する畦面という微環境間の有機物の分解に関与するササラダニ群集(とくに、クワガタダニ属2種)の動態に注目し、豊かな生物群集を保障するメカニズムについて検討しました。その結果、生産に直接関与しない畦間の安定した環境が、四季を通じて多様な生物群集の維持に寄与していることが分かりました。

環境を保全し持続可能な農業を実現するには、多くの生物が生活しやすい環境を整え、そのはたらきを利活用することが大切です。

図 トゲクワガタダニは農地の微環境の違い(畦面と畦間)を利用して棲息
栽培による棲息環境の変化に応じて、畦面と畦間を移動して生活している

※畦間の安定した環境(有機物の被覆、集積層)については、「不耕起・有機農業畑の有機物集積層にみられる複雑な食物網のひみつ」をご覧ください。

参考文献

藤田正雄,1989. 土壌管理の異なる畑地におけるダニ、トビムシ及びヒメミミズ相の比較. Edaphologia, (40): 1-12.
Fujita, M. & S. Fujiyama, 2000. Soil meso-fauna in two microhabitats of a no-tillage organic farming field. Edaphologia, (66), 11-20.
Fujita, M. & Fujiyama, S., 2001a. How can the minor species, Tectocepheus minor (Oribatida), dominate the T. velatus in a no-tillage crop field? Pedobiologia, 45:36-45.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?