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有機農業畑の捕食者・クモ類の餌資源とは?

有機農業畑より採集された代表的な捕食性動物であるクモ類の餌資源の季節変化および生態的地位を炭素および窒素安定同位体比の関係をもとに推定しました。
餌の起点となっている炭素源はC3植物、C4植物および腐植物質であること、腐植物質を起点とする分解者を主に捕食する2次消費者である可能性が高いことが明らかになりました。


農地生態系は、自然生態系に比べると生物群集を構成する生物種の種類や生息数が少なく、食物連鎖や物質循環が単純で途絶えやすいと言われています。しかし有機農業畑、とくに不耕起栽培畑では、多種多様の動物により構成されています。

調査圃場および調査方法

長野県松本市梓川に位置し(北緯 36° 13’ 32”、 東経 137° 51’ 50”、標高678m)、1970年に区画整備事業を実施して以来、化学肥料、農薬は一切使用せずに栽培していました。圃場面積1700㎡のうち、100㎡を調査対象区とし、2001年より無化学肥料・無農薬・不耕起条件下で、6月~8月はエダマメを、10月~5月は刈り敷き用のライ麦を栽培しました。
クモ類を含む大型土壌動物の採取は、ハンドソーティング法にて2001年6月から03年2月まで年4回(6、8、10、2月)実施しました。

クモ類の生息密度と餌資源の推定

夏季(8月)と冬季(2月)が低く、初夏(6月)が最も多い傾向にありました(図1)。また、採集された全個体数に対するクモ類の割合は、2月から10月にかけて増加しました。

図1 有機農業畑におけるクモ類の生息密度

01年6月から02年10月までに採集されたクモ類のδ13C値は-19.0±0.5‰(n=47、-25.3~-14.0)であった。度数分布では、-23~-21‰、-20~-18‰および-16~-14‰にそれぞれ30.0%見られ、3つの山に分かれました(図2)。

図2 クモ類の炭素安定同位体比の頻度

δ15N値は9.7±0.2‰(n=47、5.9~13.0)でした。度数分布では9~11‰に72.5%が集中していました(図3)。δ13C値より、クモ類の餌の起点となっている炭素源はC3植物、C4植物および腐植物質と推定されます。

図3 クモ類の窒素安定同位体比の頻度

生態的地位は、δ15N値より2次および3次消費者であると推定できますが、四季を通じてδ15N値の変動が少ないことから、分解者を捕食する2次消費者が主である可能性が高いと考えられます。

採集された有機農業畑のクモ類の餌の起点となっている炭素源はC3植物、C4植物および腐植物質であること、腐植物質を起点とする分解者を主に捕食する2次消費者である可能性が高いことが明らかになりました。

※ここで用いている炭素安定同位体比(δ13N)の数字(13)および窒素安定同位体比(δ15N)の数字(15)は、本来は上付き文字です。
※ここで用いているC3植物、C4植物の数字(3および4)は、本来は下付き文字です。

参考文献

藤田正雄・伊澤加恵・藤山静雄(2003)農地生態系の土壌圏-安定同位体比を用いて食物網を探る-5.畑地に生息するクモの生態的地位.第50回日本生態学会大会(つくば)講演要旨集p.308.

※安定同位体については、「安定同位体比を用いて農地生態系の食物網を探る」を参照してください。


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