「令和の米騒動」真の原因は、農家と消費者の心理的、物理的距離の拡大
2024年8月、大都市圏だけでなく、身近に田畑がある地方都市でも「スーパーから米が消える」事態が生じ「令和の米騒動」と言われています。
1993年には、冷夏で全国の米の作況指数(平年値が100)が74となり、タイなどから緊急輸入した「平成の米騒動」と言われた年、消費者と提携していた埼玉県小川町の霧里農場・金子美登(かねこよしのり、1948-2022)さんから聞いたことを思い出しました。「農家と提携することの本当の意味が理解できた」と提携している消費者。
米が不作のときに金子さんが取った行動
自らが生産した農産物で自給することから有機農業を始めた金子さん。自然と人間のかかわりのなかで生産された「食べもの」を、自給の延長線上に消費者を位置付け消費者に届ける「提携」に取り組んでおられました。
1993年は、有機農業をしている金子さんの田んぼも不作で、提携している消費者に1年分の米を届けられなかったそうです。
米が不作の年には、麦の作付け面積を増やすなど、有機農産物を年中食べることができるように作付けを変更されました。消費者からは「農家と提携することの本当の意味が理解できた」と言われたそうです。
農との距離が広がりすぎた私たちの食生活
現在、多くの方が食生活を維持するには、スーパーマーケットなどで米、野菜、加工食品などを商品として購入する意外に方法がありません。
農家から直接米や野菜を入手される方は、何らかの方法で農家と知り合いになり、定期的に入手可能な限られた方です。
1970年代に始まった産消提携では、安全な農産物を求めて消費者グループが農家に有機農産物を作ってもらうようにはたらきかけたり、金子さんの農産物のように直接農家と提携されて「食べもの」を入手された方々がおられました。
その方々は、縁農(援農)と称して農家の田畑で農作業をしたり、農家と話し合ったりして、生産者と消費者との相互理解に努め、食と農の心理的、物理的距離を縮める努力をされていました。
農との関わりを大切に
現在では、有機農産物がスーパーマーケットで商品としていつでも購入でき、生産現場を知らなくても農産物を購入できるようなりました。
「スーパーから米が消える」には、いろいろな原因があると思います。そのなかで、私は広がりすぎた食と農の心理的、物理的距離を挙げたい。
日本の農家は約175万戸(2020年、農林業センサス)。この記事の読者のほとんどは消費者だと思います。
SNSで農の現場を発信している農家や流通業者も多くあります。
ぜひ、農家や流通業者のイベントに参加するなど、各自が食と農の心理的、物理的距離を縮める取り組みをしてはいかがでしょう。
地域に根ざした食と農がつながれば、「食べもの」を通して生産現場、自然環境、地球の気候変動など、生活するうえで何が大切かが身近に感じられると思います。