転換参入者の参入実態 有機農業への参入のきっかけと経営状況(3/5)
有機農業への転換参入者を対象にアンケート調査を実施した結果、参入のきっかけは「安全・安心な農産物を作りたい」が最も多く、講習会などで技術を習得し、販路も自ら開拓しながら、実践をもとに周辺農家の理解を得、規模を拡大している実態が明らかになりました。
11年前の調査結果ですが、実態を把握し今後の対策を立てるには有効な情報と考え紹介します。
調査方法など
調査対象および調査時期、新規就農者の概要などについては、有機農業への参入のきっかけと経営状況(1)を参照ください。
転換参入者(68事例)の調査結果をもとに紹介します。
調査した転換参入者の概要
平均年齢は56.4歳で、年齢構成では50代と60代が26.5%と最も多く、次いで40代(19.1%)、70代(11.8%)で、30代から50代は54.4%でした。
専業農家は88.2%で、農業歴の平均が25.9年、有機農業歴の平均は15.4年でした。
研修生の受け入れ状況では、41.2%が受け入れているか、受け入れた経験がありました。
有機農業の実施率は、参入時が43.2%、現在が67.4%で、初年から栽培面積の100%で有機農業を実施していたのは22.1%でした。水稲作(実施数は参入時が48件、現在が47件)で100%有機農業を実施していたのは、参入時が31.3%、現在が31.9%でした。
有機農業歴では15年以下が60.3%(うち、10年以下44.1%)で、17.6%に研修経験がありました。
転換参入者の参入のきっかけ
「安全・安心な農産物を作りたい」が有効回答数の67.6%(うち、第1位が76.1%)と最も多く、「(自分、家族、消費者の)健康のため(41.2%.うち、第2位が57.1%)」「環境保全に関心がある(36.8%)」「他からの勧め・助言、他の有機農業実施者の影響(30.9%)」が続きました(図4)。
転換参入者の技術の習得先、資金、農地・住宅の確保など
技術の習得先では、参入時、現在とも「講習会に参加(61.8%と64.7%)」が最も多く、続いて「書物を通じて(54.4%と50.0%)」「地域の農家(41.2%と38.2%)」の順でした。
資金では、参入時の就農資金、現在の営農資金とも自己資金(72.1%と88.2%)が最も多く、販路の確保では、参入時、現在とも「自分で開拓(66.2%と69.1%)」が最も多く「知人・友人(親族を含む)の紹介(50.0%と48.5%)」が続きました。
参入時の実施農地の確保は「自作地」が52.9%(うち、第1位が88.9%)と多くありましたが、現在の規模拡大では「周辺農家からの依頼」が54.4%(うち、第1位が75.7%)と最も多く、「自分で交渉(36.8%)」が続きました。
住宅では、参入時、現在とも「持家(85.2%と87.1%)」が多くありました。
周辺農家の理解では、参入時は「変わり者(有効回答数の70.6%.うち、順位別第1位が43.8%)」、「普通の農家(44.1%.うち、第1位が76.7%)」の順で、現在は「良くやっている(70.6%.うち、第1位が72.9%)」「環境に貢献している(52.9%.うち、第2位が61.1%)」の順でした。
転換参入者の実態
参入のきっかけは、「安全・安心」「健康」「環境保全」が上位を占め、「他からの勧め・助言、他の有機農業実施者の影響」が続きました。
新規参入者との共通点として、
〇参入のきっかけが「安全・安心な農産物を作りたい」こと、
〇販路を「自分で開拓」していること、
〇約4割で研修生を受け入れていること、
があげられます。
転換参入者の経営規模(面積)は新規参入者に比べ大きく、有機農業の実施率では、新規は参入時から100%の割合が9割と高いのに比べ転換は部分実施が多く、農業経営を維持しながら、地域の有機農業の栽培方法を試行錯誤の中から確立してきた様子が推測されました。
経営を維持しながら転換したことが、農地を貸してくれるまでに周辺農家の理解が得られたと思われます。
有機農業の実施率は、現在でも68%であり、転換参入者の実施を阻む要因(技術、販路など)を取り除くことで、有機農業の実施面積の増加が見込まれると思います。
参考文献
藤田正雄・波夛野豪(2017)有機農業への新規および転換参入のきっかけと経営状況:実施農家へのアンケート調査結果をもとに. 有機農業研究 9(2):53-63.
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