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商人のDQ3【32】サイモンと怪傑カンダタ

よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子アッシュよ!
そなたの父オルテガは戦いの末、火山に落ちて亡くなったそうじゃな。

 月明かりの下、ロマリアに押し寄せる魔王軍の不死軍団とシャルロッテたちが戦っている間。マリカは後ろにアッシュ少年を乗せて、魔法のほうきで火山地帯を飛んでいます。以前にアミダおばばから譲り受けたほうきは、今やふたりに欠かせない移動手段。高度や速度、積載量に限りはありますが。

「アッシュ…どうかしたの?」
「火山を見ると、思い出すんだ」

 噴煙と硫黄の匂いは、少年がアリアハンの王様から伝え聞いた父オルテガの最期をイメージさせました。

「お父さんのことね…」

 もう、何年も前の出来事のように思える。まだあれから数ヶ月しか経っていないのに。
 昔は元気に街を駆け回っていたのに、お父さんみたいな勇者になるんだと言っていたのに。ある日から謎の病気で歩くことさえできなくなっていた、オルテガの息子アッシュ。

「だいじょぶでちか?」

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『第六猟兵』(C)イーノ/めいさ/トミーウォーカー

 16歳になったあの日、アリアハンのお城の前で偶然出会った商人で神官の少女シャルロッテ。自分が歩けないのは病気のせいでなく、誰かのかけた呪いだと知ったときから。アッシュ少年の理不尽に抗う戦いが始まりました。

 勇者とは血筋でも武勇でもなく、まして一枚の紙切れで決まるものでもない。歴戦の傭兵クワンダの言葉は、少年の心を鎖から解放します。

「冒険に出れるくらい、すごい車椅子を作っちゃいなさいよ!」

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『第六猟兵』(C)イーノ/sio/トミーウォーカー

 フリウリ村のおてんば娘マリカとの、夢の中での出会いを経て。アッシュ少年は冒険で使える車椅子を作り上げ、勇者として旅立つ夢を叶えました。彼にとってふたりは大切な恩人であり、仲間であり、友人以上のナニカ。

「地獄の騎士サイモンの狙いは、きっとこの先のベスビオ火山だよ」
「あたしたちが止めなきゃ、ロマリアで戦ってるみんなが…!」

 いま、アッシュ少年は父オルテガの死を乗り越え。新たな勇者としてその先に広がる未知の世界へ踏み出そうとしているのかもしれません。仲間たちと共に。

※ ※ ※

 ロマリア遺跡の北にある活火山、ベスビオ山。その火口で、ふたりの男が思いがけなく対面していました。

「ここにいたか、我が友よ」
「そう言うお前は…本物は、シャンパーニュの塔から逃げたと聞くぞ」

 なお、この世界のロマリアはローマの位置ではなく、現実世界でのポンペイにあたる位置にあります。アリアハンから渡ってきた冒険者たちが火山灰に埋もれた遺跡を調査し、街を復興発展させ…そしてついに、魔王軍が脅威と認めるほどのチカラを蓄えたのです。

「正義の怪傑カンダダが有名になり過ぎて、本物の盗賊カンダタが居心地悪くなって逃げ出すとはな。全くお前らしい」

 いまや骨だけの身体となった男が、キハーダの如き乾いた音を立ててカラカラと笑います。男は、かつてのサマンオサの勇者サイモン。今はヒミコの手で地獄の騎士と化して、魔王軍の手駒に利用される身です。

「私もお前同様、死んだも同然の立場だ。ルビス殿には助けてもらったが、いまさら国には帰れんし、彼女に恩返しするには他の名前が必要でな」

 もうひとりは、あみだくじの塔でソルフィンに夢見るルビーを返して以来行方不明だった怪傑カンダタでした。どういうわけかサイモンを友と呼び、親しそうに会話しています。覆面の下の素顔は、相変わらず謎のまま。

「私は魔王軍の捨て駒、お前は精霊ルビスの使い走りか」
「変わってしまったな。お前がピサロの奸計で命を落としてから…」

 そこで、会話が止まります。お互いに旧知の友として語らっていますが、一方は魔王軍、もう一方は科学者ルビスの使い。かつての友は、いまや刃を向け合う敵同士となっていました。

「友よ、すまない。ヒミコのネクロマンシーでアンデッド化した私は、奴の命令に逆らえんのだ」

 かつての友にわびながら、サイモンが鞘からガイアのつるぎを抜きます。怪傑カンダタも、イメージのチカラを練り上げて両の手に戦斧と丸盾を具現化させます。ここでもやはり、アバター体で活動していました。彼の本体はどこなのでしょう?

「サイモンよ、心配無用だ。お前はここで私が止める」

 怪傑カンダタvs地獄の剣士サイモン。上の世界でも、トップクラスの猛者同士が激しく火花を散らす戦いが幕を開けました。

 名剣ガイアのつるぎを含めた、6本もの剣を自在に振るうサイモンの剣技は生前より大幅に強化されています。接近戦は不利だと、カンダタも両手をクロスさせてバギ系最上級の呪文「バギクロン」を唱えますが、決定打にはなりません。バギのサイクロンで、バギクロン。

「このチカラさえあれば、ピサロにもおくれはとらなかったものを!」
「インコの民を想う『黄金の精神』こそ、お前のチカラだったはずだ」

 身体だけでなく、友の心まで闇に染めつつあるヒミコのネクロマンシーに怪傑カンダタが間合いをとりながら、静かに諭すように告げます。サイモンのことをここまで知る彼の正体とは、いったい誰なのでしょう。

「間合いをとっても無駄…いや、墓穴を掘ったなカンダタよ!」
「何っ!?」

わしは予言者。そなたらが来るのを待っておった。
魔王の神殿はネクロゴンドの山奥!

やがてそなたらは火山の火口にガイアのつるぎを投げ入れ……
自らの道をひらくであろう!

 ヒミコもその昔、占いを得意としていた者。ガイアのつるぎをベスビオ山の火口に投げ込めば、誘発された火砕流によってロマリアはふたたび、一夜にして滅びる。その予知を得た上で、地獄の騎士サイモンにロマリア攻略を命じたのです。

 ドラクエ3原作では、ネクロゴンドへの道を開くためのキーアイテムが。魔王軍の手によって、シャルロッテたちのロマリアを滅ぼすために使われてしまいました。

「さあ勇者よ、急ぐがいい。もはや猶予は無いぞ…!」

 サイモンの手を離れて、火山の火口へ落ちてゆくガイアのつるぎ。絶体絶命のピンチです…!!


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夢を渡る小説家イーノ
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