商人のDQ3【69】ダイヤモンドの騎士
「ジュエルワームか。踊る宝石たちを食い尽くしたヤツに相応しい名だな」
魔王軍の手に渡らぬよう守り続けてきたダイヤオーブを、宝石が大好物の巨大なモンスターに食われてしまったと嘆く、大臣の亡霊と。彼の話を聞く勇者アッシュ一行の前に、意外な人物が姿を現しました。
姿こそ、ネクロゴンドの洞窟に現れる六本腕の骸骨に似ていますが。その身にまとうオーラは、完全に別格です。魔王軍幹部の風格。
「あなたは…地獄の騎士サイモン!?」
「うわさは聞いた。さらに強くなったな、勇者アッシュよ!」
ドラクエ3の原作では、すでに故人となっている勇者サイモン。彼の直接の出番は、ほこらの牢獄でガイアのつるぎのありかを教えてくれるだけでしたが。
この世界では本人の意思に反して、ヒミコのネクロマンシーでアンデッド化させられ、地獄の騎士として使役される悲劇の人です。その役回りは漫画「ダイの大冒険」に登場する「地獄の騎士バルトス」そのまんま。
「なるほど、魔王軍もジュエルワームには手を焼いていよう」
「その通りだ、アミダおばば。良き仲間に恵まれたようだな」
サイモンとおばばが言葉を交わします。おばばは魔王軍にいた頃、彼と面識がありました。
「おおっ、なんかカッコいいガイコツさぁん!?」
「彼女は…本当に人間なのか? エルフではないのか」
魔王軍がロマリアを襲った際、彼は火山にいたと話を聞いて。勇者の活躍を歌にしたことのあるエルルが、好奇心を宿した瞳でサイモンを見ます。
サイモンもまた、常人離れしたエルルの感性と背中の羽に不思議なものを感じていました。
「元勇者だけあって騎士道精神を備えたおぬしが、ヒミコの命令で非道な作戦を実行せねばならぬ原因を作ったのは、わしじゃ。詫びても許されぬよ」
ヒミコ復活の儀式に関わったことに、ずっと良心の呵責を感じてきたおばば。ロマリアでは対面の機会がありませんでしたが、秘めた胸の内を目の前の騎士に明かします。
「そのことだが。私を縛るヒミコのチカラは、いま一時的に弱まっている」
「なんじゃと!?」
おばばが、驚きの表情をあらわにします。明らかに、魔王軍内部で何かがあった。
「アッシュとあたしたちが、夢の中でバラモスをボコった影響なの?」
「その通りだ、ベナンダンティの娘よ」
マリカの質問にも、正直に答えるサイモン。
「ヒミコは、短期間で爆発的に成長する勇者に対抗すべく。ジパングの黄泉の国へ降りて、死者の女王イザナミのチカラを得ようとしているらしい」
マスターが異世界に渡ったせいで距離が遠くなり、一時的にヒミコからの影響が弱まっている。だからこうして穏やかに話していられると、サイモンは説明してくれました。
「ジパングの大公ヒデヨシがダーマ神殿を攻めようとしてるって、アガルナの塔で会った踊り子さんが教えてくれたわ。ヒミコまで留守なら、その間にパープルオーブを奪還する好機かも」
マリカの脳裏に、電球のような閃きが。だんだん、賢者が板につき始めていますね。
「どうやら、本当のようじゃな。ヒミコのネクロマンシーが万全であれば、わしらにわざわざ情報を与えるマネもできぬはず」
「さすがに私も、魔王軍を直接裏切る真似はできない。しかし、共通の敵であるジュエルワームを討伐するくらいなら、手を貸すことも可能だ」
魔王軍幹部からの、思わぬ共闘の申し入れ。同時にそれは、彼らも次第に余裕を失い、窮地に陥りつつあることを意味していました。
「分かりました。廃坑内でジュエルワームを倒すまでの間は、サイモンさんの申し出を受けましょう。利害は一致していますからね」
「まさか、勇者と魔王軍が共闘する姿を見る日が来るとはのう」
サイモンの提案を受けることにしたアッシュを見て、大臣の亡霊があっけにとられた顔をします。
「なら、まずは笛を吹きましょう」
マリカが、ベルトポーチから山彦の笛を取り出します。今回、ヴェニスに残るシャルロッテからオーブ探しのために預かったものです。
オーブを飲み込んだジュエルワームの居場所を探るには、オーブの大体の位置が分かる山彦の笛を吹くのが一番。原作でいう「船乗りの骨」のようにオーブのある方角を歩数で教えてくれる感じでしょうか?
「いまは、近くにはいないみたい」
山彦の笛についた6つの宝石飾りのうち、ダイヤオーブを示す透き通った石が微かに光を放っていますが、その反応は弱いもので。
「助かった。剣と鎧はこの近くに隠してあるから、先に回収しよう」
「えっ、そこ飛び降りるの?」
ヤスケの案内で、一行はまず稲妻の剣と刃の鎧をゲット。これらの装備も対ジュエルワーム戦で大いにチカラとなってくれるでしょう。
「剣のほうはいいとして、ずいぶんクセの強い鎧ですね」
アッシュ少年がちょうどいい岩に腰を下ろして、刃の鎧を調べています。彼の着ている歩行サポート鎧は、表面の装甲と…内部の歩行サポート機能をつかさどる衝撃吸収用アンダーウェアの二層構造。要はパワードスーツ。
装甲を刃の鎧に換装できないか、確かめているのです。
「なるほど、その鎧を上手く使えば。生身の人間でも私の六本腕に近い芸当が可能になるだろう」
ジュエルワームを倒すまで、一時休戦。地獄の騎士サイモンが、アッシュの作業の様子を興味深く見守っています。
「ええ。全身刃物だらけの鎧ですから、乱戦の中に飛び込んで縦横無尽に動き回るだけで全ての敵を切り裂くことでしょう」
別の世界ですが、よく似た運用思想の人型兵器があります。圧倒的な物量の敵相手では、すぐに弾切れを起こす射撃武装は使い勝手が悪い。よって、全身を刃物にすれば弾薬を気にせず継戦能力を高められる。まさに刃の鎧。
ドラクエの世界で、その設計思想を瞬時に見抜くアッシュ少年。やはり、ただものではありません。勇者よりも、発明家やエンジニアが似合うほど。漫画「ダイの大冒険」に例えるなら、間違いなくアバン先生タイプです。
「私の息子も、機械いじりが好きだった」
「サイモンさんにも、お子さんが?」
私はサイモンの息子。行方知れずになった親父を探して旅をしている。
噂ではどこかの牢屋に入れられたと聞いたのだが……。
いまは骸骨のサイモンも、元は人間。妻子もいたのでしょう。アッシュが父親としてのサイモンを想像します。やはり、自分の父オルテガに似ていたのでしょうか。
「私はピサロの奸計で命を落としたが、妻と子は無事に逃げてくれただろうか。機械に詳しい息子ならば、どこかで時計職人にでもなっているかもな」
こちらの世界では、サイモンの息子はサマンオサ城下町にいません。親子ともども、支配者ピサロに命を狙われているでしょうから。
「もし旅先で会うことがあれば、ガイアのつるぎを見せて。あなたはほこらの牢獄で亡くなったとお伝えします」
勇者であった父が、死後も魔王軍の手駒にされているなど。本人の名誉のためにも話せないと、アッシュ少年は配慮を示しました。
「ありがとう、勇者アッシュよ」
アッシュ少年が、鎧の調整作業を終えて立ち上がります。歩行サポート鎧の装甲は、刃の鎧に差し替え済み。高機動戦術のために、瞬発力を高める調整も施しました。
「さあ、ジュエルワームと戦いやすい地形を探しましょうか」
※ ※ ※
一方、その頃。エジンベアのお城で一人の青年が、国王に呼び出されていました。
「アーサーよ、海を渡りヴィンランドで、現地の脅威を制圧してほしい」
「愛機さえ万全なら、おやすい御用です」
アーサーと呼ばれた青年の装いは、どこぞのロボットアニメのパイロットスーツ風。明らかに何かの操縦士です。エジンベアの国家勇者アーサー。
(この依頼を達成すれば、母さんにも楽をさせてあげられる。サマンオサから逃れて、もう何年になるか。光陰矢の如しとは言うけどね)
ヴィンランドでの、エジンベアにとっての脅威とは。シャルロッテたちもヴェニスで準備を進める最中、ヴィンランドの南にある港町ボストンでは…大変な事件が起きていました。