【ベナンダンティ】5夜 証人喚問
「イーノをヴェネローンに『夢召喚』してほしい?」
「彼は重要な証人だと、『勇者の落日』の生存者から要請があったのです」
古代ギリシャ風の神殿。女神アウロラが白いネグリジェ姿の少女に頼み事をしている。
(だから、バルハリアに関わるなって言ったのに)
少女が下を向いて、ため息をつく。けれども、すぐに顔を上げて。
「あたしら『夢渡りの里』はヴェネローンと協力関係。お安い御用よ」
内心は複雑だが…立場上、断れないようだ。
数日後。クワンダ・アリサ・ミキの三人がヴェネローンの評議会に呼び出されている。評議員たちから、三人に厳しい視線が向けられるも。
「これは責任追及の場でなく、彼らは罪人ではありません。いいですね?」
アウロラが三人をかばうと。老齢の女性が助け船を出した。
「いいでしょう。まずは真相究明の優先を」
「ありがとう、エンブラ」
少し遅れて。白いネグリジェの少女がふわふわ浮きながら、イーノを連れて議場に入った。少女は『器』を使ってない幽霊状態だが、目には見える。
「イーノさぁん!」
「静粛に」
傍聴席から声を上げたのはエルル。しかし、エンブラと呼ばれた老齢の巫女に制止される。イーノがエルルを見た。
「いまは、成り行きを見守りましょう」
エルルの隣には、魔法使いらしき緑髪の少年。幾何学模様の入ったローブを身にまとい、小声で落ち着くよう促している。
(姉さんは『勇者の落日』で消息を断った。何か少しでも分かれば…)
「遺跡の探索は、途中までは順調だった。奴が現れるまでは」
「あれは『始まりの地』で倒されたはずの『ガーデナー』の首魁です」
「爆心地の近くほど『災いの種』の残滓が濃い。人の思念に形を得たか…」
淡々と、生存者三人の証言が積み上げられてゆく。
全てが凍った都市の遺跡で、冒険者のチームが道化の人形と交戦している。圧倒的なパワーを持つ道化は、冒険者たちを次々と氷漬けにして操り、同士討ちをさせている。凍ったままで柔軟に動く犠牲者たち…青い呪いのオーラと表現するのが的確なのか。
勝てないと悟った冒険者たちは、転移魔法での脱出を選択したようだ。だが準備に手間取っている。気安く行使できる類の術ではないらしい。
生還を果たせたのは、三人だけ。スパルタの猛将を連想させる屈強な男性とエルフのような緑髪の女性は、自らをしんがりを務めて未帰還となった。
「みなさんが脱出したあと、道化の人形は大きなレリーフの扉へ消えていきました。幽霊だから追跡できると思ったら、急に目が覚めて」
審理は何日かに分けて行われる。今夜の分を終えたイーノが、神殿の部屋でエルルやネグリジェの少女と話している。
「マリカさぁん、お久しぶりですぅ!」
「エルル、あんたがこいつのお世話役?」
何か考え事をしているイーノ。そして、少ししてから急に言葉を発した。
「次元の違う戦いでした。未熟者では足手まとい。クワンダさんやアリサさんは稽古をつけてくれそうにないし、ミキさんの格闘フィギュアスケートはとても真似できる代物じゃないですね」
イーノの意図を察した少女マリカが、あきれた様子で腕を広げて。
「あんたまだ、勇者ごっこやりたいわけ?」
「地球に奴らがいると言われたら、なおさら」
残念ながら、私たちの世界に特撮やアメコミのヒーローは実在しない。なら誰が、人間社会の闇に潜む奴らと戦うのか。
「それならぁ、いい人がいますよぉ!」
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