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商人のDQ3【53】勇者がバシルーラ

「すまない。私がついていながら」

 会議の翌日、怪傑カンダタがいつものアバター体でシャルロッテとマリカの前に姿を現しました。いつもとは様子が異なり、ヒーローらしい余裕がありません。ひどくやつれています。

「何があったの!?」

 怪傑カンダタとアッシュ少年が、ランシールでアバター体の実体化を修行していて。それも完成に近づき、まもなくブルーオーブを持ち帰ろうという矢先の出来事。マリカも心配になります。

「ランシールでの試練の最中、突然魔王軍の道化が現れ。『メアルーラ』でアッシュを、ブルーオーブごとどこかへ飛ばしてしまったのだ」
「魔王軍の道化、でちか!?」

 シャルロッテの脳裏に、先日見た故郷の夢が蘇ります。街が魔物に襲われる中、両親を求めて外に出てしまった幼いシャルロッテと、彼女に動揺した隙に道化の手で一瞬のうちに命を奪われてしまった、彼女の両親。

 またも、あの道化はシャルロッテの大切な仲間を奪おうというのか。目の前が暗くなったようにさえ感じられます。

「メアルーラ…バシルーラの派生呪文よね。おばばに聞いてみるわ」

 マリカが、アミダおばばを呼びに行きます。

 アッシュ少年の寝室に、一同が集まっています。ベッドには、今も安らかに寝息を立てる勇者の姿が。それこそ、何事もなかったかのように。

「ねえ、起きなさいよ」

 マリカがアッシュ少年を揺すって起こそうとしますが、何をしても目覚めません。シャルロッテがくすぐっても。

「メアルーラは、対象の精神を『悪夢の彼方へ』飛ばす呪文じゃ。ラリホー系とは根本的に異なり、並の人間が受ければ二度と目覚めぬ禁忌の呪文」

 悪夢=ナイトメア+ルーラ。おばばの説明を聞いて、マリカが言葉を失います。まるで、家族を失ったかのような喪失感。もしかすると、それ以上。

「アッシュが実体化を維持して踏ん張ったから、ブルーオーブも一緒に飛ばされたようじゃな」
「しょんな!」

 茫然となるシャルロッテに、怪傑カンダタが声をかけます。

「いや、いい判断だったよ。魔王軍はオーブ奪取に失敗。その上、オーブの聖なるチカラで、彼はさほど遠くへは飛ばされなかったかもしれない」

 原作では、勇者は本編クリアまでバシルーラが無効でしたね。勇者はパーティから外せないので。こちらの世界では初めから勇者抜きで旅立っていますし、メアルーラがそれだけ特殊な呪文なのかもしれません。

「夢渡りで、アッシュを探しましょ!」

 マリカが、眠るアッシュ少年の手に自分の手を重ねて宣言します。

「シャルロッテちゃんも行くでちよ!」

 椅子の上から、シャルロッテがアッシュ少年のベッドに飛び乗ります。

「そうじゃな。アッシュに縁の深い者なら、夢渡りで行く先をたどれるかもしれん」
「それならマリカシャルロッテ、俺と…怪傑カンダタあたりか」

 アミダおばばの推測に、クワンダアッシュを探しに行くメンバーの候補を挙げます。

「クワンダ殿、かたじけない」

 怪傑カンダタが普段と違う神妙な様子で、クワンダに感謝を伝えます。

「お嬢様、留守はお任せください」
「わしらも、おるからのう」
「ちょっとぉ、エルフの女王様に聞いてきますぅ!わたしぃも酒蔵の娘としてぇ、道具屋のハティさぁんに何度かお金代わりのお酒納入してますしぃ」

 メイドのおキクさんが、あるじのシャルロッテにあいさつすれば。アミダおばばとエルルちゃんも元気付けてくれました。
 ノアニールでエルフの呪いにかかって寝ていた経験のあるエルルは、目覚めない勇者の件についてエルフの女王に相談するようです。この世界では、ノアニールの住民と隠れ里のエルフが過去を越え少しづつ交流を深めつつあります。スパロボ展開!

 さらに、エルルちゃんは止まりません。

「おばばさぁん、わたしぃとヤスケさぁんにもぉ、夢渡りの稽古つけてくださぁい!」
「テドンのオーブを探すには、確かにヤスケの道案内が必要そうじゃな」

 魔王軍の道化が放ったメアルーラで、精神がブルーオーブごとどこかへ飛ばされたアッシュ少年を探すルートと。
 テドン出身のヤスケに、エルルアミダおばばで夢渡りの稽古をつけて。グリーンオーブ&ダイヤオーブを探すルートが立ち上がりました。

 お金に厳しいDQ3では、オーブの半分以上が原作とは違う入手経路をたどることになりそうです…!


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夢を渡る小説家イーノ
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