お茶の話を少し
新年になると、日本人は、なんでもかんでも「〇〇始め」だの「初〇〇」だのと呼び、普段何気なく行っている様々なことを一度リセットして、新たな気持ちで始めることになっている。
「茶道」では、「初釜」と呼ぶのだそうだ。
初釜は、年明けの「稽古始め」だが、実際にはふだんのようなお手前の稽古はない。生徒全員で先生と新年のご挨拶をし、おせち料理をごちそうになり、それから先生のお手前でお茶をいただく。つまり、新年の始業式である。
森下典子著『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫、2008年)
と書き出してみたものの、私は茶道の経験など、全くない。
普段は市販のペットボトルのお茶か、そうでなければ、風情のないカップ(湯のみ茶わんなどもちろん持っていない)に安物のティーパックを入れてお湯を注ぐだけ、というものだ。
だからこそ、余計に「お茶」というものに憧れを持つのかもしれない。
そんなわけで、「お茶」について、手持ちの本から漁ってみる。
お茶の種類
まずは、京都寺町「一保堂茶舗」というお店の女将・渡辺都さんの著書『お茶の味』(新潮文庫、2020年)で、お茶の種類を教えてもらう。
抹茶や玉露、煎茶など、日本茶の種類を耳にしたことがない方はまずおられないでしょうけれど、その違いを説明できる方は案外少ないのではないかと思います。
まさに、この私である。
煎茶は太陽の光をしっかり浴びて育てられ、抹茶や玉露は茶摘みをする前の二十日間ほど茶畑に覆いをして、太陽の光を遮って育てられます。
抹茶や玉露は、四月上旬、その年最初のお茶の新芽が芽吹いてから、茶畑に覆いをするらしい。
そうすることによって葉が生長してゆくにつれ薄く柔らかくなり、色は緑濃くなってゆき、渋みのもととなるカテキンの生成が抑えられる一方、旨みのもとであるテニアンが多く生成されるようになります。新芽が充分生育したら、茶畑全体が覆われた薄暗いなかで茶摘みをし、それを製茶工場へ運び、すぐに蒸して酸化作用を止めます。
これにより、『日本茶の特色である、葉の緑色がそのまま残る』のだそう。
抹茶の場合は、玉露や煎茶とは違い、蒸したあと「揉む」工程は経ずにそのまま乾燥させ、茎や葉の軸、葉脈を取り除き、茶葉の葉肉の部分だけを集めます。こうしてできたものが碾茶(てんちゃ)です。(略)これを石臼で挽くと抹茶になります。
なるほど、摘み方や製茶の工程などで違いが出るわけか。
それぞれの飲み方
渡辺都さんは『日本茶にはいくつか種類があり、また産地によってもそれぞれ特徴がありますから、どのお茶でも最初から皆さまの口に合うとは限りません』と前置きをしながら、様々なお茶の飲み方を紹介してくださっている。
肌寒くなると、食事のお伴には熱々のお茶がふさわしいように思います。熱湯でさっと淹れられる柳類のお茶がおすすめです。これは煎茶用として作られた茶葉のなかで、すこし大きくなったものを集めたもので、熱湯でさっと出していただけます。煎茶風の軽い風味で、気軽に召し上がっていただけるお得なお茶です。
この柳類の茶葉をゆっくり過熱して焦がしたものがほうじ茶で、洋風のおかずにもよく合います。すぐきやどぼ漬け(ぬか漬け)などで、お茶漬けにするのにもピッタリです。うなぎの佃煮やマグロのヅケや鯛のお茶漬けには、玉露や煎茶の粉茶か茎茶(雁ヶ音)があいます。
渡辺都さんは、こんなアドバイスもしてくださる。
美味しく淹れられない!
という方のお話を聞いてみると、
ほとんどはお使いのお茶の葉の量に
関係しています。
(略)
小さじ一杯のお茶っぱしか使わない。
そんな淹れ方では
"お茶風味のお湯"になってしまいます。
「お茶は、水からでも淹れられます」
とお伝えすると「えっ!」と驚かれる方が
たくさんいらっしゃいます。
お茶はお湯で淹れるもの、と決めつけず
ぜひ水でも淹れてみてください。
いつもより甘み際立つお茶を楽しめます。
煎茶や玉露の抽出時間は
常温の水なら約十五分がめやすです。
しかし、渡辺都さんによると『でも、一番大切なコツは『美味しくなぁれ!』と想う気持ち』だそうである。
お寿司屋さんのお茶
渡辺都さんは、お寿司屋さんのお茶をこう書いている。
よくお寿司屋さんでは大きな湯飲みに、煎茶や玉露の粉末を出したお茶がたっぷりと入って運ばれます。(略)わさびなどと同じように生臭さを消す役目もあるように聞きました。
というわけで、佐川芳枝著『寿司屋のおかみさんおいしい話』(講談社、1996年)を開いてみる。
寿司屋のお茶はおいしいと、よく言われるが、特別、高級なお茶の葉を使っているわけではない。昔から、寿司をおいしく食べていただくためには、あまりよいお茶の葉を使わない方がよいと言われてきた。煎茶の高級なものとか玉露などには、テニアンという甘みの成分が入っていて、それが味覚を鈍くし、寿司の味を損ねてしまうからである。
寿司屋で使っているのは粉茶が多い。粉茶を竹で編んだ茶漉しに入れ、上から熱湯を注ぐ。この方法だと、味と香りがすぐに出るので、
「アガリ一丁っ」
と言われたら、間髪を入れずにお出しできる。
佐川芳枝さんによると、お寿司屋さんのあの大きな湯のみ茶わんにも理由があるらしい。
寿司を食べたあとの、口の中に残った魚の味をお茶で洗い流し、また次の魚を味わっていただくために、熱いお茶をたっぷりお出しするのだ。
何だか、お寿司が食べたくなってきた。
とはいえ、私がお寿司屋さん行くと、お茶よりもお酒に手が伸びてしまうのだが…
茶筒
家でお茶の葉を保存するのに使われるのが、「茶筒」である。
現在では廃れかけている、お中元やお歳暮で贈り贈られてきたお茶も缶の茶筒に入っていた。
渡辺都さんは、『現在のように抹茶を缶に入れて売り始めたのは昭和十年頃のことだったようです』と言う。
その茶筒にこだわりを持つのが、平松洋子さんである。
平松さんの著書『買えない味』(ちくま文庫、2010年)には、こう書かれている。
台所に立って戸棚を開く。ずらりと並ぶ茶筒。さて、どれにしようーいちいち開けなくとも、中身は手が覚えている。そば茶。煎茶。玉露(略)ここ何年来お馴染みの面々だ。茶筒に触れるその瞬間、じつはもうお茶の時間は始まっている。句読点のつぎの始まりはスパッと鮮やかにいきたくて、だからこそ私は使い心地のよい茶筒を揃えておきたい。
茶筒を揺らせば、しゃしゃっと機嫌のよい軽やかな音。ぽん、とふたを開ければ、いつもの茶葉の香り。そんな茶筒が味方についていれば、まずは太鼓判を押されたも同然。お茶の時間は年中いつでも気持ちよく幕を開ける。
とはいえ、茶筒に入れておけば大丈夫、というわけでもなさそうである。
渡辺都さんによると、『保存の仕方の多少の差はあれど、お茶っぱも私たちと同じように年をとります。豊かな風味を楽しむためには賞味期限内にどうぞ』とのことである。
お茶を飲もう
最後に渡辺都さんの言葉を。
抹茶をいただくと、
スッと背筋が伸びるような気がします。
口の中に広がる贅沢感や
充実感もなかなかのもの。
こんな気持ち、普段の暮らしのなかに
気軽に取り入れてみませんか。
あ!今日は抹茶にしよう、
そんな心持ちで付き合ってみてください。
普段の読書のお供はコーヒーが多いが、たまにはお茶にしてみようかと思う。とは言え、家にあるのはティーパックだけど。