2023年8月10日~14日 酒。読書。観劇。それだけ in 京都(夏休み前半)

私の「note」のプロフィールは、『酒。読書。観劇。それだけ』とそっけない、というか投げやりな一文だが、それで充分説明に足りている。

たとえば、2023年8月10日から14日にかけて……

2023年8月10日

17:50 東京駅

18時発の「のぞみ号」に乗ろうとホームに行くと、結構な列ができている。
同じホームの逆側、17:51発の「のぞみ号」が定刻を過ぎても止まっている。
「信号が変わり次第発車します」
信号が変わらないうちに、と乗り込み、最初に見つけた通路側の空き席に迷わず座ると、タイミングよく新幹線が出発。

東海道新幹線の車内アナウンスの際の音楽に違和感がある。
そうか、そういえば音楽が変わったとニュースで言っていた。
ワゴン販売が来たらビールを買おうと思い、そうか、これももうすぐ無くなるんだと思い至る。

まぁとにかくワゴン販売が来るまでの間、森知子著『カミーノ! 女ひとりスペイン巡礼、900キロ徒歩の旅』(幻冬舎文庫、2013年)を読み始める。
その日の昼休み、会社近くの書店で「旅の友」として、何だかよくわからず「旅の本」を買ったのだが、車内の指定席が混んでいたのか知らないが、ワゴン販売は京都に着くまでに脇を通らず、結局、本文を読み終えてしまう。

「カミーノ」、正確には「カミーノ・デ・サンティアゴ」。本では、こう説明されている。

スペイン北西部のガリシア地方にある大聖堂、サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して歩く巡礼のこと。(略)巡礼の歴史は1000年以上。サンティアゴまでのルートはヨーロッパ各地から延びているが、フランスからピレネー山脈を越えて北スペインを歩く"フランス人の道"(810km区間)がもっとも有名で、世界遺産にも登録されている。

つまり、明確なゴール地点が定められているという違いはあるが、日本で云えば「四国八十八カ所巡り」で、「ペリグリーノ(巡礼者)」は「お遍路さん」といったところだろうか。
もちろん、宗教や歴史の上からその意味合いは違っているのだろうが、「ペリグリーノ」も「お遍路さん」も、己の中の抱えきれない「何か」を背負って歩いていることに違いはない。
最終日のアイリーンの『ファック・オフ!(消えうせろ)』からの展開が、まるで熱血青春ドラマのようであり、そして、これまでの旅には必然の意味があったことを示唆していて、物凄く感動してしまったのだが、私のこれからの「旅」(と言っていいのかはわからないが)には、何か必然の意味が隠されているのだろうか。

20時半、四条烏丸の「チェックイン四条烏丸」にチェックイン。

部屋に入るなり、「なごみ鉄板ぞろんぱ」に電話。
事前に予約して飲みに行くのは本意ではないのだが、この暑さではお店に断られ続けて放浪している間に確実に死んでしまう、と思い、今回の旅ではポリシーを曲げて、積極的に電話しようと、旅に出る前から思っていたのだ。
「もしもし? どうしはりました?」
お店の名前を告げられると思っていた私は、掛け間違えたのかと動揺したのだが、何のことはない、お店の電話に私の携帯番号が登録されていたのだ。
……というか、何故、ただの観光客の電話番号が登録されているのか?
とはいえ、こうなれば話は早い。
「9時に行く」とだけ告げて電話を切り、ホテル最上階にある大浴場へ向かう。
旅の汗を洗い流し、ビールが恋しくなるまで温まり、お店へ向かう。

21:00 和鉄板ぞろんぱ

「いつ(京都に)来はったんですか?」
「今さっき着いたとこ」
こんなやりとりをしつつ、ビールを注文。

誕生日ビール

「俺、今日、誕生日なんだけど」
「なんちゃいになったんでちゅか?」
店長がバカにしたように聞く。
「ごじゅうちゃんちゃい(53歳)でちゅ!」
……嗚呼、以前の拙稿で、居酒屋探訪家の太田和彦氏の著書を引き合いに出し、

『人間も五十を過ぎ』てしまった今、私はまだまだ『残りの人生、居酒屋でゆっくり酒飲んですごそう』という気持ちにはほど遠いところにいるが、時折「師」の言葉を思い出し自戒しながら、少しずつ『居酒屋で本来の自分をみつけてゆ』こうと思っている。

などと書いた自分が恥ずかしい……


平政のお刺身

「今日、誕生日なんで、しょうゆ多めに入れときました」
どこまでもバカにされ続ける、53歳……

『喜楽長 Second』(滋賀・喜多酒造)

22時過ぎにお店を出て、ホテルへ向かう。
……が、その前を素通りし、四条通を超えてしまう。

22:30 五黄の寅

座敷席はグループで賑やかだが、カウンター席にはお客はいない。
ホールも、いつものアカリさんじゃない、別の女性が1人だけ。

仕切り直しのビール
『玉川 アイスブレーカー』(京都・木下酒造)に氷を浮かべて

静かに呑もうと思っていたのだが、現店長の男性が私を覚えていてくれたことに気を良くし、ここでも誕生日だと告げて、店員さんたちと乾杯してしまう。
「アカリさんがいた時に、お見掛けしたことがあります」
と、面識がないと思っていたホールの女性店員さん。
……なんだ、バレていたのか。

2023年8月11日

『カミーノ!』、読了。
昨日、既に私の「誕生日」はこの「旅」の必然の意味ではなさそうだ、ということが暴かれている。この数日の京都で、私の「必然の意味」は見いだせるだろうか。

などと考えながら向かった9時過ぎの大浴場は、誰もいない。
折角のお盆休み、こんな時間までホテルでだらだらしている観光客はいないということだろう。
関西テレビの「よ~いドン!」を見て、11時過ぎにホテルを出る。
唯一の観光と思い、京都御苑に行ってみるが、大失敗。
とにかく暑い、いや、もはや「熱い」のレベルだ。
なのに、何故、こんなにも人がいるのか? とても不思議。

11:45 カプリ食堂 VERDE

京都御苑の北側近くの住宅街にあるお店。
観光客の賑わいもなく、かと言ってガラガラでもない、程よい落ち着き。
「まぁ、ウチはこんなもんですよ。でも、(本店の)五条は、ヤバイんとちがいますかね」
と、オーナーのようへいさん(またの名を「カナモレモン」)。

本日1杯目のビール

「祇園祭は来なかったんですか? まぁ、それが正解ですよ。今年の祇園祭、見たことないくらいエグかったっスから」
祇園祭の時、出店を出したらしい。
「途中で、自分失くしましたから。もう、何してんのか、お客さんが何を言ってるのか、わからんようになって……。あんなん、初めてですわ」

「結婚して何年目だっけ?」
ビールからハイボールに切り替えて、すでに4杯目に突入している。
「もう、8年くらいですかね」
それがどうかしましたか?くらいの気持ちでようへいさんが答えるが、私は真剣に聞いたのだった。

当時行きつけだった飲み屋で「京都に行くなら」と紹介してもらったのが、ようへいさんと結婚する前の奥様がやっていたバー。
お二人は京都の人だが、奥様が以前東京で働いていて知り合いが多いことから、東京でも披露パーティーが開かれ、何故か、私がそこに呼ばれてしまったのだった(奥様はその後バーを閉じ、ようへいさんと新しく「カプリ食堂」を始めた、というワケ)。
お二人を紹介してくださった女性(私と同世代)が、悪性のがんを患われた、そう長くは生きられないだろう。
私は、それを伝えるためにこのお店に来たのであり、それも一つの「必然の意味」だと言って良いのかもしれない。

14:45 ひっとぽいんと

ドアを開けて、お客さんがいないことを確認して、一気に言う。
「ごめんください。どなたですか? 昨日誕生日だった、ただの通りすがりの旅人です! お入りください。ありがとう」
マスターの安原氏は、お約束のズッコケをしてくれることもなく、冷静に「桑原和男さん、亡くなりはったな」と一言。
そして、無言で何やら準備を始める。

お約束の「誕生日テキーラ」

一気に飲み干し(良い子は真似しないように!)、またも、太田和彦氏に関する拙稿を思い出す。もしかすると、私の「必然の意味」とは、この拙稿と向き合うことではないのか、と考えてみたりするが、テキーラを一気飲みした後では、もう難しいことは考えられない。
ビールを注文し、互いの近況報告などする。

一旦ホテルに戻り、「風呂上がりのビール」目当てに大浴場に行く。結果的に、これが裏目に出ることになる(というか、そもそも飲酒後の入浴は危険だ)。

17:00 ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店

おでんがメインの立ち飲み屋さん。

風呂上がりのビール
厚揚げとゴボ天

カウンターの向こう側には、愛嬌たっぷりの女性店員さん。
お酒好きらしく、何がきっかけだったが、互いのお酒の失敗談で盛り上がる。

『三井の寿 純米酒 -Coccinella-』(福岡・みいの寿)

遅く来た店長らしき男性が、「前に来てくださいましたよね。なんか、記憶があるんですよ」とおっしゃるので、「GWに」と応える。

『加茂錦 荷札酒』(新潟・加茂錦酒造)

トイレで用を足すついでに、「串鉄板ぞろんぱ」に電話。

18:30 串鉄板ぞろんぱ

「誕生日やったそうで」
席に着くなりそう言われる。
……なんだ、バレていたのか。
「(系列の「和鉄板ぞろんぱ」から)情報回ってるんで」

ビールを飲み、「分福」を注文したところまでは覚えている。

『文福』(栃木・分福酒造)

この写真のタイムスタンプが、19:38。
気がつくと、ホテルで寝ていた……

2023年8月12日

毎度おなじみ(?)の洗濯。各部屋に無料の全自動洗濯機と浴室乾燥機が備わっているこのホテルは大浴場もあって、とても気に入っている。だから、近年はもう京都の定宿のようになっている。

洗濯を終え、浴室乾燥機をセットし、ホテルを出発。
お昼前の錦市場は混んでいる。ほとんどが外国人のようだが、日本人もそれなりにいるようす。
四条河原町の交差点を東に渡り、サーティーワンアイスクリームの角を曲がる。
この河原町通と木屋町通をつなぐ細い路地に、京都の名ビアホール「ミュンヘン」がある。

12:15 ミュンヘン

ビアホールらしく、ビールの量の種類が多い。
「生ビールを中ジョッキでください」とはっきり注文。

中ジョッキ(630ml)。突き出しはポップコーン

お昼を過ぎたからか、続々と一人客(それも老年男性ばかり)がカウンターに座り、慣れたようにビールを注文。
私に右隣に座った方は、「とりあえず、中ジョッキ―ね」。
その後に来て私の左隣に座った方は、きっぱり一言「中!」。
皆、思い思いにビールを飲み、アテをつまみ、と楽しんでいる。私はアテも注文せず、1杯のビールで退店。
ここ数日、お酒とおつまみしかお腹に入れていないからか、どうにも「ご飯」が食べたくてしかたがないのだ。

もと来た道を引返し、律儀に錦市場も通る。さっきよりさらに混んでいて、時折進めなくなる。
どうにか通過し、そのまま錦通りを西に。大丸の裏手にあるビルの階段を上がる。

13:15 73(シチサン)カレー

初めて入るお店で、しかも5階にあるので、とても不安。
エレベーターもあるが、いつでも引返せるように外階段を上がる。
……と、階段は4階までしかない。どういうことだ?

と思ったら、ドアがあった。ますます不安……

恐る恐るドアを開け、ゆっくり階段を上がる。
ロフトのような造りで、だから階段を上がったところにドアはない。
もう逃げられない。観念してカウンター席の真ん中に座る。
カウンター席の両端は一人客の女性たちが座っていて、テーブル席は2人組の女性。大型テレビでは高校野球が流れている。
女性店員さんに注文を伝えると、奥から店長らしき男性が出てきて、「『五黄の寅』でお見掛けしたことあります」。
……なんだ、バレていたのか。
そう、このお店は、一昨日行った「五黄の寅」の系列店で、昼間はカレー屋、夜はバーになるお店。

「ポークビンダルー」という名前

夏の暑い日にはカレーが合う。ご飯も食べて気持ちが回復。
ホテルに帰って少しウトウトし、15時半過ぎに大浴場行き、まだ日の高い街へ繰り出す。

16:00 五黄の寅

毎日15時からやっているお店で、重宝している。
とはいえ、一昨日も来たしなぁ、と少し躊躇しながら中を覗くと、現店長の男性が目ざとく見つけて、親指と人差し指で輪っかをつくる。つまり「OK」ということか。……って、何が「OK」なのか?

お客のいない店のカウンター席に座り、ビールを注文。
「ちなみに、先にどーでもいい情報を伝えておきます」
と、店長。何事か?
「ボク、めっちゃ二日酔いです」
……本当にどーでもいい情報。
昨日、営業後に知り合いのバーに行ったそうで……
「原因は空きっ腹だと思います。何にも食べずに、祝い事の集まりやったんで、断れずに飲んでしまって……こんなに二日酔いになったの、めっちゃ久しぶりですわ」
と、そこへウーバーイーツの配達の人が。
飲食店の人がウーバーイーツの人にモノを手渡しているのはよく見かけるが、モノを受け取っているのは初めて見た気がする。
「というわけで、"まかない"つくるのがしんどいんで、系列店のカレーを注文しました」
何という偶然。
「昼、そのお店行った!」
「ほんまですか?美味かったですか?」
彼によると、1カ月ごとにメニューを変えているそうで、「大抵は美味いんですけと、たまに『何でこの味にしたん?』っていうのがあって」
もちろん美味しかったということと、女性客が多かったということを告げると、「つい最近なんですよ。それまでは、カレー好きのおっちゃんらばっかりやったんですけど……。なんか、SNSってすごいですね」

そんな話をしていると、一昨日の女性店員さんが出勤。
「あっ、来てくれはったんですね。嬉しいです」
そう言われてしまっては心苦しいのだが、私はもう次のお店に行くのです。

17:30 大八寿司

「ご飯をお腹に入れる日」
ということで、お寿司。

「もう、結構長いですよね」
私よりひとつ年上の大将が言う。
このお店とは8年ほどのお付き合いになる。

『不老泉』(滋賀・上原酒造)
京都なので「鱧おとし」を注文

それにしても、ここの手書きメニューの書体は独特でいつも感心するのだが、こういう書体の流派があるのだろうか?今度聞いてみよう。

19:30 ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店

今日も、このお店に来てしまう。
昨日と同じ女性店員さんが明るく迎えてくれる。

『かたの桜 生酛』(大阪・山野酒造)
はんぺんを猫の形にくり抜いた、その名も「にゃんぺん」
(と、ウィンナー)

何を話したのか忘れてしまったが、とにかく店員さんたちと盛り上がり、結局、22時過ぎまでいたのだった。

2023年8月13日

9時半過ぎに大浴場に行き、そのままずっと部屋でだらだら過ごす。
13時過ぎにノロノロとホテルを出て、またも錦市場を歩く。こんなに人が多く、しかも人気の京都、定番の観光スポットである錦市場で、知り合いに会わないことが、毎度不思議で仕方がない。
昨日と同じルートを通り、ミュンヘンの前を通過し、木屋町へ出る。
そういえば、数日前のネットニュースで、乃木坂46の久保史緒里さんが先斗町に行ったとか何とかという記事を見た。
彼女と先斗町の縁は、彼女が2021年に主演した舞台『夜は短し歩けよ乙女』にある。

これは私が初めて夜の木屋町から先斗町界隈を歩いた、一晩かぎりのお話です。
(略)
通りかかった四条木屋町の界隈は、夜遊びにふける善男善女がひっきりなしに往来していました。その魅惑の大人ぶり!この界隈にこそ「お酒」が、めくるめく大人世界との出会いが私を待ち受けているに違いないのです。そうなのです。私はわくわくして、喫茶「みゅーず」の前で二足歩行ロボットのステップを踏みました。
私は知人に教えられた、木屋町にある「月面歩行」というバーを選びました。その店はありとあらゆるカクテルが三百円で飲めるという、御財布への信頼に一抹のかげりある私のような人間のために神が与えたもうたお店だったからです。

原作(森見登美彦著、角川文庫)

「黒髪の乙女」が訪れる「月面歩行」は、ミュンヘンを抜けた先にある。

moon walk 四条木屋町店

私はもちろんそのお店には行かず、近くの「京都スタンド Kiyo Kiyo」へ。

14:00 京都スタンド Kiyo Kiyo

看板にもあった「選べる千べろ」で、生ビールと鶏のから揚げを注文。

先客は2人組女性たち。
ここでも高校野球を見ながらビールを飲む。
と、「黒髪の乙女」のような女性が1人で入店。
そういえば、「黒髪の乙女」は『めくるめく大人世界との出会い』などと言っていたが、さっき私は、真っ昼間の木屋町で「昼キャバ」のキャッチに遭遇していたのだった。
乙女の純真さが羨ましい……

15:00 ひっとぽいんと

「珍しく昨日、来んかったな?」
安原氏が言う。
「ここのところ、京都に来るたびにこの店に皆勤してて、それはそれでいいけど、どうも1日のスケジュールがこの店に縛られてる気がして、行かない日も作ってみようかと」
「それもそやな」と、安原氏も納得。

「おでん食べる?」
常連さんに頼まれておでんを作ったらしい。
「いらん。もう2日連続、おでん食べてるし。しかも、立ち飲みで」
「もしかして『ぽんしゅや』?」
なんだ、安原氏も知ってたのか。

「台風来てるやん?」
そう。
台風7号がノロノロと、しかし、じわじわ確実に近畿・東海地方に迫ってきている。
私が帰京する14日の計画運休はなくなったようだが、それでも、指定席を取っている20時発の新幹線が運航する時刻に、どうなっているかは予測がつかない。予定を切り上げて、14日の午前中に京都を発った方がよいかもしれない。
「まぁ、明日も待ってるで」
安原氏は、そう言って送り出してくれる。

「黒髪の乙女」も歩いた先斗町を下り、四条大橋を渡る。
この暑さでは、鴨川の河原に座る名物の光景も見られない。

16:30 JAM

カウンターのドアに近い席に、外国人4人が座って「Japanese Sake」の飲み比べセットを賑やかに呑んでいる。
中国からの留学生の男性が、カウンター奥の席に案内してくれる。
まだ時間が早いからアルバイトの彼だけでやっているのかと思ったら、奥のソファー席からむっくりと店主の池田さんが起き出してきた。
「サボってました」

『蒼空』(京都・藤岡酒造)

「いつ帰らはるんですか?」
池田さんが聞くので、「明日の夜の新幹線を予約してるんですが……」と答える。
「明日、新幹線動くんですか?」と言いながら、スマホで検索し始める。
「なんや、明日の新幹線、結構空いてるんですね。勉強になりました」
何を勉強したのかはわからないが、今日の池田さんは、何かにつけて「勉強になりました」と言う。きっと、最近の彼の口癖なのだろう。
「となると、"大文字焼き"はどうなるんかなぁ」
大文字焼きは、毎年8月16日に"決め打ち"されている。どうなるのだろう?

1時間ほど、池田さんやアルバイトの彼と話し込み、お店を出る。
夕方、少し涼しくなったのか、鴨川の河原には名物の光景が復活している。

日曜で明日から仕事の人も多くて早く帰宅したのか、或いは、観光客はもうどこかの飲食店に入っているのか、四条通は混んでいるという感じでもない。
とりあえずホテルに戻り休憩。
19時過ぎに大浴場に行き、ホテルを出る。
20時前、四条通から一筋南に下がった綾小路を歩く。
何故か、日本人・外国人の別なく、人通りが多い。みんな、混雑する四条通を避けて、路地を歩いているのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか「ぽんしゅや」の前に着いていた。

20:00 ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店

3日連続は如何なものかとも思いながら、これから他のお店を探すのも億劫なので、とりあえずドアを開けてみる。
日曜日だからか、昨日の女性店員さんも店長もいないようす。
まぁ、落ち着いて呑んで帰ろうと思っていたら、店員さんの何人かが「今日も来てくれはると思ってました」と声を掛けてくれる。
……なんだ、バレていたのか。

「次に京都に来られるのは、いつですか?」
「たぶん、年末……かな?」
と答えたが、すでに年末年始、今回と同じホテルを6泊押さえているのである。
「年末、お待ちしております」
丁寧に見送られて、お店を後にする。

結局、私の「必然の意味」は、このお店に来ることだったのかもしれない、などとぼんやり考えているうちに、足は次のお店に向かっている。

22:00 五黄の寅

五黄の寅を覗くと、ほぼ満席のようす。
ドアを開けるか逡巡している間に前店長のアカリさんに見つかり、中へ通される。カウンターの端っこが1席空いていた。

焼酎のロックを注文。

座敷では2組の外国人観光客が賑やかに談笑している。「どちらもホテルから電話があったんですよ」
それよりも賑やかなのが、テーブル席・カウンター席の日本人グループたち。
何より嬉しいのが、彼ら/彼女らが議論・口論・愚痴・悪口ではなく、明るく笑い転げていること。
「日本人はおとなしく、外国人は賑やか」というイメージは、明るく裏切られた。

「お久しぶりです」
忙しい合間を縫って、アカリさんが挨拶してくれる。
少しやりとりがあって、一昨昨日の誕生日の日にもこのお店に来たことを告げる。
「おめでとうございます」
サービスで『風の森』(奈良・油長酒造)をご馳走になる。こちらこそ、ありがとうございます。
『風の森』を美味しくいただきながら、アカリさんに会えたのも、このお店を再訪した「必然の意味」だと調子良く考える。

連日の飲酒で飲み疲れ。さすがに、もう呑めない。
お通しも断り、アテも頼まず、結局、焼酎1杯だけ。
「何も注文せず、本当に申し訳ない」
謝る私に、店員さんたちは「全然OKですよ」と、穏やかに応対してくれる。

2023年8月14日

夜中に降った雨は、今のところ上がっているようだが、京都の空はどんよりしている。
20時ちょうどに京都を発つ新幹線の指定席を予約しているが、その頃どうなっているのかは、わからない(台風の速度が遅く、ニュースでもはっきりした進路予想がつかないようだ)。
このまま部屋で、やきもきしながら台風情報を見てチェックアウト時間まで過ごし、その後、新幹線の運行状況を心配しながらお酒を飲んでもちっとも美味しくないだろう、と、大浴場に浸かりながら思い、そのままチェックアウトする。

朝7時過ぎ、京都駅へ向かう地下鉄は通勤客が多いようす。
大きなスーツケースを転がしているのはほとんどが外国人で、これはある程度スケジュール通りに動いているのだろうと思われる。

京都駅のJR東海の窓口、外まで人が溢れている。
一瞬ひるんだが、室内で蛇行しているわけではなく、一直線に列ができているだけ。待っているのは、外国人数組と日本人数人(何故か一人客ばかり)。
列車の案内表示を見ても、上り方面は、朝9時以降に京都駅を発つ「ひかり号」の一部に満席がある程度。
何の問題もなく8:01発の「のぞみ号」に変更してもらいホームへ向かう。
そのまま帰京するのも悔しい(何が?)ので、朝8時ではあるが、お弁当に加えてビールも購入。

名古屋駅に着く直前と発車した直後、物凄い土砂降りで外が白くけぶって見えなくなる……が、すぐに解消する。

『カミーノ!』も早々に読了してしまい、以降、京都では本を読まなかったのだが、実はもう一冊持参していたのだった。

「現代思想」 5月臨時増刊号「超特集 鷲田清一」

東京にいる時から、少しずつ読み進めてはいたのだが、何せ哲学に疎い(だから読んでいるのだが)ので、その速度は今回の台風より遅い。
とりあえず開いて読み始めるのだが、連日の飲み疲れ+朝ビール(まぁそれだけではないのは前述のとおり)ですぐにウトウトし、起きては読み始め、またすぐにウトウト……を繰り返し、結局数ページしか進まず。

新横浜駅は下りホームが若干混雑している。
品川駅の新幹線改札内も、お盆時期にしては閑散としている。

と、本稿を書きながら「必然の意味」を考えているのだが、これといって確かな「何か」は思い浮かばない。
だからと言って、この京都「旅」が無駄であったと結論付けるのは早すぎる。
……まぁ意味なんて、その時ではなく、後から「あぁ、あの時のアレかも……」と「意味づける」ものなのだから。


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