2021年の正月を京都で迎えた。
例年なら、どこかの飲み屋でカウントダウンして新年を迎えるのだが、2020年末はコロナ禍の影響で飲食店が21時までの時短営業となっており、結局、ホテルで『笑ってはいけない』というテレビ番組を見ているうちに年を越していた。
元旦、八坂神社に詣でた。
西楼門に着いた時、綿矢りさ著『手のひらの京』(新潮文庫、2019年。以下、本書)を思い出した。
確か、物語の主人公である三姉妹の長女である綾香が、八坂神社で付き合い始めの宮尾さんと初詣デートをするシーンだ。
31歳の綾香は、『二十七歳のときに(略)付き合っていた人と別れて以来、シングルとして穏やかに日々を送っていた』が、『三十を過ぎたあたりから』出産の『タイムリミットが迫っている』と感じ、『急に不安になってきた』。
そんな時、ふとしたきっかけから、妹である次女・羽依の勤める会社の宮尾さんと付き合うことになった。
ちなみに、三姉妹の末っ子は、凛。
一人で京都に来ている私としては、こういう初詣デートに憧れてしまうのだが、それはさておき……
八坂神社で初詣を済ませた二人は、綾香の家へ行き、宮尾はここで綾香の家族に紹介されることになる。
この後、宮尾は元旦にも関わらず、持ち越してしまった残務処理のために一旦会社へ行き、その夜、綾香を再びデートへ誘い出す。
重大な決断を伝えるために。
結婚への焦りから、羽依からの紹介話を受けた綾香だったが、宮尾と付き合ううち、宮尾を好きになった。
結婚よりも、宮尾と別れたくない気持ちが募った。
だから、宮尾はどう思っているのか、綾香は不安でいっぱいだった。
自分から会社の女性社員の姉を紹介してほしいと頼んだ手前、断り切れずに、ずるずるここまで来てしまっているだけではないのか?
そして今、この元旦の夜に、宮尾はその決断を綾香に伝えようとしている。
宮尾は告げる。『好きになりました』。
2021年元旦の八坂神社。
あの時綾香が思った『驚きつつ、半ば呆れ、しかし誇らしい気持ちも隠せぬ』光景が嘘と思うような静けさだった。
西楼門からの参道は屋台こそ出ていたが、例年のような牛歩での進みもなく、本殿前がごった返すこともなく、すんなりお参りできた。
ただ、参拝の人々の手を合わせる時間が、心なしか長いように感じた。
参拝客が少なく落ち着いてお参りできたこともあるだろうが、もしかしたら各々、自身のことだけでなく、日本いや世界中に安寧が戻ることを祈願していたのではないだろうか。
本書に出てくる三姉妹は、各々が悩みや葛藤を抱えながらも、でも綿矢りさ氏にしては珍しく(私の勝手な印象だが)、ページを捲るのが辛くなることがなく、上に挙げた綾香の物語でもわかるように、読後も爽やかである。
安寧が戻るまで、本書を読み返しながら、平穏な気持ちで待つことにしようと思う。