肌寒い秋雨の夜には底抜けに明るい音楽がよく沁みる
秋がきたかと思ったらすっかり初冬のような気候になってびっくりした。
急な気候の変化もあってか疲れが溜まってしまい、しっかり食事をする元気すらなくイライラした頭と心を抱えて一風堂に行った。
ラーメンと餃子10個を頼んだのだけれど、餃子が5個しか来なくて「すみません、10個入りを頼んだのですが...」と言うと、店員の方が申し訳なさそうに追加で焼いてくれると言っていた。
そうだよな、そりゃみんな疲れるよな、とすこし安心した。
その晩、自宅でいつも通りSpotifyで音楽を流していたら気になる曲が流れた。
ジェイムズ・テイラーの『How Sweet It Is (To Be Loved By You)』だ。
邦訳するなら『君に愛されるというのはなんと素敵なことだろう』といったところか。
歌詞もサウンドも底抜けに明るくて、絶対に悪いことなんて起こらない幸福な予感に満ちている。
サム・クックがよりソウルフルに歌っていても何の違和感もない、あの雲ひとつない晴れきった心象風景がそこにはある。
2012年に、トータス松本がサム・クックの名盤『TWISTIN' THE NIGHT AWAY』を"完コピ"したカヴァーアルバムを出した。
これはもう大変な傑作で、こんなに明るい曲ばかりなのに聴いていると私はなぜか泣けてくる。
まず第一に、歌がうまい。トータス松本という人ほどソウルが似合う男は日本にはちょっとほかにいないんじゃないかと思う。
第二に、サム・クックの楽曲への深い愛情がびしびし伝わってくる。そうか、トータスさんはサム・クックが大好きなんだなとその大きな愛情の前に私は頭を垂れてしまう。
そして何より、トータス松本がいかに「真面目な男」であるかが嫌でも伝わる。もともとかなり真面目な人だろうとは思っていたけれど、真面目な人が愛情を持って本気で何かと向き合うと奇跡が起きるのだなと思わざるをえない。
そして思うのだけれど、ジェイムズ・テイラーにせよ、サム・クックにせよ彼らの経歴を見ると、彼らの人生が彼らの歌のようには決して「底抜けに明るい」ものではなかったことが分かる。
むかし、幻冬舎の見城さんが尾崎豊についてこんなことを言っていた。
「尾崎豊という人間は『愛』が信じられないんだ。どうしたって信じられないから、どうしても信じたくて誰より強い『愛』を歌えるんだ」
ウディ・アレンが「人生は悲惨か惨めのどちらかだ」なんて言っていたけれど、これはあながち間違いではないのだと思う。
特に秋から冬にかけての肌寒い雨の日なんかには、誰しもちょっとは惨めな気分にもなってしまうだろう。
そんな日には、気分にそぐわなくても底抜けに明るい音楽を聴いてみるのはいいのかもしれない。
私たちと同じように、あるいはそれ以上に大変な人生を生きた彼らが、たしかに何かを信じて強く陽気に歌う歌声がこんなに沁みる季節はほかにないと思う。