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ゆめのつづきのはなし

半年ぐらい前に書いていた身内のSSです。ダルくなって完結はできませんでしたが7000字も書いたのがもったいないので晒します

1話


私の人生の推し、けいのすけくん。

大好きな漫画、「splash club!!!」ーー通称スプラ部ーーに登場するキャラクターで、原作5巻で主人公を庇って死んでしまう。
性格はまさにヒーロー、自分の正義を持っていて、女子供にも優しく、嫌なことを嫌と言って貫ける強さがある。
私はそんな真っ直ぐな心を持つけいのすけくんに惹かれて、そして亡くなったとき本当に悲しかった。

だから、そう。私がこの世界に転生したのなら、やることは決まっている!


「スプラ部に入りたいんですが!」


私は学校裏の小さな小屋のドアを決心して開けた。
ここは物語の中心地、スプラ部の部室。世界を人知れず守る異能力を持った少年少女たちの拠点。
大好きなけいのすけくんを守るため、最悪の未来を変えるため。
私が何度も希ったハッピーエンドは、ここが始まりの1ページになる!


「えっ、は?誰?」


そこにいたのは"王"レウス。
こちらに背を向け、視線だけを私に移してぶっきらぼうに言い放った。
そして少しバツが悪そうに頭を掻いて
「あー、なに?もしかして誰かの知り合い?」とおずおずと様子を伺うように問いかける。
私はその姿に「いや、えっと、」と時間稼ぎをしつつ、なんとなく違和感を覚えた。

レウスってこんな性格のキャラだっけ。

確かにオタクからは「王様」と呼ばれているキャラクターではあるが、もっと紳士的であったというか、自信家であったというか、こんな冷たく言い放って反省するような、そんな人物ではなかった気がするのだ。
それに、原作の今ごろは、レウスは「夜世界」へ遠征に出ており、ここにはいなかったはずなのだが。
でもまぁ、あれは漫画の1場面であり。現在進行系で更新されてく世界では違いがあってもおかしくないかもしれない、と思ったりする。特にレウスがいるのは好都合だーーけいのすけくんがいなくなった"あの時"、もしレウスがいたら、戦況はまた違っていたと何度も言われているのだから。

「えっと……スプラ部に入りたいんです!」

私はもう一度言った。レウスの目をしっかり見ながら。私の決意はここにある。
レウスはぽかん、と目を丸くして、そして眉をひそめた。眉をひそめた?

「スプラ部ね。どこから聞いたか知らないけど、新しい人間はーー」
「わかってます!」

だけどそんな答えも予想していた。この優しい王様は、外部の人が立ち入るのを良しとせず、力を持たぬ人々を傷つけるのを恐れている。でも私は違うのだ、私には戦う力がある。あなたの隣に立つに相応しい力が。

「私も異能力があるんです。ーー私にも、守りたい人がいる。だから、お願いです!共に戦わせてください!」

少し怯んだ心を誤魔化すように頭を下げた。ぎゅっと一度手のひらを握りしめてそしておずおずと頭を上げる。
するとレウスはーーレウスは?見たこともないような弱々しい表情を浮かべ、目線をずいっと動かした。

「えー……どうしよ……」

私がその姿を思わず見つめていると、背後で足音が止まったのを感じた。レウスは途端にぱっと表情を変えた。目線を私の後ろに向ける。あぁ、この顔は知っている。これは彼が身内だけに向ける顔。無意識だろうけど、でも私に見分けがつかないはずがない。
つまりは、私の後ろにはスプラ部の部員の誰かがいる。そうして私は振り返ろうとして、同時に名前を呼ばれた。

「あれ、えーっと、夢織さん?」

この声、振り返らなくたってわかる。だけど私はわざわざ後ろを向いて、その顔をしっかりと認識してからこう言った。「ルタちゃん!」

splash club!!!の主人公、ルタ。

原作では、ひょんなことから異能力を手に入れてしまい、そしてスプラ部に入部する。だけど、あれ?今の時点では、まだ入部どころかまだ異能力も手に入れていないはずなのだけれど。どうしてレウスは彼女のことを知っているのだろう。
「あー、うん。えと、ここでどうしたの?部室に何か用?」
少し疑問を持つ私をよそに、ルタが話しかけてきた。

ルタとは同じクラスだ。とは言っても、入学から間もないため、あまり話したことはなかったが、ルタに覚えられていることにどうしようもなく嬉しくなった。
「そうなの。実はーー」
「なに?お前ら知り合い?あぁよかった。」

レウスが安心したように呟いた。ため息もひとつ。「るるたの入ってるところに入りたくなったとか、そんなところ?
俺はやることあるし帰るから。……あとは任せた。」

話が終わってしまった。そう思ったが、全く見知らぬ人物ではなく、ルタの知っている人ということで警戒心は解かれたのでよかったのかもしれない。

結果として入部には至らなかった。だがダメとは言われなかった。レウスはこういうとき、自分の意志は伝えるのだ。
現時点での彼は、まだ他者への警戒心が強いはずだ。突然知らない人が来て、しかし異能力は持っているのでどうするべきか見定めたいのだろう、そのために処遇をルタに預けたのだ。

だが秘策はある。第一話、本来ならルタが異能力に目覚め、スプラ部に出会うシーン。あそこに介入して、私もその力を示し一員として認めてもらう。

大丈夫、シュミレーションは何度もやった。あとは上手くやるだけだ。


2話


PM18:00、逢魔ヶ時。いつもと違う道を通ったルタは、視界の端に黒く塗り"潰された"何かを見つける。引き寄せられるように近づき覗き込むと、その先にある"何か"と目が合った。そしてルタは異能力を得る。
発生する敵「SPRITE」、対抗するルタ。しかし暴走してしまいピンチに陥ったその瞬間、救世主が現れる。スプラ部と名乗った彼らは自由自在に異能力を扱い、瞬く間にSPRITEを倒していく。それに憧れを抱いたルタは、異能力を操るため、世界を守るため、スプラ部に入部を申し込むーー。

これが第一話の流れだ。
何度も見たそれだ。絶対に間違っているはずはないし、始まりたるこれを忘れていたのなら、私の全てが疑わしい。
だがどういうわけか、ルタとレウスは出会っていたようだが。そして異能力を既に彼女は持っている可能性も生じてきた。でもむしろ好都合かもしれない。ルタがもう異能力を持っているのなら、私が先に近づいてしまって起こる展開のエラーもないし、むしろ早く対処したことで有能性が示せるかもしれない。
この時間にこの場所でSPRITEが発生するのは間違いなかった。どんなイレギュラーが起きようと、スプラ部が現れて倒していくのは必ず起こる事象なのだ。

――あくまで自然に、偶然に。
ほら、やっぱりあった。薄暗い路地の先。現実世界に有り得ない違和感と嫌悪感を醸し出す黒いインク溜まり。
私はゆっくりと近づいて覗き込む、ことはしない。私に異能力を発現させるプロセスは存在しない。なぜなら私にはもう異能力があるから。私がやるのはこの中に潜むそれを引っ張り出して倒してしまうこと。
私は軽く息を吸った。大切なのは声の大きさじゃない、そこに込める思いと、力!

「夢の調べ(オーバーワールド・ソング)!」

途端に溢れ出す旋律ーーこの声が聞こえていますか。インク溜まりの向こうと、聞いているかどうかもわからない私の大切な貴方。
歌うのは私が前世で好きだった歌ーーいつか会えるその時のために強くなる、そんな想いを秘めた曲。
私の異能力は簡単だ。歌による敵の浄化と味方への強力なバフ。曲の歌詞やメロディーによってその内容は変化し、この歌なら自己強化といったところか。
歌っているときは集中しなくてはならないので、その間戦うことができないのが難点だが、それに関しては問題ない。踊るように私の体はメロディーに合わせて動き出し、敵を倒していくのだ。

敵ーー「SPRITE」がインク溜まりからゆっくりと形づくるのを見た。私は歌を歌いながらそれに攻撃を仕掛ける。
歌の歌詞によって生み出された剣が、SPRITEの体をなぞる。1回、2回。斬りつけられた隙間から体を構成するドロドロとした黒いインクが溶けては消える。
だけど向こうだってそんなに柔いもんじゃない、私の攻撃を避けては私へインクで作られた光線のようなものを飛ばしてくる。私は避けきれず、軽く掠めたそこが黒く染まった。

ーーそう、SPRITEは触れたものを塗りつぶす力がある。少しなら大丈夫だが、長く触れたり、一瞬で全身に浴びたりしてしまうと、もう取り返しがつかなくなるーーけいのすけくんの最期のように。

わかっていたことなのにゾッとして、嫌になって、一瞬呼吸が止まった。それがダメだった。音楽が止まったのだ。
私が半永続的に起こしていた浄化能力が失われて、SPRITEの動きが変わる。同時に私の自己強化もなくなった。
途端に私は為す術もなく強く壁に叩きつけられた。

――無理だ。なんで?完璧だったのに。一瞬歌えなくなったのがダメだったの?そんなはずはない。これはそんな能力じゃない。少しぐらいなら大丈夫なはずなのに。最強なんだって思ってたのに。もう嫌だ。こんなところで終わるなんて。お願い。まだ何もできてない。助けて。誰か。ねぇ。助けて。ねぇ。

「夢織さん!?」

まさに私がトドメを刺されようとしていたとき、目の前が閃光に変わった。眩しさで目を瞑ると、その後には何もなくなっていた。敵も消えていた。代わりに少しの風と共に女の子がーールタが私の方へ近づいてきていた。

「なんで夢織さんこんなところにいるの!?」

そうか。そうだった。わかっていたじゃないか。ここにスプラ部は現れるのだ。SPRITEを倒すために彼らはやってくるってことが。

「あー、そこの人、大丈夫?」

滝が残りの小さな塊を軽くあしらいながら話しかけてくる。さっきまで私の浄化能力で生まれる前に消えていたような奴らだ。だが今の怯えた私には、その程度でも十分脅威になりえて、その強さを実感する。ーー私は、弱い。

「ちょっと怪我してるね」

ルタが私の隣に立っていた。黒く染まっているいくつかの体のかけらヘ視線を動かしてそう言う。
私はそれを直視するのが怖くて、少し俯きながら小さく「うん」と頷いた。ルタはそんな私の姿を見て、考えるような素振りを見せた。
少しして「ヘタルさーん!」と空に向かって投げかけると、凄まじい轟音と風、それと共に何かが地に降り立った。土煙の中から声が聞こえる。

「はいはいはいはいヘタルでーす、どうした?」
「どうしたじゃないんだけど!実は……」

そこにいたのは一匹の龍とそれに跨がる少女ーー"龍騎士"ヘタルだった。


私は二人が話している様子を心の遠い部分でぼんやりと眺めていた。それは私の心が疲弊していたからでもあり、その龍を見つめていたからでもあった。
この異能力とSPRITE以外限りなく現実に近い世界で、最も浮いていると元の世界でも言われていたのがこのヘタルが使役する龍ーーカイリュウだった。物語を作る際に参考にした人(・・・・・・)がいるようで、それに基づいているためにこのようになったとファンブックに書いてあったのは有名な話だ。
そうでなくてもヘタルとカイリュウは異質な存在だった。特に目立って語られることはなかったが、二人は別世界から来た存在で、年齢はその見た目通りとは限らないらしい、というのをほのめかすようなセリフがいくつかあった。実際そのような設定を使った二次創作も多くあったのだがーー真偽は不明だったため、今も謎に包まれている。

「おっけー、じゃあ夢織ちゃんは私と帰ろう!」

何かしらの話が纏まったらしい、ヘタルが私に手を差し出しながらそう言った。詳しく聞いてみると、私が疲弊しているようなのでヘタルが私をカイリュウに乗せて拠点まで連れ帰ってくれるらしい。
反射的に断って、しかし少しだけ後悔した。心の中のミーハーな部分が、こんなチャンスはないぞと急かすのだ。
「えー?いいよいいよ、コイツ丈夫だし、まぁちょっとずり落ちるかもしれないけどすぐ着くからさ、大丈夫だって」
だがヘタルが私の手を強く引くので、ちょっとだけ戸惑いながらも、ありがとうございますと喜んだ。

私がカイリュウの背に乗って、その後ヘタルが私の前に跨るとカイリュウに何か声をかけた。ヘタルの「行くよ」と同時にカイリュウは離陸、一瞬の衝撃と共に目を瞑ると、気づけば私は空にいた。

「うえっ!?」思わず声を出すと、ヘタルがからからと笑い、次の瞬間には学校裏ーー否、スプラ部の部室にいた。つい数時間ぶりの対面である。昼間とは違い、淡いライトが漏れ出たそこは、小さな小屋であるのに大きな存在感を持っていた。
そのあまりにも早すぎる到着に呆然としていると、私が緊張していると思われたのか、ヘタルがドアを開けて「どうぞ」と案内した。

3話

ふわふわしたまま部室に足を踏み入れると、何人かがそこで駄弁っていた。初めて見た光景でもないのに、キャラクターが知らない話をしているのが眩しくてキョロキョロしていると、こちらに気がついたらしい"部長"東雲が近づいてきてヘタルに話しかける。

「えーっと、この人は?」
「なんか襲われてた子!ヤバそうだから保護してきた。名前は……」

「夢織といいます!わ、私も異能力が使えて……」

「あーはいはい、なるほどね。」

何かを察したらしい東雲がうんうんと頷いた。そういえば、異能力の元はSPRITEの結晶であるため、SPRITEは取り戻そうとしてくるので異能力者だけが狙われる、という考察があった。
これについては作中でキャラクターが明言してくることはなかったが、もしかしたら共通認識だったのかもしれないーーあるいは東雲は博識なので知っているのか。

「まぁいいか。入りなよ。」

東雲が中に入るよう促す。向けられた背中に続いておずおずと入室すると、梅が自分の隣のパイプ椅子を軽く引いて私の座る位置らしきものを作ってくれた。
「じゃあ私は帰るから!じゃあね」
後ろからヘタルの声が聞こえて、東雲が手をひらひらする。私が振り返ったときには土ぼこりしか残っていなかった。

「ヘタル帰るの早いんだよね〜」

驚いた?と言ったのはミズキ。寝転がっていたソファーから上半身だけ起こしてこちらへ笑いかけた。そうなんだ。知らなかった設定に目をぱちぱちさせていると、フフッという誰かの笑い声が聞こえた。

「夢織さん、だっけ。ここ座りや、怪我してるんやろ」
梅が椅子をパシパシと指し示すように叩く。こちらをじっと見透かすように目を合わせられた。
怪我?そう言われてはっと思い出す。私はSPRITEとの戦いで傷ついていた。ふと手を見ると、指先が黒く塗りつぶされていて、それを認識した途端じくじくと全身が痛んだ。
ーー痛い。思わず顔を顰めると、梅が私の顔を見てぱちくりとして、フ、と息を吐いた。

「痛いんならまぁ、治さんとあかんよな」

ごめんな、と一声かけて、梅が私の手を徐ろに掴んだ。そして私の黒くなった指先を何回か擦ると、「……あ、」と呟いた。
「……何をしているんですか?」
私が思わずそう言ってしまうと、梅がバツが悪そうに「治そうと思ったんやけど、」と答えた。
治す? どうやって? 異能力? 治せるんですか? 詠唱もしてないのに? あなたの持つ異能力は「天探女」、事象を反転させることしかできないはず。

「異能力で……あ、そういうことか」

梅がふと納得したように呟く。そして手を掴んだままこちらに向き直した。


「いいか?異能力ーーというか、この世界は""思い込み""が大切や。だからこれはこうなんだ、と思うだけで、どんな風にすることもできるーーその逆もな。……これはよく覚えとき。

だからな、自分は今からーーこの怪我を異能力で、""反転""させる。」


よく見ておき、と言って梅は今度は私の指先をもう片方の手で覆った。

「天探女(パーバースリー・オーソドックス)」

にわかに指の隙間が光り、前髪を風が押し上げる。と、同時に鳴るパキンという音ーー梅の異能力使用の合図だ。
「……わ……」
梅がゆっくりと包んでいた手をほどくと、そこには元通りの手があった。黒く塗りつぶされた指先は何事もなかったかのように白さを取り戻している。
それだけではないーー全身を覆う痛みも消えていた。
思わず梅の顔を見ると、フンと澄ました顔で「言うたやろ、」と自信げに笑った。

「あの、」

私は口走っていた。

「スプラ部に入りたいです!私も異能力が使いこなせるようになりたい」

梅はパチパチと目を瞬かせた。そして「うーん」と一言。
「こればっかりは他の人にも聞かんとなぁ」
そう言うと梅は目線だけでぐるりと周りを見た。ミズキが「みんな良いっていうかな?」東雲が「僕はいいけど、みんな嫌がったりしない?」すると遠くからンフ、とい う笑い 声     が 

こえ て

「あ、いん  

く  さ  どう し 」

「この  子 入部さ   せ    

れう    話は  す  」

「 丈夫  ?怒ら  」

「いい   、  って の子が望ん      

る  、必ず  そう  な  」



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