革新を起こすためにメインストリームから外れる!【秋吉浩気対談3/3】
「ボトムアップ」のプロセスと「作品」に昇華されたアウトプット
小林:神奈川県の小田原にある「Recamp小田原」にも、「camp pod」(※1)という建物を建てられていますよね。その写真を見て、すごく驚きました。見た目のインパクトがかなりありますよね(笑)。
秋吉:そうですね(笑)。あれは商品開発のプロジェクトだったんです。
小林:ああいったところに、いちキャンパーとしては泊まってみたいなと思います。
秋吉:建物でありつつテントということで、すぐに分解できるようになっています。
小林:「まれびとの家」も建物として、すごくインパクトが大きいですよね(※第二回記事参照)。VUILDさんが手がけられる建物は、最終的なアウトプットが他の何物とも似ていない。建築の素人が見ても、「何だこれは!?」っていうインパクトがある。それも変なこけおどし的な意匠で攻めているわけではないのに、存在としての驚きを与えてくれる。良い意味で、一つの「作品」になっているなと感じるんですよね。
秋吉:ありがとうございます。アウトプットとして「作品」にまで仕上がらないと、インパクトを与えられないだろうなって思ってはいるんです。
いわゆる建築家の作品と張り合えるぐらいの作品をつくったうえで、「これがボトムアップでできているんだ!?」となったほうが良い。いままでにも、ボトムアップでできていった町というのはいくつかあるんですが、どこかとりとめもないというか。ごちゃごちゃしてたり、単純に美しいか美しくないかで言うと美しくはなかったりして、あんまりメインストリームからは評価が得られていない場合が多い。
そう考えると、「結局、面白いのはプロセスだけじゃん」みたいなことにならないように、どっちもあったほうがいいだろうなって。そこにしかないもの、建築物としてのクオリティが高いものだけれども、実は建築家主導ではなくボトムアップで出来ている。その両輪を実現しないとダメだろうなって意識はしています。
小林:そこが秋吉さんの面白いところだなと思いますね。バックグラウンドやスキルとして、建築という専門をちゃんとお持ちになりつつ、社会学的な観点や人文知的な視座を持たれている。コミュニティとともにボトムアップで建築を進めるんだけど、一つの作品になっているというのは、その表れだと感じます。秋吉さんは、かなり稀有な存在ですよね。あんまり他にはいない存在かなと思います。
秋吉:その点では、意図的に学生時代からそういう学び方をしてきたって言ったらなんですけど、日本の教育が結局は同じ人が再生産される仕組みだと感じていたので、そこからどうやって脱獄するかみたいなことは、ずっと意識していましたね(笑)。
そこから、ビジネス視点とソーシャル視点、クラフトとデジタルへの造詣っていう4つが、今の建築の設計者にはどう考えても欠けてるなと考えるようになって。なので、そのうち1つでも獲得できたら、もしかした違う化学反応、新結合が起こせる人間になるかもしれない、まあまずは全部やってみようと思って、特に大学院ではその4つをやるために、専攻する学問から変えていました。
既存業界の閉塞感を打破しようとする新世代の胎動
小林:なるほど。秋吉さんから見て、こいつは面白いな、自分みたいな奴だな、あるいはこいつはメタアーキテクト(※第1回記事を参照)なんじゃないか、という方は、国内外含めていらっしゃるでしょうか。
秋吉:どうでしょう。もちろん何人かは思い浮かぶ人がいるんですけど……、最近会った人で言うと、「Mr. CHEESECAKE」という会社を創業されている、チーズケーキ職人の田村浩二さん(※2)という方がいらっしゃいます。彼は一流のシェフなんですけど、D2Cブランドも立ち上げていて、一般的なシェフからするとありえないことをされています。シェフという王道の道を歩まれているなかで、より広い視点も持って事業を展開されているところは、普通の方ではないなと。
そうした、いわゆる王道もやりながら、水平軸っていうか、広げていく方向もやるっていう人は、ちょこちょこ何人か同世代でいるんですよね。そこには、これまでの各種業界における、業界内に閉じている感じとか、このままだとこの業界はダメになるんじゃないかっていう危機意識から生まれているから、それぞれ業界で、何か新しい動きが生まれているんじゃないかっていうのは、ちょっと感じていますね。
小林:メインストリームの素養、教養も持ちつつ、そこから一歩踏み出すことによって、はたからはオルタナティブって言われちゃうかもしれないんだけど、実はメインストリームの拡張、革新、アップデートをしてるのかもしれないですよね。
秋吉:そうですね。僕らみたいなそれまでの業界の歴史から外れた、新しいボトムアップの形で何かやり始める人たちって、やっぱりメインストリーム側からすると別のものだと思われるんですよね。
逆に、メインストリームから外れることで、あんまりメインストリーム側の人とはちゃんと交流や議論をしないっていうところも、今までの歴史ではあったんです。その点でも僕は、ちゃんとメインストリームのほうにもガンガン入っていこうとは意識してますね。
小林:どうしても建築家さんって、偉い人、強い人というイメージがあって、しだいに重鎮という感じになっちゃいますよね。そこに若い人が新たな意見をぶつけていく、というところで、建築業界にはそれを受け入れる土壌はあるんでしょうか。
秋吉:土壌はありますね。けっこうよく呼び出されています。
小林:ああ、そうなんですか。
秋吉:「何だお前コラ!」「生意気な奴だな!」みたいな感じで呼ばれることも多いんですけど(笑)。僕は呼ばれたら、そういうところにも出ていきますね。
小林:でも、秋吉さんは明らかに才覚があって世に出てきた人だから、呼ぶ人も「何かしらこいつは持ってるな」って感じていて、そこから学びたいって想いがあるんじゃないですかね。
秋吉:たぶん、気にはしていただいているんですよ。よくよく聞いていくと、「昔はオレもお前みたいだったんだ」って、みんな言うんですよね。「じゃあ、なんで今そうなっているんですか」っていう話もするんですけど、きっとどこかで収束しちゃうっていうのは、誰しもがあるんだろうなっていうのは感じますね。
小林:あるいは、社会的な環境だったり、本人には手の届かない何かだったりがあって、その中でもがいてきたっていうのも、相手にはあるのかもしれないですね。
秋吉:そうですね。いろいろな複雑な思いを持って接されることが多いですね。
AIによって建築はどう変わるか?
小林:最近、ChatGPT(※3)などでAIの議論が再び盛り上がってますよね。僕らはグループ会社にメディアジーンというメディア企業があるんですけれど、ChatGPTも含めて、トランスフォーマーベースのAIにいろいろと書かせてみたり、あるいはコンテンツの配信スケジュール表を組ませてみたりを実験的にやっています。
たぶん、もう何年か以内にはある程度、そういう下働き的な作業、誰が作業しても変わらないような作業というのは、AIに取って代わられるなと思うんですね。
建築においてはどうでしょうか。すでに絵を描くAIも出てきていますし、AIの進歩の先には、そのうち図面作成なんかもAIで代替できるようになったりするんじゃないでしょうか。
秋吉:それはあるでしょうね。というより、すでに可能ではあります。ジェネラティブアート(※4)のように、建築でもAIで何か作るとか、建設するとか、10年前ぐらいから要素技術としては出てはいるんです。それが今回のChatGPTみたいに、どこかのタイミングで普通の人にも使いやすいぐらいまで、ドカンとツールが出てくることもおそらく起きると思います。
やっぱりそのときに大事なのは、クリエイティブな部分だと思うんです。人と人によるボトムアップ型で、どうファシリテートしてどういう風な完成図を描いていくかみたいなところは、誰がやってもかわらない領域ではないと思うので、そこが一番大事かなと。
正直、「みんなから合意を取れたので、こんな感じのものにしましょう」というところまで進んで以降は、ある種の作業なんで。接合部の図面を引いたり、申請のための図面図書を作ったり、作業であってクリエイティブではないですからね。もちろん、そうした細かい作業の中にも、クリエイティビティを発揮できる部分はあるにはあるんですけど、ほぼほぼ作業なんですよ。AIによって、そういうものはなくなればいいなとは思っていますね。
小林:建築におけるクリエイティブのあり方として、地産地消のために地域にある間伐材を使ったり、たとえば珍しいチョウチョの生息地であるとか、土地固有の希少種のサンクチュアリとして生かしつつ、人間と共生できるような建築物をつくったり。そこで、専門家や学者からの協力を得て、アカデミアの知見を取り入れながら一緒にやるみたいな。そういうコラボなんかも考えられますよね。
秋吉:面白そうですね。誰でも使えるツールを使ってある程度の建築の提案まではつくったうえで、プロがそこにかぶせていくとか。専門家がただ口だけで言うんじゃなく、彼らもなんらかのジェネラティブAIでつくったもので議論するとか。そういうことはできてくるようになるんではないかなと思ってますね。
小林:そういう意味でも、小豆島の取り組みが僕には面白いです(※第2回記事を参照)。まさに専門家でない方がつくられてるわけですよね。自分の義理の兄は、農業をやっていて、家具職人もやっていて、ミュージシャンもやってるんですけれど、そういう人が自分の家まで自分で作れちゃう。実際に、義兄は自分の家を自分でつくってるんですけど、そういう風になってきますね。
秋吉:絶対そうなるでしょうね。そうなれば、いわゆる農夫的なところに戻りやすくはなりますよね。
小林:ライフスタイルや働き方にまで、静かなインパクトを与えていくっていう。住空間のつくり方が変わることによって、いろいろと変わってきますかね。
秋吉:もしそうやって今の社会にある、いわゆる「ブルシット・ジョブ(※実は無意味・無価値な仕事)」みたいなものがいらなくなってきたときに、少なくとも暇になると思うので。たとえば「週3日しか働きません」という人が増えたときに、残りの4日をどう過ごすかっていうと、たぶんみんなが物をつくり始めると思うんですよ。そこで、「じゃあ、コツコツと自分の家をつくろうかな」とか、何かそういう形にもなる気はしています。
大工さんや工務店さんに頼むと当然、工賃もインクルードされて高くなるし、そこまでコントロールも利かないけど、僕たちがファブリケーションツールやテンプレートを渡すことで、自分で時間あるときにやれるようになれば、そこにかかる経済的なコストはかからなくなります。自分でやれたほうが、最も安く楽しくつくれる。ただ、「時間があれば」「暇があるなら」というところなんですよね。
その時間という条件も将来的には外れてくると思うので、特殊だと思われていたDIYとか、農夫的な生活をしている人たちの暮らしとかが、もしかしたらちょっとずつ当たり前になるのかなと……。まあ、さすがに当たり前にまではならないかもしれませんけど、確実にシェアは増やしていくんじゃないかなとは思いますね。
小林:友人同士やコミュニティ内で協力して、互いに助け合いながら、手伝ってもらったり手伝いに行ったり……それは何周も回って、まさに昔の生活のあり方と同じですからね。
秋吉:場所づくり、建築づくりなんて、まさにそういう形だったんですよ。
「VUILD入ってる?」をめざす事業戦略
小林:最後にこれからのVUILDの展望を教えていただけますか。
秋吉:会社や事業をスケールしていくことを考えていきたいなと思っています。これまでの5年間は、価値や意味のイノベーションを起こすために、「まれびとの家」みたいなものを点としてつくって、「なんか面白そうなことをやっているよね」と思っていただくことを考えてきたんですよ。ある意味、ふわっとやってきたんですけど、それをこれからはもう少し面で考えていかなきゃいけないと感じています。
具体的には、どんどんパートナーをつくっていきたいですね。最近の「NESTING」(※5)という事業だと、地場の工務店さんとパートナーシップを組んで、「共同事業として一緒に建築材の供給をやっていきましょう」と話を進めていまして、そうしたパートナーシップが今は3つほどできています。
つまり、今まではすべてのお客さん、すべてのプロジェクトに関わってきたところから、パートナーに闘魂注入じゃないですけど、マインドを注入して、僕らみたいに振る舞える人をたくさん増やしていくことで、僕らは技術的なものやデザイン的なもので後方支援するスタンスを取れるようになる。パートナーをどんどん増やしていくことで、そういう風に内側から変えていけたらと考えています。
VUILDは家具、内装、住宅、建築という4種類の産業に関わっているんですけど、住宅は工務店、建築はゼネコンというように、それぞれパートナーになれる方がいます。内装だと商業空間を扱う会社で、去年は文房具メーカーだけでなく、オフィスメーカーでもあるコクヨさんと資本提携しました。
小林:そうなんですね。
秋吉:コクヨさんに出資してもらって、一緒に共同事業を今は始めています。コクヨさんのオフィスにもShopbotを入れてもらって、社員の方々に覚えていただいて、それを今までのコクヨの事業の中で動かしていく。
コクヨさんは今までだったら、クライアントへのトータルソリューションとして、全部自社でつくりきっていたんですけど、クライアントに対して「協創型で一緒につくっていきましょう」という価値提供の仕方も、僕らとパートナーになることで出せるようになる。あるいは、僕らは木材のモックアップ(※試作模型)はつくれても、そのモックアップに必要な金物や車輪などはつくれないんですが、コクヨさんにはファニチャー事業部(※家具の事業部)があるので、そことコラボして出していける。
そういうように、それぞれの産業のステークホルダーに、僕らがある意味、寄生じゃないですけど、こう建築における「インテル入ってる?」的なスタンスで入れたらと(笑)。
小林:「VUILD入ってる?」って(笑)。
秋吉:そうした方々のほうがお客さんとのタッチポイントも多いですし、そういう寄生していくっていう戦略は、本気で考えていきたいなと思っています。これから5年くらいかけて、僕ら1社でやれることを超える、まさにネットワーク的、まさに自律分散的な、静かにじわーっと広がるような展開をしたいですね。気づいたら「パートナーが何社いるの?」というくらいになれたら良いです。
小林:面白いですね。気づいたら日本の風景まで変わっていて、その全部に実はVUILDが入ってる、VUILDのマインドが注入されているという。
秋吉:そうなるといいなと思っています。
〈おわり〉
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