見出し画像

誰も知らない著作権法第48条

※本稿は、2016年5月に私設ホームページで公開した論考の転載です。

去年、某国立大学医学部附属病院の研修医セミナーにて、当院が著作権を有する皮膚病写真の無断使用が発覚しました。某医療関係者専用の商用Webサイトで、その研修医セミナーの概略が写真つきで報告されたため、著作権侵害が判明しました。附属病院に対して抗議の手紙を送付したところ、院長より謝罪の手紙が送られてきました。手紙には、著作権法第48条違反と、商用サイトに無断で写真を提供したことについての謝罪が書いてありました。

 第48条では、教育的使用の場合には、著作物の出所を明示することを義務づけています。出所を明示せずに、授業で著作物を使用しますと、著作権法違反となります。教育的使用の特例(第35条)は広く知られています。それに対して、第48条(出所の明示)は、ほとんど認知されていないように思われます。

 第35条では、教育目的では、「必要と認められる限度において、公表された著作物を複製できる。」と書かれています。入手困難な資料や高額の著作物を、授業で使用する場合を想定していると考えられます。今回研修医セミナーで無断使用されたデータは、ありふれた皮膚病の写真であり、皮膚科医にとっては入手困難なものではありません。医学部附属病院に勤務する皮膚科医であれば、容易に入手できる皮膚病写真です。セミナーの担当皮膚科医は、「自分たちが著作権を有する皮膚病写真を使用して講義するのが、当然である」と、私は考えます。安易にネットのデータを使用するのは、教育者として倫理的にも問題があります。第35条は、教育者が楽をするための法律ではありません。

 仮に第48条を知らなかったとしても、良識があり、公開された著作物に対しリスペクトがあるなら、教育者は出所を明示して、授業で使用するのが当然です。ネットから入手したデータを、あたかも自分たちの所有物のように使用することは、甚だ問題の多い行為と思われます。

また、教育的使用の特例は、教育機関での学生に対しての授業を想定したものです。給与をもらっている研修医に対するセミナーは、教育的使用の特例の範囲内であるのか、個人的には、疑問を感じます。教育的であれば、何でも許されるわけではありません。

 商用サイトの対応も、ひどいものでした。商用Webで使用する場合は、サイト管理者は著作権について十分確認をする義務があります。今回の行為は、明白な著作権法違反ですから、管理者はWebのトップページで、経緯を説明し、謝罪すべきです。そして、該当データを保存した人に対して、そのデータの廃棄するようにお願いすべきです。しかし、商用サイトでは、そのような対応はなされませんでした。そのため、このサイトを閲覧している医療関係者のほとんどの人は、今回の違法行為を認知していません。

 病院側も、手紙では謝罪しましたが、今回の違法行為について情報公開を全くしていません。ファックスによるプレリリースをするように、私は要求しましたが、病院側にあっさりと無視されました。このため、国立大学医学部附属病院での今回の不祥事は、世間一般には誰にも知られていません。

 私は、今回の問題を、ことさら大きくするつもりはありません。しかし、著作権法第48条違反については、何等かの形で、世に問うべきと、私は判断しました。そのため、今回の経緯を、自分のサイトで公開することにしました。無料で公開されているWeb上のデータは、敬意を払われ、そして適正に使用されることを、私は切に願います。

いいなと思ったら応援しよう!