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人的資本向上のために 〜変化する人材育成のとらえ方「LXデザイン」とは〜
「LXデザイン」という言葉を耳したことはあるだろうか。
あまり聞きなれないかもしれないが、人的資本経営を目指す企業にとっては今後なじみ深い言葉になっていく可能性が高い。
なぜなら「LXデザイン」は、適切な人材戦略を練るにあたって不可欠のものであるからだ。
今回は人的資本経営が注目を浴びている背景と、人的資本経営に「LXデザイン」がどう貢献できるかを解説する。
人的資本とは
人的資本とは、個人のスキルや能力を資本ととらえること。
つまり「人」に投資することが会社に利益をもたらす、といった考え方のことである。
これまで主流だった考え方は「人」を人的資源(ヒューマンリソース)ととらえるものであり、あくまでも「人」はコストとして消費されるものとされていた。
しかし、人的資本(ヒューマンキャピタル)の考え方では「人」そのものに価値があるととらえられる。
「人」は、スキルや能力を磨くことでさらに利益や価値を生み出す存在になると考えるのである。「人」の育成・教育にかかる費用は単なるコストではなく、投資とみなすのが人的資本経営の基本的な見解といえる。
人的資本経営と従来の経営の違い
人的資本経営と従来の経営のもっとも異なる点は、人材に投じる費用を「コスト」と考えるか「投資」と考えるかにある。
従来の経営では、人的資源(ヒューマンリソース)の考え方が主流だった。
人的資源経営では、社員の能力をいかに効率的に消費するかが重要視される。
人材育成や従業員のスキルアップにかかる費用は企業の「コスト」とみなされていたため、いかにコストを抑えるか、削減するかに注力されがちであった。
一方人的資本経営では、人材育成に投じる費用をコストとはとらえない。
適切な学びの機会を提供し、スキルアップをはかることは結果として企業にメリットをもたらすための必要な「投資」だとしている。
これまで社員のスキルは「資源として消費されるもの」であったのに対し、昨今は「投資で増やせるもの」といったとらえ方に変化してきている。
なぜ人的資本経営が注目されているのか
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近年多くの企業で「人的資本(ヒューマンキャピタル)」の考え方が注目されているのには、どういう背景があるのだろう。
これにはいくつかの要因があるが、おもな背景は以下の3つである。
働き方の多様化
ESG投資やSDGsへの関心の高まり
「人的資本経営コンソーシアム」の設立と人材版伊藤レポートの発表
【働き方の多様化】
人的資本経営が求められる背景のひとつめには、人材や働き方の多様化があげられる。
少子高齢化により労働人口が減少していること、人生100年時代といわれ「長い人生を豊かに暮らすために、長く働く必要がある」ことなどを受けて、企業はより長期的な視点で社員ひとりひとりのキャリアを考えるべき局面にある。
さまざまな人材が長く働き続けるためには、旧来の固定的なスタイルばかりではなく、時間や雇用形態にとらわれず働ける環境を整える必要がある。それぞれのライフステージやライフスタイルに合わせ、時短勤務、時差出勤、副業や兼業、テレワークなど幅広い選択肢を用意することも重要だ。
これまでひとつのオフィスに集まっていた社員が働く場所や時間をさまざまに選べるようになると、旧来の方法では人材管理が難しくなることは当然である。
この先さらに、ひとりひとりの働き方を尊重しながらも、それぞれの価値を最大限に引き出す人材管理が求められるようになる。こうした背景から「まとめて全員」よりも「社員ひとりひとり」にフォーカスした人的資本経営への関心が高まっているといえる。
【ESG投資やSDGsへの関心の高まり】
ESG(Environment Social Governance) 投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視、選別しておこなう投資のことを指す。
これまでは、投資家が企業の株式などに投資する際、投資判断の材料としておもに利益率やキャッシュフローなどの財務情報が資料にされてきた。
これに加えてESGの要素を考慮する投資が「ESG投資」である。財務情報のみならず企業が社会から支持され、長期的に安定し発展していくかを評価する資料として、企業のESGへの取り組みが評価され始めている。
つまり、企業への投資の判断基準に適切な人材戦略が練られているかも挙げられるようになったのだ。
ほかにも2015年の国連サミットでは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が採択され、Z世代から注目を集めている。全部で17あるSDGsのうちの8つ目「働きがいも経済成長も」の項目には、人的資本経営に当てはまる点が多数あり、この点に尽力していることが伝われば優秀な人材が集まりやすくなるとも考えられている。
【人材版伊藤レポートの発表】
これまで企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のうち、モノとカネについては詳細に報告がされてきたにも関わらず、ヒトの情報はあまり重視されてこなかった。
しかし近年モノやカネを持たない企業が大きく成長し、ヒトのもつアイディアやスキルが企業にとっての貴重な資本へと変化している。こうした背景を受け、米国証券取引委員会は2020年に、上場企業に対し「人的資本の情報開示」を義務付けると発表した。
日本でも経済産業省が「企業の長期的な成長のためには、人材戦略の策定と実践が欠かせない」とし、人的資本経営の実践事例の共有、企業間協力のための議論、情報開示などを進める「人的資本経営コンソーシアム」を設立した。
人的資本経営コンソーシアムの発起人である伊藤邦雄氏を中心におこなわれた研究会では、2020年9月に「人材版伊藤レポート」を発表し、人的資本経営による価値創造の重要性に訴求している。
しかし、定量的な情報開示を求められることにより、企業価値が露呈するのを恐れ、日本企業はまだ人的情報開示に向けた整備に積極的ではないのが現状だ。
人的資本を向上させるために必要な投資とは
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ここまで解説してきたように、人的資本経営のキーポイントはいかに「人」に投資できるかにある。
人材こそが資本であるため、人的資本経営を成功させるためには適切かつ独自の人材戦略が欠かせない。
人材戦略の基本として挙げられるのは、おもに以下の2つだ。
人材ポートフォリオの明確化:人的資本の構成内容を把握する、個人の知識と経験を可視化する
人材育成プロセスの明確化:研修や学習支援の目的、意図、実施体制、効果をはっきりさせる
ほかにも、企業と従業員の絆を深めること(従業員エンゲージメント)や、多様な働き方への対応も重要とされている。
しかし今回は、人的資本向上へのネクストアクションとして有効な「LXデザイン」について深掘りしたい。
「LXデザイン」は人材戦略において、どのような点で貢献できるのだろうか。
LXデザインとは
LXとは、Learning experience(ラーニングエクスペリエンス)の略で、日本語では「学習体験」と訳されることが多いだろう。
日本では「LXデザイン」、つまり学習体験をデザインするという考え方がそれほど浸透しておらず、この言葉を耳にする機会はあまりないのが現状だ。
「LXデザイン」の定義は、学習者中心の方法で目標を達成できるよう学習体験を作成することとされている。
ポイントは学習者が中心にあることで、学習者ひとりひとりのキャリアや志向・ライフスタイルに合わせた学習を体験として提供するものである。
スキルアップにおける目標はひとりひとり異なるため、達成までにたどる道筋やプロセスは人それぞれ。当然目標達成のための学習計画も十人十色になる。
つまり、適切かつ独自の人材戦略を実行していくためには、人数分ひとりひとりの目標に合わせた多様な学習プログラムが必要になるというわけである。
企業の学習支援や学び直しの現状
しかし現状、人材育成やスキルアップにおいてのニーズが多様化しているため、企業が全社員の要望に応えることは難しい。
企業側が研修を準備し社員へ提供することはできるものの、その後は個人の努力や裁量に任せるしかない状態に陥っている。
例として、英語学習における個人レベルの差を紹介する。
Aさん:TOEICで高得点を取りたい。リスニングが苦手。
Bさん:英語を流ちょうに話せるようになりたい。TOEICで高いスコアを持っている。
Cさん:英語学習経験は高校まで。何から取り組んでいいかわからない。
上記のように、同じ企業に勤める社員とはいえ、スキルや知識は三者三様だ。
この3人全員に同じ研修や教材を提供しても、全員が目標を達成するのは難しいことがわかるのではないだろうか。
大勢に一律のコンテンツを提供しても、目の前のタスクをこなすだけでは単なる「知識の詰め込み」にしかならない危険性がある。
結果として、「目標を達成すること」ではなく「学習すること」そのものがゴールになってしまう可能性もあるだろう。
実際に、社員の育成やスキルアップを効率的に行うためにはどうすべきなのか、頭を抱える人事担当者は多い。
このような悩みを抱える企業にこそ知ってほしいのが「LXデザイナー」の存在だ。
学習計画デザインのプロ「LXデザイナー」ならば、ひとりひとりの目標に合わせた学習計画の提案が可能なのである。
LXデザイナーの役割とLXデザインのプロセス
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学習体験の質を高めるためには、まず目標や成果を明確にすることが重要だ。学習者とのカウンセリングは欠かせない。
目標をはじめ、学習者の得意なことや苦手なこと、これまでの学習経歴などをヒアリングし、成果を達成するために必要な体験を設計する。
先に目標を決定し、達成のためにはどの学習体験がマッチしているのかを吟味していくのがおもなプロセスである。
目標や学習者の性格を理解し、楽しく意欲的に学習できるような体験を組み合わせて提案するのもLXデザイナーの大切な役割のひとつだ。
設計された学習に実際に取り組んでみてマッチしないと感じたら、軌道修正できる点もLXデザインの強みといえる。
あくまでも学習者が中心となって進行するため、目標にたどり着くまでのプロセスはライフスタイルや志向に合わせ、いつでも調整可能でなければならない。
このようにひとりひとりに合わせた、オリジナルの学習体験を設計・提案できるのが「LXデザイナー」だ。
LXデザインを「アウトソーシングする」という選択肢
個人に合わせた学習体験を設計するためには、膨大な知識と経験が必要になる。
また、ひとりひとりへのヒアリングも必須のプロセスであるため、社員の数が多ければ多いほど人事担当・研修担当者の負担が大きくなってしまう。そこで考えられるのは、LXデザインをアウトソーシングするという選択肢ではないだろうか。
株式会社シー・ティー・エスは、企業が抱える課題にフォーカスし、その解決策としてのレッスンを提供している会社である。
企業が学習者に求めるレベルと学習者の目標に基づき、ひとりひとりに合わせたプログラムをカスタマイズして提案する。
LXデザイナーがていねいにヒアリングし、目標や志向にそった学習計画をデザインする。
独自の人材戦略を必要としているが、現状ではノウハウや人手不足などが原因でネクストアクションに踏み出せない企業は多い。
そのような企業にとって、株式会社シー・ティー・エスのサービスは、人材戦略を実施していく助けとなるはずだ。