アリとキリギリス
↑前回のつづき
イソップ童話『アリとキリギリス』は夏の間ずっと楽器を弾くなどして遊び呆けていたキリギリスが冬になってアリに食べ物を分けてくれと頼むも断られて死んでしまう話だったと記憶している。
可哀想だという声がある。アリはキリギリスの演奏を楽しんだのだから助けるべきという理不尽な意見もあった。
実際、改変されてアリがキリギリスを助ける結末もあるようだ。まあ、そういう優しいアリがいてもいい。キリギリスが反省しているなら物語の教訓も失われないだろう。
僕の好みで改変していいならキリギリスは確実に死なす。彼が助かる道理は1ミリもない。アレンジするのはそこではなく、アリに恵みを乞う場面。
そもそも会いに行かせない。夏が終わることは知っていた。備えがなければ冬を越せないとわかったうえで、それでも短い一生を謳歌する道を選んだのである。儚くも充実した一生だった。
キリギリスはどこかで野垂れ死んでいるのかな、真面目に働いていれば良かったのにね、と暖かい部屋で談笑するアリたち。彼が演奏していた旋律も春が来る頃には忘れてしまっているだろう。
教訓はとくにない。異なる価値観と交わらない世界があるだけだ。僕はそこに美を感じる。
↓つづく