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ハンドパワー

↑前回のつづき

Mr.マリックがスプーンを用意してくださいと言うので、急いで食器棚からカレースプーンを取り出し、テレビの前で待機した。指示された通りに「曲がれ!」と念じてみたが、うちのスプーンは曲がらなかった。

手品のことを英語で「マジック」という。これは言うまでもなく魔法を意味しており、ファンタジーやイリュージョンといった華やかな側面と、魔術や呪術といったオカルトな側面を併せ持っている。

マリックさんも当初は、自分の手技を超魔術などと称していた。どんなに優れた技術でも、ただの手品師では埋もれていたかもしれない。セルフプロモーションとしては大成功だが、オカルトを期待していた人たちは裏切られた。

僕もまんまと騙された。とはいえ、期待して損をしたとか、ワクワクを返してほしいとは思わない。好きでワクワクしていたのだし、具体的になにかを失ったわけでもない。

入場料でも払っていたら、多少の怒りを覚えただろうが、テレビで観ていただけである。お金を出すほどには信じておらず、騙されてもいいと思っているので、そのこと自体に腹は立たなかった。

今後、また別の誰かがマジックとオカルトを混同させるような売り方で登場しても、やっぱり僕は「曲がれ!」と念じてみると思う。

↓つづく