没入感
↑前回のつづき
没入感という言葉が頻繁に聞かれるようになったのはわりと最近のことだと思う。何かに没頭してその世界に入り込む感覚を言う。映像じゃなくても読書で物語の舞台に浸れるならそれも没入感といって良いのだろう。
ただ、やはり一般的には視覚体験が重視される。映画館でシートが揺れたり、水しぶきが出たりするのはあくまで映像を補強するためである。
「臨場感」とほぼ同じ意味だが、「没入感」は外界との断絶が強調される。つまり現実を忘れられると言っている。大げさに言えば我々が生きているこの世界の感覚を一時的に喪失することを意味する。
没入感が悪いとか危険とか言いたいのではない。もちろん没入しているときにタンスが倒れてきたら危ないが、そういう話ではなく仮想体験と現実体験は二者択一であるということだ。
1チューナー内蔵のブルーレイレコーダーは2番組を同時に録画することができない。人生にも同じことが言える。片方を選択すれば片方を捨てることになる。仮想体験は足し算ではない。
拡張現実(AR)は一見足し算のように見えるが本質は変わらない。現実の風景に道案内の矢印が重なって表示されればその奥は見えなくなるのだ。半透明にしても表示位置を工夫しても仮想が侵食した分だけ現実は希薄化する。
↓つづく