駆け出し百人一首(43)これを見よ上はつれなき夏草も下はかくこそ思ひ乱るれ(清少納言)
これを見(み)よ上(うへ)はつれなき夏草(なつくさ)も下(した)はかくこそ思(おも)ひ乱(みだ)るれ(清少納言)
続千載集、恋一、1073番
現代語訳
これを見てよ。表面上は何事もない様子の夏草も、下の方はこのように色変わりし、乱れているのです。私も、表向きは平然とした態度を取っていますが、内心ではあなたに恋い焦がれ、悩み乱れているのですよ。
和歌英訳
Look at this summer grass. It is growing thick, but it hides dried-up grass deep inside. I also try to hide my longing. Actually, I'm crazy for you.
解説
清少納言は、百人一首にも選ばれている清原深養父・清原元輔の血を引いており、歌人の家の女性といえるのですが、どうも和歌よりは散文の方が向いていたようです。『枕草子』には家の評判を落とさないよう、人前で歌を読むのを避けるエピソードが出てきます。ですから、清少納言には有名な歌がほぼないのです。
今回は百人一首の漢籍がらみの歌とは違うイメージのものとして、恋の歌を選びました。
二条為世はこの歌を「恋一」に収めています。「恋一」というと、噂や垣間見により、男が女を想い始めた頃の片想いの歌です。これは、男の立場に立って、想像で詠んだ歌でしょうか。それとも清少納言自身の体験から詠んだものでしょうか。男まさりで、恐らく「ツンデレ」だった清少納言らしい歌のような気もしますが……こうした想像を巡らせるのも楽しいのが恋の歌です。
和歌の修辞法
自分の恋心を草の様子に託して表現しています。これは、清少納言よりも前の時代の『万葉集』では「寄物陳思」と分類されていました。率直に想いを語るのは「正述心緒」といいます。
古典文法
見よ:マ行上一段活用「見る」の命令形
かくこそ思ひ乱るれ:係助詞「こそ」により文末がラ行下二段活用「思ひ乱る」の已然形になっている。特に訳さなくて良いが、強意。
古文単語
つれなし:平然としている。(「冷淡だ」という意味もあるが、文意上こちら)
読み方(ローマ字)
Kore wo miyo.
Ue wa tsurenaki
natsukusa mo
shita wa kaku koso
omoimidarure.
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