駆け出し百人一首(19)住めばまた憂き世なりけり他所ながら思ひしままの山里もがな(兼好法師)
住(す)めばまた憂(う)き世(よ)なりけり他所(よそ)ながら思(おも)ひしままの山里(やまざと)もがな
新千載和歌集 2106番
**訳:俗世を逃れて住んでみると、ここも結局、辛いことの多いところであったなぁ。よそから眺めて憧れた、その通りの山里があったらなぁ。
I used to long for a Buddhist priest living in a mountain without stress. But I found that my life is full of stress, even if I became a Buddhist priest. I wish I could live in a utopia.**
「隣の芝生は青い」ということわざがあります。他人のものはよく見える、という教訓です。この歌は少しそれに似ています。
兼好は出家する前、出家した人たちを見ながら、「あの人たちは辛いこともないんだろうなぁ」と羨んでいたわけですが、いざ自分が出家してみると、山里暮らしにも辛いことは多いのでした。どこにも無条件の理想郷はないのです。
文法事項
憂き世なりけり:断定「なり」連用形+詠嘆「けり」終止形。和歌の文末の「けり」は詠嘆。
他所ながら:この接続助詞「ながら」は「〜のまま」。山里(出家後)ではない、他所(俗世)にいたままの状態で。
もがな:体言や形容詞などの連用形に付いて「があったらなあ」と訳す願望の終助詞。
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