計算の工夫(中学生編)

 ここでは、中学数学で知っておくと便利な計算の工夫を幾つか紹介します。

2元連立方程式の解法

 加減法で解くことが多いと思います。その際、何れかの文字の係数の絶対値をそろえますが、係数が大きいと桁数が増え、計算が大変になることがあります。いかなる場合であっても、次のように計算量を減らせます:
 まず、

$$
\begin{cases}
35x+29y=117\hspace{10pt}(1)\\
13x+19y=27\hspace{15pt}(2)
\end{cases}
$$


を例にとります。
 $${x}$$の係数の和と$${y}$$の係数の和が何れも48になることを利用します。(1)+(2)より((1)と(2)の左辺同士、右辺同士をそれぞれ足すことで)、$${48x+48y=144}$$になります。両辺を48で割ると、$${x+y=3}$$((3)とする)となり、係数がともに1になります。すると、例えば$${x}$$を求めるなら(1)-(3)×29として、$${35x-29x=117-3×29}$$、$${6x=30}$$、$${ x=5}$$とできます。そして、(3)から直ちに$${y=3-5=-2}$$が得られます。

 ここで、係数の小さい(3)が得られた理由は、(1)と(2)の$${x}$$の係数の和と$${y}$$の係数の和が何れも48になることでした。一方で、(1)と(2)それぞれで係数の差は35-29=6 , 13-19=-6となり、絶対値は一致します。この例のように、2つの式で、 $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差が、符号違いで絶対値が一致すると、2つの式を足すことで左辺を$${x+y}$$にすることができます。

 また、2つの式で、 $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差が一致すると、次の例のように、2つの式を引くことで左辺を$${x+y}$$にすることができます:

$$
\begin{cases}
38x+33y=-13\hspace{10pt}(4)\\
17x+12y=8\hspace{23pt}(5)
\end{cases}
$$

  $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差がともに5になる例です。(4)-(5)より、$${21x+21y=-21}$$となり、$${x+y=-1}$$((6)とする)です。(5)-(6)×12より、$${5x=20}$$つまり$${x=4}$$となり、(6)から$${y=-5}$$を得ます。

 以上の方法は、2つの式で、 $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差の絶対値が一致することが根拠にしているので、それぞれの式に適当な数をかけ、これが成り立つようにすることで、すべての2元連立方程式に利用できます。1つ例を挙げます:

$$
\begin{cases}
19x+12y=226\hspace{10pt}(7)\\
22x+17y=271\hspace{10pt}(8)
\end{cases}
$$

  $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差は7と5で絶対値が異なります。そこで、(7)×5、(8)×7を考えると、 $${x}$$の係数から$${y}$$の係数を引いた差はともに35となり、直前の例のように解くことができます。
 (7)×5は$${95x+60y=1130}$$、(8)×7は$${154x+119y=1897}$$なので、後者から前者をひき、$${59x+59y=767}$$つまり$${x+y=13}$$((9)とする)を得ます。(7)-(9)×12より$${x=10}$$が分かり、(9)より$${y=3}$$です。ある程度の計算は不可避ですが、通常の加減法と比べて途中に現れる数の桁数を抑えられます。 

展開、因数分解

 2つの多項式の積の展開で、乗法公式が使えない形のときは、地道に項を求めるのが基本ですが、同類項をまとめ忘れるなどケアレスミスが生じやすいです。次数が同じ項(下の例の下線部)を塊と見た上で展開すると、同類項が散らばらなくなります:

$$
\begin{aligned}
&(\underline{2x+5y}-4)(\underline{x-2y}+7)\\
=&(2x+5y)(x-2y)+7(2x+5y)-4(x-2y)-28\\
=&2x^2+xy-10y^2+10x+43y-28
\end{aligned}
$$

 整数の2乗の値を知っていれば、掛け算の筆算なしに、展開ができることがあります($${x+5}$$は、$${x+27}$$と$${x-17}$$の平均(中間)として得られます):

$$
\begin{aligned}
(x+27)(x-17)&=\{(x+5)+22\}\{(x+5)-22\}\\
&=(x+5)^2-22^2\\
&=x^2+10x+25-484\\
&=x^2+10x-459
\end{aligned}
$$

 この式を逆向きに見ると、組み合わせを見つけにくい2次式の因数分解が容易にできます($${x}$$を含む項をもとに、1次式の2乗を無理やり作ります(平方完成といいます)):

$$
\begin{aligned}
x^2+14x-851&=(x+7)^2-7^2-851\\
&=(x+7)^2-900\\
&=(x+7)^2-30^2\\
&=(x+7+30)(x+7-30)\\
&=(x+37)(x-23)
\end{aligned}
$$

 時折、$${9x^2-15x-104}$$のように、2次の係数が1でない2次式の因数分解を見かけることがあります。このような場合、一般には高校数学で習う「たすきがけ」で因数分解するのですが、次のようにも考えられます:

$$
\begin{aligned}
9x^2-15x-104&=(3x)^2-5\times3x-104\\
&=A^2-5A-104(3x=Aとした)\\
&=(A+8)(A-13)\\
&=(3x+8)(3x-13)
\end{aligned}
$$

 $${9x^2=(3x)^2}$$なので、置き換えによりうまく因数分解できました。因みに、2次の係数が整数の2乗でない場合も、似た方法で因数分解できます:

$$
\begin{aligned}
6x^2-7x-5&=\dfrac{1}{\,6\,}(36x^2-7x×6-30)\\
&=\dfrac{1}{\,6\,}(A^2-7A-30)(6x=Aとした)\\
&=\dfrac{1}{\,6\,}(A-10)(A+3)\\
&=\dfrac{1}{\,6\,}(6x-10)(6x+3)\\
&=\dfrac{1}{\,6\,}\times2(3x-5)\times3(2x+1)\\
&=(3x-5)(2x+1)
\end{aligned}
$$

 $${(6x)^2}$$を作るために、わざと式を6倍し、最後に6で割り、元に戻しています。

平方根、図形の問題で現れる計算

 有理化の際、約分された結果が分数でなくなる場合があります。実は、このようなときは、分母の無理数で約分が可能です。例えば、

$$
\dfrac{10}{\,\sqrt5\,}=\dfrac{\,10\sqrt5\,}{5}=2\sqrt5
$$

ですが、$${5=\sqrt5\times\sqrt5}$$なので、

$$
\dfrac{10}{\,\sqrt5\,}=\dfrac{\,2\times\sqrt5\times\sqrt5\,}{\sqrt5}=2\sqrt5
$$

とできます。整数がその平方根の2乗であることを使っています。
 あらかじめ、このように約分しておくことで、現れる数を比較的小さくでき、有理化後の約分が不要になります:
 先に有理化すると、

$$
\begin{aligned}
\dfrac{\,3\sqrt2+8\sqrt3\,}{\sqrt{42}}
&=\dfrac{\,3\sqrt2\times\sqrt{42}+8\sqrt3\times\sqrt{42}\,}{42}\\
&=\dfrac{\,6\sqrt{21}+24\sqrt{14}\,}{42}\\
&=\dfrac{\,\sqrt{21}+4\sqrt{14}\,}{7}
\end{aligned}
$$

 先に約分すると、

$$
\begin{aligned}                     
\dfrac{\,3\sqrt2+8\sqrt3\,}{\sqrt{42}}
&=\dfrac{\,\sqrt3\times\sqrt3\times\sqrt2+4\times\sqrt2\times\sqrt2\times\sqrt3\,}{\sqrt{42}}\\
&=\dfrac{\,\sqrt3+4\sqrt2\,}{\sqrt7}\\
&=\dfrac{\,\sqrt{21}+4\sqrt{14}\,}{7}
\end{aligned}
$$

 平方根とは関係ありませんが、約分に関して次の問題を考えます:
 2つの立体A、Bは相似で、相似比は3:4である。Aの体積が378㎤のとき、Bの体積を求めよ。
 Bの体積を$${x}$$㎤として、相似比を体積比に言いかえて、$${x}$$の比例式を解きます:

$$
\begin{gather*}
384:x=3^3:4^3\\
3^3\times x=378\times4^3\\
x=\dfrac{\,378\times4^3\,}{3^3}
\end{gather*}
$$

 ここで、最後の式の分母分子を計算してしまうと、$${x=\frac{\,378\times64\,}{27}=\frac{\,24192\,}{27}}$$となり、約分以前に分子の掛け算でミスをしかねません。この場合に限らず、約分できるときは、掛け算する前に約分し切ると余分な計算をせずに済み、その結果、計算ミスも減らせます:

$$
\begin{aligned}
x&=\dfrac{\,378\times4^3\,}{3^3}=\dfrac{\,126\times4^3\,}{3^2}\\
&=\dfrac{\,42\times4^3\,}{3}=14\times64\\
&=896
\end{aligned}
$$

 三平方の定理を用いて線分の長さを求める際、根号内が大きくなり、根号内を小さくするのに苦労することがあります。掛け算をせずに括り出すなどして、より小さな数の積を作ることを意識します:

$$
\begin{aligned}
\sqrt{37^2-12^2}&=\sqrt{(37+12)(37-12)}\\
&=\sqrt{49\times25}=\sqrt{49}\times\sqrt{25}\\
&=7\times5=35
\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}
\sqrt{24^2-(8\sqrt5)^2}&=\sqrt{8^2\times3^2-8^2\times5}\\
&=\sqrt{8^2\times(9-5)}\\
&=8\sqrt4=16
\end{aligned}
$$

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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