20-2.夏秋研修会コレクションご案内
(特集 夏秋コレクションde研修会)
下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.20
1.夏秋オンライン研修会のラインアップ
本号では,この2021年夏秋(7月末~9月末)の臨床心理iNEXTがオンラインで皆様にお届けする研修会コレクションのラインアップをご紹介します。
今年の夏秋研修コレクションのテーマは,『心理職として成長するために大切な専門技能を学ぶ』です。
◆7月25日(日)9時~12時
『知能検査の結果分析とフィードバックの方法』
◆8月22日(日)9時~12時30分
『オンラインによる発達支援の最前線』
─発達障害傾向のある子どもと親を支援する─
◆8月28日(土)9時~12時
『絵本と心理士の出会い』
─豊かなイメージの世界を臨床へ─
◆9月4日(土)10時~12時
『結局,公認心理師とは何か』
─何とかしようよ!公認心理師制度─
◆9月20日(月:休日)13時~16時
『心理職の技能として“協働”の活用に向けて』
─協働が困難な現実を越えるために─
◆9月26日(日)9時~17時
『解決志向ブリーフセラピーを活用するために』
─黒沢幸子先生に学ぶ1日ワークショップ─
2.夏秋コレクションのテーマ「心理職として成長する」
臨床心理iNEXTは,コロナ禍にも緊急事態宣言にも負けずに,皆様のキャリアップのための企画をご準備しました。このようなときこそ,ポストコロナの時代に向けて心理職としての実力を養っておきたいですね。
2017年公認心理師法が施行され,その到達目標として詳細なキーワードが指定されました。また,活動領域も5分野に分かれ,その中で分野個別の知識や技法が求められるようになっています。心理職の活動がどんどん細分化されていくことに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
そのような中で臨床心理iNEXTは,「心理職として成長するための専門性の基盤は何か」,「専門職として発展するために必要な技能は何か」を改めて確認し,皆様と一緒にその学習と研修を進めたいと考えました。そして,そのために役立つ講習会,シンポジウム,ワークショップを企画しました。それらの具体的な内容については,以下に説明致します。
3.知能検査を通して「アセスメントの専門性」を学ぶ
〈オンライン講習会〉
『知能検査の結果分析とフィードバックの方法』
【日時】7月25日(日)9時~12時
【講師】糸井岳史先生(路地裏発達支援オフィス)
【指定討論】高岡佑壮先生(東京発達・家族相談センター)
【申込】
◆臨床心理iNEXT有料会員(参加費無料)
⇒https://select-type.com/ev/?ev=GA-h57NeC5Y
◆iNEXT有料会員以外(参加費3,000円)
⇒https://select-type.com/ev/?ev=TDYWgi1ho-I
【プログラム】
1.講義
糸井先生が知能検査[WAIS]の検査実施,結果分析,フィードバックの要点を講義する。
2.事例検討会
若手心理職から事例発表があり,その事例に基づいて事例検討会を実施する。参加者は,糸井先生が発表者にスーパービジョンをするやり取りを観察し,糸井先生の解説を聴くことを通して知能検査の結果を分析し,その結果を適切にフィードバックする方法を学ぶことができる。
3.討論
参加者からの質問を受けて高岡先生が指定討論を行い,糸井先生との対話を通して知能検査のフィードバックの要点を確認していく。
【企画趣旨】
近年,「自分が発達障害でないか知りたい」「自分の能力の特徴を知って進路決定に役立てたい」といったことで知能検査を希望して来談されるクライエントが多くなっている。また,保健医療分野では,医師から知能検査のオーダーがあり,検査を実施し,御本人や依頼主である医師に結果をフィードバックすることが求められることが日常業務になっている。しかし,マニュアル通り作成した型通りの結果を一方的に伝えるだけで,むしろクライエントを傷つけている場合もあるとの批判も出てきている。
そこで,発達障害支援と知能検査のエキスパートの糸井岳史先生が,心理アセスメントの基本として,知能検査の実施,結果分析,結果のフィードバックのする際の要点について講義と事例検討を通して解説する。
※詳しくは,臨床心理マガジン20-1号⇒https://note.com/inext/n/n3a347d7bfee9
3.「発達障害支援」の基本技能の最前線を学ぶ
〈ウェビナーシンポジウム〉
『オンラインによる発達支援の最前線』
─発達障害傾向のある子どもと親を支援する─
【日時】8月22日(日曜)9時~12時30分
【申込】7月22日(木)頃に臨床心理マガジン20-3号でご案内
【プログラム】
企画趣旨説明「今こそ,発達支援Innovation」
・下山晴彦(司会/東京大学大学院教育学研究科教授)
◆第1部 オンライン支援の現状と課題
話題提供1「海外での自閉スペクトラム症の子どもへのオンライン支援」
・黒田美保(帝京大学文学部教授)
話題提供2「日本の子育て支援におけるオンライン活用の現状と課題」
・奥山千鶴子(NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事長/認定NPO法人びーのびーの理事長)
◆第2部 オンラインによる親支援の新たな試み
話題提供3「“こだわり”のある子どもの親の困難と支援」
・野中舞子(東京大学大学院教育学研究科専任講師)
話題提供4「オンラインによるペアレントプログラムの課題と将来性」
・東 敦子(帝京大学大学院文学研究科博士課程)
話題提供5「子育てにおける親の怒りへの,アプリを用いた心理支援」
・髙堰仁美(東京大学大学院教育学研究科博士課程)
◆第3部 オンライン発達支援の発展に向けて
指定討論「オンラインによる発達支援への期待」
・田中直樹(厚生労働省障害福祉課専門官)
座談会
黒田・奥山・野中・田中・下山(司会)
【企画主旨】
2020年4月の緊急事態宣言より始まったコロナ禍においては,感染症拡大防止のために乳幼児健診や発達相談が延期されたり簡略化されたりするなど,地域での発達支援の現場では大きな混乱が生じた。その一方で,対面リスク軽減のために広がったICT技術を活用した通信システムやWEB支援ツール活用の可能性はますます大きくなってきている。とりわけ双方向のオンライン通信システムの技術革新は安全性だけでなく,移動を必要としないという点で経済性の高さや専門的支援の地域均てん化というパラダイム変換につながる大きな可能性を秘めている。
本シンポジウムでは,発達障害支援の基本となる親子支援について,双方向オンライン会議システムや支援アプリの活用の実際から,その目的や実施上の課題などについて話題を提供する。加えて,海外における遠隔による親子支援についての情報などを話題提供し,わが国におけるオンラインを用いた発達支援の課題や将来の可能性について議論する。
(東京大学バリアフリー教育開発研究センターとの共催)
4.絵本を通して「子どもの心理支援」の能力を育む
〈オンライン シンポジウム〉
『絵本と心理士の出会い』
─豊かなイメージの世界を臨床へ─
【日程】8月28日(土)9時~12時
【申込】7月28日(水)頃に臨床心理マガジン20-3号でご案内
【プログラム】
◆第1部 絵本の魅力
1.絵本がひらく心の世界
・前川あさみ(東京女子大学)
2.絵本を通して伝えたい想い(仮)
・長谷川知子(画家・絵本作家)
◆第2部 絵本で安心を得る
3.子どものトラウマから安心GET
・下山晴彦 (東京大学)
4.絵本の世界から見直す認知行動療法
・松丸未来(東京認知行動療法センター)
◆第3部 絵本でつなぐチカラ
5.子どもと一緒に絵本を楽しむ
・横山雅代(絵本編集者)
6.座談会
前川・長谷川・松丸・横山・下山(司会)
【企画趣旨】
子どもの心理支援では,子どもの世界に共感し,一緒にその世界を楽しむ想像力やイメージ力が必要となる。心理職にとって,そのような想像力やイメージ力は,アセスメントや介入の基盤となる基本能力である。そこで,本シンポジウムでは『絵本』を媒介として子どもの世界を知り,そして子どもの世界を想像し,共有することの意味と方法を学ぶ。
絵本を通して子どもの心的世界やその心理支援を考察する著書のある前川あさ美先生※1),子どもの認知行動療法のエキスパートであるとともに絵本の原作者でもある松丸未来先生※2)に加えて絵本作家であり画家でもある長谷川知子先生,絵本の専門編集者である横山雅代様をお迎えて,絵本の魅力,そこから学ぶことができる子どもの世界,そして絵本を活用した心理支援の方法を語り尽くすシンポジウムです。
心理職の業界を越え,絵本づくりの専門家との交流を通して子どもと関わること,さらには子どもと保護者をつなぎ,子どもだけでなく大人の成長の糧ともなる絵本のチカラを学ぶための企画です。
※1)「絵本がひらく心理臨床の世界—こころをめぐる冒険へ」(創元社)
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784788516946
※2)「あんしんゲット!絵本シリーズ全5冊」(ほるぷ出版)
https://www.holp-pub.co.jp/author/a237008.html
※3)長谷川知子先生の絵本
https://www.ehonnavi.net/author.asp?n=1283
【前川先生からメッセージ】
絵本は子どもだけのものではないと思っています。大人の中にも心の中に子どもがいて,その子どもが絵本を求めているのか,あるいは,大人も絵本の中で癒されたいと求めていのか。そこはわからないけども,絵本は子どもだけのためのものではない。……言葉は情報や何かを説明する力を持っているが,絵もたくさんのことを伝え,教えてくれている。ときに言葉以上のものを提供してくれる。私たちの生きている世界を豊かにしてくれることがある。……絵本はいろいろなものを繋いでくれる。人と社会,現実,世界を繋ぐ,人と未知のもの,知識を繋いだり,読み聞かせで,人と人を繋ぐ。あるいは1人で読んでも心と体や心と頭を繋いだりする。ぜひ皆さんと話できればと思っています。
5.「心理職のキャリアップ」の基本プロセスを学ぶ
〈オンライン シンポジウム〉
『結局,公認心理師とは何か』
─何とかしようよ!公認心理師制度─
【日時】9月4日(土曜)10時~12時
【受付】日本心理臨床学会40回大会自主シンポジウム※
上記学会に参加登録をされた学会員のみ参加可能。
※臨床心理iNEXT代表下山晴彦の企画であるので,ここでご紹介をした。
【プログラム】
話題提供1「心理職発展のための4つのポイント」
・野島一彦(跡見学園女子大学)
話題提供2「公認心理師試験の現状と分析」
・宮川 純(河合塾KALS)
話題提供3「公認心理師の試験と養成」
・髙坂康雅(和光大学)
話題提供4「資格取得後の心理職の研修と雇用」
・下山晴彦(東京大学)
・指定討論:野島一彦
【企画趣旨】
公認心理師制度が心理職の発展に結びつくためには,「試験」「養成」「研修」「雇用」の4点が重要となる。これらの内容が専門性の健全な発展に結びつくものであれば,心理職は安心してキャリアップを目指すことができる。また,自身のライフデザインを描くこともができる。しかし,現実は,それとは逆の事態となっている。
資格試験は難問奇問が多く,心理職の試験として適切なのかとの批判が出ている。養成カリキュラムは,心理実践に結びつかない科目が多く,カリキュラムの見直しの必要性が言われている。資格取得後の研修と雇用は,心理職の専門性の発展と社会経済的な安定のために必須の課題である。しかし,職能団体が並立し,心理職の研修と雇用は統一的な対処がなされていない。
本シンポジウムでは,公認心理師制度の問題点や限界を検討し,若手心理職が安心してキャリアアップを考え,ライフデザインを描くことができる環境を整えるためには何が必要かを議論する。
6.心理職の基本技能として「協働」を学ぶ
〈参加集会型オンライン シンポジウム〉
『心理職の技能として“協働”の活用に向けて』
─協働が困難な現実を越えるために─
【日程】9月20日(月曜:敬老の日)13時~16時
【申込】8月20日(金曜)頃に臨床心理マガジンでご案内
【プログラム】
話題提供1「心理職は“協働”を技能として使いこなせるのか?──個人モデルから関係性モデルへ転換」
・下山晴彦(東京大学)
話題提供2「心理支援システム構築過程での協働の難しさ──大学,高校における2つの事例から」
・窪田由紀(九州産業大学)
話題提供3「心理支援のための臨床心理コラボレーション──システム論からの提案」
・田中 究(関内カウンセリングオフィス)
◆指定討論
信田さよ子(原宿カウンセリングセンター)
【企画趣旨】
日本の心理職は,長いこと個人心理療法を理想モデルとしてやってきた。しかし,公認心理師法が施行となり,連携や協働やチームの重要性が強調されるようになった。
そのような中で心理職が“協働”を適切に実践できるためには,関係性モデルやコミュニティモデルへの切り替えが必要となっている。
ところが,それがなかなか難しい。「協働」は心理職が現場で活躍できるための必須技能であるのにもかかわらず,心理臨床関連では積極的に議論されているとはいえない。そこで,心理職にとって,協働を使いこなせるようにマインドセットを変えていくことが,実は重要な課題になっている。本シンポジウムでは,心理職が協働を技能として使いこなすことに向けての課題と可能性を前向きに議論したい。
【信田先生からのメッセージ】
アディクションアプローチがベースだった私は開業心理相談機関を長年運営し,21世紀に入ってから家族の暴力(DVや虐待など)に積極的にかかわってきました。アディクションも暴力も,福祉事務所,精神保健センター,弁護士,家庭裁判所,婦人相談センターなどとの協働なくして「心理支援」は不可能でした。そのような経験にもとづいて,当日は指定討論者という大役を果たしたいと思っています。
7.現場で活用できる「問題解決技能」を習得する
〈オンライン ワークショップ〉
『解決志向ブリーフセラピーを活用するために』
─黒沢幸子先生に学ぶ1日ワークショップ─
【日時】9月26日(日曜日)9時~17時
【受付】8月26日頃に臨床心理マガジンでご案内
【企画趣旨】
従来の心理支援は,クライエントの問題に注目し,その原因を探って問題を取り除いていこうとする発想であった。解決志向ブリーフセラピーは,それとは異なり,クライエントのリソース(資源・資質)を活かし,クライエントが望む未来イメージに向けて,具体的な目標を作り,新たに解決や未来を創っていくことを基本とする。それは,クライエントとの協働関係を形成し,未来志向の発想に基づいて,小さな変化を取り上げ,それを大きな変化につなげ,問題を具体的に解決していく作業となる。
本ワークショップは,解決志向ブリーフセラピーのエキスパートである黒沢幸子先生(目白大学/KIDSカウンセリング・システム)に少人数で1日,しっかりと指導を受け,技能を習得する貴重なチャンスとなる。
8.専門職としての発展に向けて一緒に学ぼう!
2013年に,56年ぶりに東京でのオリンピックが決まった時には,誰もがコロナ禍の緊急事態宣言下での開催になるとは夢にも思っていなかったのではないでしょうか。それと同様に,2015年に公認心理師法が成立した時には,コロナ禍の中で心理職の専門性がこのように迷走するとは誰も考えていなかったのではないでしょうか。
公認心理師が誕生したことで学部,そして大学院の心理職の教育カリキュラムが一変しました。心理実践以外の多分野の知識の詰め込み教育となりました。公認心理師試験では難問奇問が出され,心理職として目指す専門性の方向が混乱しています。関連する職能団体や学会が並立し,心理職としてのキャリア発展の道筋も見えにくくなっています。そのような中でさまざまな団体が心理職の研修会を催しています。
多くの研修会は,「○▽療法の技法」や「△□分野の知識と技法」といったように特定の技法訓練や特定領域の知識を学ぶものとなっています。公認心理師は,「保健医療」「福祉」「教育・学校」「司法・犯罪」「産業・組織」いずれかの分野の,特定の領域(例えば「児童福祉」「司法矯正」「サイコオンコロジー」等々)において実務者として働くための資格です。したがって,勤務する特定領域の特別な知識や技法を学ぶ必要があるのでは当然といえば当然です。
ただし,心理職の専門性の発展という観点からするならば,最初から特定領域の実務に入り込み過ぎてしまうと専門職としての発展の本筋が見えなくなり,迷路に入ってしまいます。 “木を見て森を見ず”といった事態に陥ってしまいます。もちろん心理職でも,すでに現場で仕事の経験を積み,ご自身のキャリア発展の目標が明確になっている人にとっては,細分化された,個別のテーマの研修は必要なものです。
しかし,これから心理職としてのライフデザインを描き,キャリアアップを目指す若手や中堅の心理職にとっては,「5分野に分かれる以前の心理職としての共通基盤はなにか」,そして「どの分野に進むにしても専門職として発展のために必要な基本技能とはなにか」といった“本道”を修めておくことが必要となるわけです。
臨床心理iNEXTは,心理職の専門性を基盤として皆様のライフデザインとキャリア発展に向けて一緒に学びを深めていきます。
■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)
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臨床心理マガジン iNEXT 第20号
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◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房