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28-1.行政論を心理職の武器にする

(特集 新企画☆注目書籍の「著者」講習会)

髙坂康雅(和光大学)
Interviewed by
下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)

Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.28
【講習会のご案内】
■スクールカウンセラーのための関係行政論講座■
—教育分野で活躍できる心理職になるために—


【講師】髙坂康雅(和光大学)
【日程】4月24日(日)の9時〜12時
【申込み】
[臨床心理iNEXT有料会員](1,000円)https://select-type.com/ev/?ev=2GWHY5T-IAA
[iNEXT有料会員以外・一般](3,000円)https://select-type.com/ev/?ev=GVJ81h34QUo
[オンデマンド視聴のみ](3,000円)https://select-type.com/ev/?ev=5DzBH43JxfY

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1.【新企画】注目「書籍(新刊本)」の著者講義

臨床心理iNEXTでは,2月27日に『発達障害のある人の「ものの見方・考え方」』※の著者である高岡佑壮先生を講師にお招きして実施した講習会は,たいへん好評を博しました。

※⇒https://www.minervashobo.co.jp/book/b592118.html


そこで,新刊本を中心として,注目「書籍」の著者をお招きして講習会を新企画として実施することとしました。具体的には,心理職の専門性の発展に役立つ書籍を取り上げ,その著者を講師としてお招きしてのオンライン講習会を順次開催することとしました。

講師には,自らの著書の内容をテーマとした講義をお願いします。参加者は,書籍の内容を知るだけでなく,著者の執筆の意図を知ることで,さらにその内容を深く学ぶことができます。また,当日のオンライン研修会に参加された方は,著者とも質疑応答ができるので,そのテーマに関する知識を広げることもできます。

取り上げる書籍は,新刊書を中心として,臨床心理iNEXTの企画会議で推薦があった書物,出版社からのご紹介のあった書物,会員の皆様からご要望の多かった書物などが候補となります。

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2.深堀り「関係行政論」講義

今回は,新企画の第一弾として,冒頭で示したように髙坂康雅先生に,ご著書*『深掘り! 関係行政論 教育分野−公認心理師必携−』※に基づいてスクールカウンセラーのための関係行政論のご講義をお願いすることとしました。

※⇒https://www.kitaohji.com/book/b594771.html

【髙坂先生の講習会の狙い】
■『深掘り!関係行政論 教育分野─公認心理師必携─』(北大路書房,2021年12月刊)の著者による実践的な関係行政論講義

■SCとして働く心理職,SCを目指している学生,公認心理師試験の受験生に即効力のある講習会

■スクールカウンセリング活動を支える法律と制度を深堀り解説

■教員や教育委員会,さらには保護者との安定した連携を構築するためのポイントを深掘り解説

■法律に基づいて教育分野の制度と学校システムを理解するポイントを深掘り解説

私が髙坂先生にご講義をお願いしようと思ったのは,ご著書の内容が,とても新鮮で,しかもインパクトが強かったからです。以下に,髙坂先生にインタビューをして,今回の研修会に向けての抱負をお聞きしました。

3.学校は特殊な文化で成り立っている

[下山]ご本の「はしがき」で「学校という場所は極めて特殊な文化で成り立っている」,「学校には,……事務職員など以外で教師と児童生徒に該当しない者はほとんどいない」,「働き方改革やダイバーシティ(多様性)が叫ばれている現代社会のなかで,それを教えなければならない場である学校だけはその言葉が届いていない」と言い切っている。これは,私にとっては,新鮮であると同時にとてもインパクトが強かったですね。

そして,「公認心理師が学校という場に入って,活躍できるかどうかは,この特殊な文化を理解できるかにかかっている」と述べておられる。スクールカウンセリングの考え方や技法を解説した本は,これまで多くありました。しかし,このように“学校の特殊性”を全面に出した本は,これまでなかった。あえて,このように書いた意図を聞かせてください。

[髙坂]初めての国に行くときは,色々なことを調べると思います。その国のこと,通貨,言語,習慣など。僕も初めてオランダ行ったときは色々なことを調べた。でも,スクールカウンセラーになる人は,事前に学校のことを調べない人がほとんどです。自分たちが育ってきた場所だから,特殊な場所だと思っていないと思うんですね。

でも,いざ行ってみると,そこにいる大人のほとんどは教員免許を持っている。教員免許を持っていないのは,事務職員などの僅かな方々に限られます。ほとんど全員が教員免許を持っている場に行くのは,ある意味外国に行くようなことです。それにもかかわらずスクールカウンセラーになる人は下調べが全然足りない。

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4.行政論が実践のガイドラインになる

[髙坂]本の最初でインパクトを強くしたいということは,確かにありました。そこで伝えたかったのは,スクールカウンセラーが学校に行くのは,子どものときに学校に行くのとは,全く違う感覚なんだということです。教員の世界に入っていくことをしっかり自覚してもらいたい。スクールカウンセラーは,大学生でもなりたいという職種です。しかし,スクールカウンセラーは,実際になるのには覚悟が必要な職種だということを,まず伝えたかった。それなりの準備が必要だという場所という認識を持っていただきたいと思ったわけです。

[下山]なるほど,ご本に「公認心理師が,スクールカウンセラーとして学校に入り活躍できるかどうかは,特殊な文化を理解できるかにかかっている」と書かれておられたのはそういうことだったのですね。その点は理解できました。では,そのことと,関係行政論とはどのように関わっているのでしょうか。ご本では,教師論だけでなくて,行政論,特に法律が詳しく書かれています。なぜ,スクールカウンセラーが法律を学ばなければいけないなのでしょう。

[髙坂]もちろん学校の中で心理職がやっていくのがうまくやっていくためには,コミュニケーション能力や,教師からの歩み寄りも必要です。しかし,やはり「学校における共通言語は何なのか」を考えていかなければいけない。あるいは,教師としての専門性を侵さず,心理職の専門性を維持するために,教師と心理職の両者が重なる専門性のベン図の真ん中にあることを考えなければいけない。それは,法制度の知識となります。つまり行政論こそが,その両者の専門性を導くガイドラインになると思います。

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5.法制度の知識は最大の武器

[髙坂]教師も制度に則って動いているわけだから,心理職の論理や倫理観だけではうまくいかない。そこで,教師も理解している法律制度に乗れば,共通言語で話すこともできるようになります。逆に,法律制度に乗らないやり方をやられているときには,法律に則って「そうではないですよね」「こんなふうに法律に示されていますね」と伝えられるようになります。

いくら「心理学でこう言われています」といっても通じない。そこで,共通言語としての法律や制度を用いることで,きちんと説得できるようになる。心理職が「学校のこと知らないだろ」「教育のことは知らないだろう」と思われてしまうことに対して,法律に則って伝えるようにできる。だからこそ,学校に入る上で,法律を知っているのは,最低条件だと思いますし,最大の武器の一つとも思います。

[下山]確かにそれは当然ですね。しかし,多くの日本の心理職にとっては,今のご意見はとても新鮮だと思います。というのは,今までのスクールカウンセラーは,相談室の中で生徒に共感し,箱庭を実施し,親面接をしてきました。どちらかというと伝統的なスクールカウンセラーは,相談室の中で活動してきたので,法制度という,相談室の外側に目が行きにくかった。

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6.法律は共通言語

[下山]相談室の外部に視野を広げたとしても,心理職が関心を持つのは,学級風土,組織論,授業論といったことでした。あるいは,心理教育をどのようにするかといったことがスクールカウンセラーのテーマでした。法律まで手を伸ばすことは少なかった。ほとんど皆無だったといえます。ところが,ご本では,日本国憲法,学校基本法,学校保健安全法,いじめ防止対策推進法……といった法律とスクールカウンセラーの活動がセットになって解説が進んでいる。これを思いつかれたのはどういうところからですか?

[髙坂]教育分野で教師と関わるとき,あるいは不適応のお子さんや保護者と関わる中で教師とコミュニケーションをとる場面を考えてみてください。心理職は心理の話をする。それに対して学校の先生は,教育の話をする。すると煮詰まってしまう。問題は解決しないし,話が進まない。

そこで,学校教師になる人が学んでいて,かつ公認心理師カリキュラムで学ぶことの共通項を探すと「関係行政論」となるわけです。法律です。私は,これまで公認心理師試験の対策講座や過去問の対策を講義してきました。そのようなときに,参加者から「公認心理師になるために,なぜこのようにたくさんの法律を学ばないといけないんですか」といった質問をしばしばいただきました。

今まで心理職は,「認知行動療法をどのように実施する」「背景にどのようなパーソナリティがある」「検査はどのように実施する」などといった知識や技法を学んできました。たとえば,臨床心理士試験には,ロールシャッハが良く出ます。それは,心理職の専門性ではありますが,学校現場では,十分に役に立っていなかった。使われることも,ほとんどなかった。

このように心理職の知識や技法が社会で役に立つと認知されなかったのは,他の分野との共通言語をあまり重視してこなかったからだと思うのです。そういう意味で,教職課程と心理職の重なり合う部分を考えると,やはり法律だと思いました。

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7.学派による分断を超える

[下山]なぜ心理職がお互いに意見が違うか。その一つには,社会の視点がなかったことがあると思います。でも心理職といえども,制度の中にいるわけです。むしろ,心理職という専門職だからこそ,制度の中に位置づけられて初めて意味をもつといえます。そのような観点から見たときに我々心理職が制度を知って,その中でどう動くかという意識が必要ですね。髙坂先生は,青年心理学分野,公認心理師対策を熱心にされている印象でした。その先生がこのようなご著書を書かれるのは,意外でしたし,新鮮でした。元々関心がおありだったのでしょうか。

[髙坂]イメージとしては,本書を大学院の授業用に作りました。大学院で公認心理師のカリキュラムを受けた学生を現場に送り出すときに即戦力を育てたいと思うわけです。そのときに,心理だけの部分を考えて,不登校やいじめにかかわるやり方,認知行動療法や精神分析の理論の話をしていても,外に出ても役に立たない。

社会の視点がなかったことは心理の長い歴史の中の大きな課題だと思います。学校の先生からすると,その人がクライエント中心療法でも,認知行動療法でも,精神分析でも,ユング派でもなんでもいい。子どもの支援をしてくれればなんでもいい。すると,あまり心理の細かな技法について理解することは,現場で役立つ大学の授業としては効果的ではない。繰り返しになりますが,教師との共通言語を理解することが重要で,それが法律制度だと思います。

[下山]髙坂先生は,公認心理師試験の問題点として,受験勉強をすることで知識を実践から切り離してしまう危険性をしばしば指摘されてきました。それについて,本書を通して関係行政論の学習を実践から切り離さないようにしたいという意図はありましたでしょうか。(以下,次号に続く)


■原稿制作 by 北原祐理(東京大学 特任助教)
■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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臨床心理マガジン iNEXT 第28号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.28


◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房


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