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飲み屋でだけの友達
私が行きつけの居酒屋がある。
だいたい週に2回、多くて4回くらい通うその店。
どこにあるかはいわないが、とにかく居心地がいい。
作りは普通の居酒屋、店舗だって新しくないが、ものすごい古いわけでもない。
カウンター席が8席ほどと、奥にテーブル席が3つ。
最大で15人ほどのキャパだが、いつもがやがやしているわけでもない。
以前はバイトさんが一人いたが、コロナのせいもあり現在は店主一人で切り盛りしている。
私が席におちつくとにこりと笑い「よお、しんちゃん」と声をかけてくれる。
私はこの店では「しんちゃん」で名前が通っている。
私はいつも連れ添いと一緒に赴くのであるが、何も言わずにホッピーセットが二人分置かれ、私はメニュー版を見ずに、焼き台近くの壁に下がったホワイトボードを見つめ、本日のお刺身をいただく。
この店は一応もつ焼き屋なのだが、まずはお刺身が新鮮で美味しい。
仕入れ先のお魚やさんもたまに店で飲んでおり、私がその旨を伝えると実に嬉しそうな顔をしてくれる。
はじめてきたときは奥のテーブル席でメニュー版に書いてある食べ物をたのんで、というその辺の居酒屋と同じように過ごしていたのだが、いつのまにかカウンターを陣取るようになった。
私たちが店に赴くとわざわざカウンターの席をつめてくれたりする。
そう、馴染みになってもう6年がたつ。
それだけ馴染みだと、いろんな人と店で知り合いになる。
自分と同じように音楽をやっている人もいれば、どこかの会社の社長さんだったり、歯医者さんだったり、近所のスナックのママだったり、アニメーターさんだったり、年金暮らしのおじいさんだったり、年齢層も上は80歳から下は20歳と幅広い。
映画の話をしたり、はたまたわかりもしない政治の話や、野球の話をしたり、それぞれのバックボーンを聞きながら酒を胃の腑に継ぎ足していく行為がとても楽しい。
だが、それは居酒屋でのこと。
遊園地みたいに、一歩外にでればあとは普通の世界。普通の人。
街ですれ違っても会釈する程度にしている。
でもそれでいいと思っている。
それぞれ家庭があり仕事がありやりたいことがあり、自分の考えや世界があるのだ。
何も知らない私がその世界へ躊躇なくしらふで入れるわけがない。
その線引きがあるからこそ、居酒屋でまた再会したときが嬉しいのだ。
そう、飲み屋でだけの貴重なともだちだ。