虎の穴を考える
孤児院「ちびっこハウス」で
育った青年伊達直人は、悪役レスラーを養成する組織「虎の穴」で鍛え上げられ、タイガーマスクという覆面レスラーとなった。
しかし、経営難に苦しむちびっこハウスを助けるために、その50%を組織に上納すべきファイトマネーをその借金返済に当ててしまったので
ある。
虎の穴の掟を破り、裏切り者となった伊達直人には、次々と刺客レスラーが差し向けられ、リングの上で
死闘が繰り広げられるのである。
これまでの人生を振り返ると、
タイガーマスクのような感覚で
生きてきたのである。
ただ良かれと思い、自分なりに考えて正しい行動をしただけなので
ある。
であるのに、言われのない中傷を
受けねばならなかったのである。
自分にとっての虎の穴は、生まれ
育った家族である。
そして、虎の穴の掟にあたるものは、先祖ゆずりの価値観である。
これに抗い、戦ってきたのである。
家族から難題をぶつけられ、その解決のために戦ってきたのである。
そして、そのエンドレスに続きそうに見えた戦いが終わったのである。
なぜならば、自分の素顔を隠して
いた覆面が、突然はがされるような、そのような出来事に遭遇した
からである。
そして、素顔で、人前に出る。
そのような気力は、持ち合わせて
いなかったからである。
自らの覆面をはがされたことで、
リングに立てなくなった
タイガーマスクと同じ状況である。
と同時に、家族という虎の穴や、
家系の掟と戦う気力もまた、
失せてしまったのである。
そうすると、驚いたことに、
虎の穴の攻撃も徐々にではあるが、
影を潜めていったわけである。
時間が経つにつれ、心に平和と
穏やかさが戻ってきたのである。
心の平和のために必死で、
戦ってきたのである。
であるのに、戦う気力が、
失せ、戦いをやめたことで、
心が平和になったのである。
そして少しずつ素顔の自分で
生きることができるように
なってきたのである。
結局、虎の穴が敵では
なかったのである。
母親がミスターエックスでは
なかったのである。
自分の中にある虎の穴のような
理不尽な掟がネックとなって
いたのである。
自分の中にある執念深い
ミスターエックスがおり、
次から次に難題を送り込んでいた
ということなのである。
伊達直人は、タイガーマスクと
いう覆面をはがされたことで、
自らの秘めていた残忍さ、執念深さ、非合法的な精神をさらけ出す
こととなったのである。
その結果、虎の穴という組織が
崩壊したわけである。
自分もまた、自らの内面に
虎の穴のごとく支配的で冷酷な
感情を秘めており、それが一度に
噴出し、自己嫌悪に陥ったという
ことなのである。
虎の穴は、伊達直人のみならず、
自分の中にも、内在していた
のである。
これは、本当の自分を知ったと
いうことなのである。