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Detroit

シナモンのかぐわしさに 寒風を歩いた身体がぢんわりと温まる
秋が内側へ入り来た ふたつの日曜日では足りない街 

フリーダ=カーロの伴侶 四面に描かれた壁画の 白い彼女はしあわせさう
黄色の女性は哀しさうと問えば そんなことを言ふ人ははじめてと 

夜をさっさと往く 道端から囃す声 ささやかな灯り漏れる半円扉を押す
空間は夢のやう 円天井の拡がり 端々まで滲みた音が降り注ぐ
絶え間なき反響 昇りゆく泡に柔らかな光が落ち 仕合わせが満ちあふれる

チェロが響き 重なるドラムに呼応する鍵盤 筒を通り来る深い音
弾ける符 仔犬のやうな躍動 軽やかに奔り出したピアノに弦が跳ねた
音と場所 空気の層が形づくるもの 絶えず変化し 向こう側へと流れゆき
トランペットの伸びやかな軌跡に 爪弾きの陰が輝く
打ち込みの繊細さを 夜が包み込んでゆく

朝食を求め歩いていると道を尋ね来る人が 皆この街で朝食場を探して
マラソンの熱気から一夜 足早に行き交ふしずけさ ”ボブ、がんばれ
いけるぞ”と ゼッケンの名を見て声を限りに叫んでいた親密な気配は消え
親切な道路整理の人びとも去った 寒さを退けるコートの立衿が過ぎゆく 

ターミナルで乗り場をさがしていると 空港の待合でも一緒だった人の姿
また会ったねと話すと カリフォルニアからニューヨークへ向かうところ
ガボンは一気に近しくなる 出発時間まではもう一時 暫し通りをゆこう
互いの道中の安全を祈り ひそやかに別れを交わして

香り高く冬を彩ってくれた茶葉も最後の一杯 またゆきたいあの街へ

写真 (Detroit, MI 1) 写真 (Detroit, MI 2) 写真 (Detroit, MI 3 “ゴッホ展”)

(2022.10)

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芹沢 沓胡
Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛