NHKにようこそ!小説版(2001) 感想
初版が2001年ということを考えると仕方ないが、セカイ系レベル1といった感じの文体と内容で流石に古めかしさを感じざるを得なかった。主張も今となってはありふれたもので、それが2000年代一人称視点のラノベ特有の回りくどい言い方で展開されている。
全ページの1/3が経過してもコミックス2話分しか進まないという脅威の牛歩ぶりを見せつけており、漫画やアニメ版と比べると「いらないところが増えていて要るところが削られている」という、およそメディアミックス→原作の順で読んで起こり得ないであろう感想を抱いてしまった。(レ・ミゼラブルぶり2回目) 具体例をあげると、小説版ではエロゲのシナリオを書いているシーンで岬ちゃんは乱入してこない。童貞煽りもしてくれない。あるまじき事態である。総じてかわいさのラポールを築くだけの尺が足りていないように感じる。
「じわじわと、本当にじわじわと、あまりに遅くて気づかないほどの、どこまでもどこまでもイヤらしいスピードで、俺たちはゆっくりと追いつめられているのだ。」などキラリと光る一文はちょくちょく飛び出すが、例えば星野源の『化物』の「何気ない日々は何気ないままゆっくり僕らを殺す」に圧縮率でも伝達率でも負けている。本書の方が先に世に出ていたということを考えるとあんまりなジャッジな気もするが、そう感じるのだから仕方ない。
しかし漫画版・アニメ版では言及されなかった「岬が日傘をさしている理由」が判明したのは大きな収穫だった。他にも宗教団体の集会で縮こまる岬ちゃんなども見られ、メディアが変われど岬虐には事欠かないらしい。よいことである。
ストーリーに関しては、最終盤以外は漫画版と思ったほど変化はなかったが、メインキャラクターの性格や生い立ちは各種別人といっていいレベルな印象。特に山崎が全然違う。漫画版だとクレイジーとチルが数巻おきに切り替わるレム睡眠方式のキャラクターだったが、原作だとクレイジーの部分しか残っていない。
岬ちゃんとの契約書の文言は原作アニメ漫画共通のようだが、原作を読むことで漫画版の時抱いた違和感が少し晴れた。
というのも、漫画版の岬ちゃんなら書かなそうな部分がけっこう見られるのだ。たとえば「殴る蹴るの暴行を加えたりもしない。」の部分。この一節は漫画版でもチラッと描写される。しかし、関係性のステージにもよるが、漫画版の岬ちゃんはそういうことをされたらむしろ弱みを握れたと喜びすらするかもしれない。事実、同じ虫かごで飼われそうな先輩の方は「めちゃくちゃにして」と自棄っぱちの欲求を吐き出したりしていた。
しかし原作だと、どうも漫画版で嘘エピソードだった根性焼きファーザーがマジ設定になっているようなので、この一項はむしろ大変説得力があるといえる。
先輩についていえば、なんと原作では一発ヤっている。これは正直どうかと思う。主人公は童貞であるべきだ、みたいなインセル意識ではなく、一発ヤってるならその後ホテルを断った説得力があまり生まれないからだ。一応既婚者相手で遠慮したという言い訳は立つが、漫画版の「童貞でありながらヤれるチャンスを断った」という高貴さは失われてしまっている。もっともこっちが原作なので、むしろ漫画版で高貴さがアッパー調整されたという方が正しいのだろうが。
さて漫画版とまったく異なるエンディングだが、どちらの方が破綻しているかといえば圧倒的に漫画版で、原作の終わり方はかなりキレイに収まっていると思う。終盤のダイアログは「悪い神様」や「巨悪には特攻しかない」などの散りばめたエレメントを無駄なくコツコツ回収しているし、NHKにようこそというタイトルの回収もうまくやっている。
正直、漫画版を先に読んでなお原作のエンディングの方が好みよりなので、先に原作から触れている人なら原作の狂信者になってもおかしくはない。
実は自分が漫画版で一番好きなシーンは、シャワールームを挟んだ自殺未遂攻防だったのだが、本作はそのオイシイ部分だけ煮詰めたようなエンディングを迎えており、心中契約まで果たしている。かなりよろしい。
とはいえ、漫画版でもつきまとった「たった一行の真実を言いたいばかりに百頁の雰囲気をこしらえている」問題からは脱却できず、中弛みという面では五十歩百歩かもしれない。漫画版もとくに中盤は空虚な日々が続いているが、空虚だろうと岬ちゃんといた時間の長さがだいぶ違うので、キャラクターへの思い入れを構築するという意味では必要な時間だったように思う。
以上、SOS団でした。
ひとつはっきりしているのは、この作者は100%なんらかの薬物をやっているということだ。(追記:『超人計画』によると、マジにそうらしい。だろうね。)あとがきを見ても、前回書いたように作者が佐藤に過剰な自己投影をしていることは疑いようがない。自己投影というより自己のコピー&ペーストといった方が近いレベルである。