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#北欧をまなざす vol.3 〜「対話って実際どうなんですか?」先生に聞いてみた〜
Moi! (こんにちは!)#北欧をまなざす ライター・ひかるです。
7月のフィンランドは晴れると昼は25度ほどまで上がりますが、夜は15度ほどまで下がり、上着はまだまだ手放せません。
シリーズ #北欧をまなざす は、「私から見たフィンランドのリアル」をお届けして北欧やフィンランドに対してよく言われている「よい」というイメージや事実をまなざすきっかけを作ります。
「まなざす」とは、「目の前に広がる多様な世界への理解をより深めるために、様々な角度から見つめること」をさします。
第2弾では「給食」に潜んでいるたくさんの「当たり前」が構築された背景をまなざし、フィンランドと日本の教育の姿をお伝えしました。
第3弾では、フィンランド教育の特徴のひとつとしてあげられる「対話」をまなざします。
日本でも2020年に向けて学習指導要領の改訂が行われますが、その改訂の一つに、どのように学ぶのかの視点として「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の導入があります。
日本でも注目されている「対話」のあり方。
なんとなく効果的で良いイメージがありますが、フィンランドでは実際にどのような授業が行われ、先生たちは何を感じているのでしょうか。
フィンランド教育における対話の「ただよい!」側面だけでなく、難しい面にも目を向けて「対話」のあり方をまなざします。
1. フィンランドの「対話型教育」ってどんな感じ?
まず、実際に私のボランティア先の学校でどのような授業が行われているのかを見ていきます。
フィンランドの学校では、授業自体が「対話」を基調に設計されています。
こちらは7年生の数学の授業の様子です。
※プライバシー保護の関係上、写真をぼかしています。
1クラス生徒は20人ほどで、ティーチングアシスタントがつく場合は教師は2人です。生徒は前向きの机ではなくグループ型の机で、生徒は好きな場所に座ります。
75分の授業のうち、先生が前で単元の説明をするのは10~15分ほどで、その後生徒は各自教科書の問題を解き進めていきます。
その間、先生は教室を見回り、生徒がつまずいているところを個別で話しながら解説します。
また、生徒同士で話しながら教え合う様子も見られます。
教室が静かになることはほとんどなく、常に誰かの話し声が聞こえている状態です。
こちらは9年生の社会の授業です。こちらも、1クラス生徒は20人ほどです。
先生が前に立って宿題や前回の授業内容の確認をするときも生徒にたくさん質問を投げかけ、生徒は挙手をして積極的に答えていきます。
その後のワークの時間では、生徒は個人や友達と一緒に調べ学習や意見論述などの課題に取り組み、わからないところがあったら先生を呼んで質問をしています。
他の科目の授業も含めて、共通点としては以下が挙げられます。
・グループ型の席配置で、生徒は好きな場所に座れる
・先生は前で話すときも、生徒に問いかけながら進める
・生徒がワークに取り組む時間が大半で、生徒同士で話しながら取り組む
・その間、先生は教室を見回って個別でコミュニケーションをとっている
2. 対話型教育が導入された背景-コアカリキュラム改訂
「対話」を基調とした授業形式は以前から導入され始めていましたが、2016年のコアカリキュラム改訂では以下が実施され、全国規模で導入されました。
1.「実例に基づいた教育」制度を導入する
・・・新教育課程は、1年間のうち少なくとも数週間は「実例に基づいた教育」を実施するよう義務づけている。「実例に基づいた教育」では、1つの科目ではなく、広範囲の異なる分野にまたがったテーマに焦点を当てて学ぶ。
2.生徒自身がともに授業を計画する
・・・フィンランドの生徒たちは、新教育制度の計画作りに自らも携わり、そして自分の成果を評価をする。
3.共同作業に重点が置かれる
・・・新教育課程では、生徒たちはいくつかのグループに分かれて授業を受ける。
(ハフポスト掲載記事より引用)
このうち、「対話」を基調とした授業づくりは「3. 共同作業に重点が置かれる」に関わってきます。
従来の教師と生徒が向き合う形の教室設計から大きく変わり、いくつかのグループに分かれて授業を受けるスタイルへと変わりました。
これによって生徒同士のコミュニケーション能力を高めることが目的とされています。
また、授業自体も先生から生徒への一方的なものではなく、双方に飛び交うコミュニケーションを促しています。
3. 様々な「対話」の側面-先生に聞いてみた
ここまで、授業の様子とカリキュラム改訂について見てきました。
実際に対話を取り入れた授業、学校づくりの鍵を担うのは現場にいる先生たちです。
ここからは先生に注目して、実際にどのような役割を果たしているのか、どのような苦悩があるのかを見ていきます。
第2弾でも紹介しましたが、フィンランド教育に精通しているニーロ・カルビネンさんをお招きして、5月末に「フィンランド教育から未来の教育を考える」というオンラインイベントを開催しました。
そこで、対話に関してこのような質問が出てきました。
参加者の方:「フィンランドではグループワークを中心とした授業が行われているとのことですが、グループワークになかなか取り組もうとしない子に先生はどう対応するのですか?」
ニーロさん:「先生の質問力が大事になってきます。強制的に子どもたちに取り組ませるのではなく、対話や質問を通して子どもたちが学習に取り組めるように働きかけていきます。」
この会話、そして前述の通り、私の学校でもよくグループワークが行われます。
そして、なかなかワークに取り組もうとしない子もいます。
先生によって声のかけ方は異なりますが、強制的に鉛筆を持たせたり一方的に強い言葉を発したりしてワークに取り組ませる先生はいません。
1人や4, 5人など、全体ではなく個別に対して向き合って声をかけていき、ワークに取り組むように促します。
このように、フィンランドの先生たちにとって「対話力」は欠かせないスキルとなっています。
一方で、私はボランティア先の先生とこのような会話をしました。
先生:「日本の中学校は携帯電話を持ってきてはダメとあるけれど、もし持ってきていたら先生たちはどんな対応しますか?」
ひかる:「いろいろな対応があるけれど、私のいた中学校では先生が携帯電話を取り上げたり、状況によっては保護者に連絡して指導したりもあり得たと思います。」
先生:「フィンランドでは、たとえ授業中に生徒がスマートフォンで授業とは関係ないことをしていたとしても、教師は対話でしかやめさせるのを促せません。
例えば、もしも授業前に生徒のスマートフォンを教師が集めるというような強制をかけてしまうと、教師が権威を持ちすぎているとして保護者から通告を受ける可能性もあります。
対話で促すことの大切さはわかっているけれど、対話だけで促すことに難しさも感じています。」
ボランティア先の学校では生徒が学校に携帯電話を持ってくることは禁止されていません。そして、特に7年生以上では授業中も必要な時に使用することが認められています。
一方で、全員がそうというわけではありませんが、スマホゲームやスナップチャットなど、授業とは関係のないことにも携帯電話が使われているのが現状です。
先生は「自由な環境で対話を通して生徒が学びを得ることと、ある程度の決まりや制限を作ることとのバランスが取れた教育のあり方がよりよいのではないか」と言っていました。
2016年に導入され、よい効果が注目されることの多い「対話」を通した学びですが、一方でその裏側には現場の苦悩も存在すること、そしてよりよいあり方を模索しているということがわかりました。
4. おわりに
今回は「対話」というテーマで、フィンランドの教育現場において対話の「ただよい!」という側面だけでなく、難しい面にも目を向けて「対話」のあり方をまなざしました。
でも、現場の先生たちは、よりよい対話のあり方を模索し続けている。
ーここに注目すべき点があると思います。
私はフィンランドの学校で活動してみて、生徒と先生が相互にコミュニケーションをとっていくことにはとても大きな意味があると感じています。
一方で、少人数クラスであってもやはり1人で20人の生徒とこまめにコミュニケーションを授業中に取ることは容易でないとも感じています。
対話の大きな鍵を担っている先生の実際の言葉を聞いて、今まで対話型教育のよい面しか見ていなかったと考えさせられました。
日本でも「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が2020年より導入される予定です。
例えば30~40人のクラスでどのように主体的・対話的で深い学びを生徒に提供するのか、先生たちはどのように対応をしていくのかなど、私たちが想像するべき点は多岐に渡ります。
フィンランドと日本で異なる状況はありますが、カリキュラム改訂で期待した効果が表れている面、実際に難しい面の両方に注目した上で、よりよい「対話」のあり方を日本においても考えることが大切ではないでしょうか。
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次回は「障害者福祉」というテーマで、私が6、7月にボランティアをしている精神的な障害を抱える人の支援施設の特集を行います。
「キャンプヒルコミュニティ」というヨーロッパを中心に広がった障害者支援の施設において、どのような考えが大切にされて、人々はどのような生活を送っているのでしょうか?
こちらも、どうぞご覧ください!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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