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-99.9%からの逆転シナリオはあるのか?キーマンが語るインバウンド観光の本質

本記事は、2020年7月23日に開催された「日本インバウンドサミット2020」でのパネルディスカッションのレポートです。

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<登壇者>
・星野 佳路 氏(星野リゾート 代表)
・山田 桂一郎 氏(観光カリスマ / JTIC.SWISS 代表)
・加藤 史子 氏(WAmazing 代表取締役社長)
・大西 洋 氏(羽田未来総合研究所 代表取締役社長 / 日本空港ビルデング 取締役副社長)
・青木 優(MATCHA 代表取締役)※モデレーター


青木 パネルディスカッションのテーマは「-99.9% 日本のインバウンド観光逆転のシナリオ」で行っていきますが、まずは自己紹介をお願いします。

加藤 訪日外国人旅行者向け観光プラットフォーム「WAmazing」の加藤です。日本の観光資源と外国人旅行者をマッチングするビジネスを創業して4年になります。日本中の空港で無料SIMカードを配って人を集め、宿泊や買い物、交通とかアクティビティなどのマッチング手数料を得るモデルです。

山田 JTIC.SWISS 代表の山田です。マッターホルンで有名なスイスのツェルマットに住んでいます。現地では観光局やガイドをやっていて、日本に戻る時には地域振興活性化のお手伝いをするようになりました。

大西 大西でございます。羽田空港が出資した羽田未来総合研究所で主に地域創生をしています。日本のGDPの半分は地方からで、10年先20年先へ向け日本の地域が持っている生活文化産業を支援しています。3年前まで流通業をやっておりましたが、あまりにインバウンド熱が強すぎて、ターゲットを受入側が捉えてお応えしていかないと、数が増えるだけの問題ではないと思いやっていました。


インバウンドは今後どこから戻るか、どう呼び戻すか

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青木 インバウンドの今後のヨミについてお聞かせください。

加藤 人の旅行欲求は変わらないと思います。私が起業時に考えたインバウンドの未来需要予測図では、縦軸=経済力(1人当たりGDP)と横軸=訪日の容易さ(日本へのフライト時間)でマッピングすると、欧米は豊かだが移動時間がかかるのであまり来ない。アジアは豊かになりかつ近いのでどんどん増える、という構造は一時的に減っても変わらないです。中国のパスポート保有比率はまだ1割、東南アジアは人口規模が多くこれから経済成長する国から近い人気旅行先の日本は、まだまだ成長産業になりうると思います。

大西 コロナ以前からインバウンドの課題があり、4兆円でGDP 1%未満でなく10兆円20兆円にするために考えるべきで、海外の方に認知されていない地方にあるいいものを高く、付加価値を付けて高く売ることが重要と思います。今後はアジアだけでなく、将来的には日本の良さを理解できる欧米の方々も来ていただけるポテンシャルがあると思います。

山田 どこからいつから来るのか、受け身の姿勢ではなくて、地域や自社に来ていただきたい方は誰か?を考えて能動的に動く準備が必要です。ターゲットのセグメントは国や地域別だけでなく、どの地域の方に対しても日本の自然やアクティビティなど共通の目的や価値へのポジションを取って行くことが大事と考えます。台湾や香港でも歴史が好きな方、自然が好きな方などいろいろいるので、地域や事業者がポジションを棲み分けるのがいいです。

星野 長期的には売上のボリュームは近いアジアから来るでしょう。ただしアジアで調査すると、日本は憧れの場所になり切れてないと思います。本当はローマやパリに行きたい西洋文化に憧れているアジアの層にイメージでリードしないと、アジアからも来続けないかと。数は少なくても欧米の一流の目利きが憧れる行き先になれば、それをよく見ているアジアの人々は欧米人の憧れの地に行きたいという構造があるので。アジアをメインターゲットという顔をせずに、欧米が憧れる場所になると自然にアジアも来ると思います。


欧米とアジア、イメージターゲットとボリュームターゲット

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青木 世界に押すべき日本のイメージはどこでしょう?

星野 イメージターゲットは欧米、ボリュームターゲットはアジア。日本の文化観光のレベルは高く、一番弱いのは自然観光で、その強化を今しておくのは重要です。エコツーリズム、雪、国立公園、世界自然遺産がありながらなぜか集客は落ち続けている。苦手な自然観光を強化しないと、リピート理由になっていかないです。何度も来ていただくには、自然観光を強くすることが日本の観光力強化に重要と思います。

加藤 1回では大きな消費にならないので、何度も来るリピーターが大事。行くたびに違う魅力で飽きさせないように見せていかなくてはいけない。観光大国のフランスのアイコンはかつてエッフェル塔や凱旋門だったが、近年はモンサンミッシェルを出してリピーターを呼んでいます。日本も自然観光などまだ見ぬ日本を出していける多様性があると思います。

山田 欧米というのは教養を持つ富裕層を指すかと思っています。スイスのブランドイメージは、観光以外に精密機械、製薬、金融など上質のサービスを売ってきたからこそ、多くの人が住みたがるしお金も集まるように、国や地域としての信用信頼を得るクオリティを磨いていくことに手を抜けないと思います。リテンション戦略はスイスの得意技ですが、エリアで顧客と信頼を構築したら良いと思います。

大西 国際線が元に戻らない、全体客数が戻らない前提で考えると、豊かな生活を感じている欧米の方々が来ると単価が上がると思います。東南アジアの方には急須や江戸切子などの伝統工芸が売れるのですが、欧米の方にはさらにアーティスト、デザイナーが加わると付加価値となり、高くてもお金を出していただけます。

青木 海外のお客さん対してクオリティを上げるにはどうしたらいいでしょう?

星野 クオリティ=価格が高い、ではなく地元らしさ、本物らしさが旅の質につながると思います。ただ単価を上げるために何をするか考えるだけでなく、質を追求すると単価が上がってくるといいと思います。日本は地域が独自の文化を持っており、地域らしさの反映は地域で考えるべき、地域のスタッフが提案するべきです。観光はご当地自慢ビジネス。日本のおもてなしは「ここにいらしたら、これを食べていただかないと困ります」とある意味押し付けでなくてはいけなくて、それが西洋のサービスと日本のおもてなしの違いと思います。そういったことを各地域でつくることが何度も来てくれる理由になると思います。

青木 300万人ほどいる日本在住外国人を対象にすると、未来の訪日につながるのでしょうか?

加藤 在留外国人には力を入れています。日本に約280万人=人口の2.8%程ですが、長期では2050年に12.8%になるシミュレーションで、移民国家イタリア並みになります。彼らは母国の旅行者に対するインフルエンサーにもなります。

大西 日本在住外国人のマーケティングがきちんとできていない問題があります。彼らが潜在的に何を望んでどんなことにお金を使うかを考える必要があります。

青木 安全性が今後行く国を選ぶ基準だとすると、日本に住んでいる外国人が国内旅行をする中で、日本は大丈夫とか魅力的だと発信してくれるとインバウンドが戻りやすいかと実感します。

星野 日本在住者が増えている背景は何でしょう?

加藤 訪日旅行者とは構成が違い、中国・韓国に次ぐベトナムやフィリピンからの出稼ぎが増えています。国策としてこれらの方々を労働力として求めています。

星野 私は日本在住外国人を違ったセグメントとして認識したり、違いを感じたりはしていないです。国内外国人と日本人、同じ旅のニーズを持っているのではと思います。違うチャネルとしてやらなくてもいいのではないかと思っています。

加藤 弊社の4割の外国人社員も、日本人向けのサービスをそのまま求めており、かつ日本人以上に貪欲です。

山田 ツェルマットは人口の3人に1人が外国人ですが、来てくれるのは近くの人でも外国人でも、誰でも目的が一緒であればいいと思います。住んでいる住民が、地元の料理やアクティビティなどを楽しみ支持しているかが大事で、地域のリアリティがないものは外に売れないので、地域自らがおいしい楽しいとライフスタイルとして見せるのが大事と思います。あと、スイスですと時計もチョコレートも、高価なものから安価なものまであり、安いから悪いではない。ターゲット層の三角形、その頂点を上げていかないと市場が広がらないと思います。


地域が「来ないで」と拒否するメッセージがあってはならない

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青木 最初の海外旅行先として日本が選ばれるために重要なメッセージはなんでしょう?

星野 4月5月に地方が「来ないで」とメッセージを発信しましたが、6月に調査した結果では、地域のブランドを落とした感じがしています。インバウンドが戻る時にも、「あなたの国からは来ないでください」とか言うことは、長期的にはマイナスになる可能性があることを分かった上で、どう安全を確保するかが大事。日本の国際性が試されています。人種や地域でステレオタイプに来るなとか言うことには、本当に注意しないといけないと思います。

加藤 「来ないでくれ」は差別であり遺恨を残します。平和産業である旅行にマイナス。あと安全を発信することは大事ですが、6ヶ国への調査だと日本だけが公衆衛生に関するこだわりが低く、当たり前のことと捉えている感覚です。そこまでの水準でない海外からは衛生管理、公衆衛生の取り組みに各国関心が高いので、「しっかりやっています」とやり過ぎな程言わないと伝わらない可能性があります。

大西 認証制度を発信していく、県や自治体が安心ですよというメッセージをしていくといいと思います。

青木 これからの観光を考えると、この間旅行に行けなくて生活の質を高めることを大事にする人が増えて、旅行も非日常だけでなく、ライフスタイルが上がっていくような見せ方が文化につながっていくやり方があると思っています。

山田 価値のあるものは見せ方があるはずで、あれもこれもある、ひたすらうちに来て、だけでなく、地元が楽しんでいる、かつ安心安全にやっていますというメッセージを出していけばいいかと。スキーで誘致していても地元人がスキーをしていない地域もありますが、香川県では讃岐うどんは地元が食べている、というような本質的な価値をメッセージとして出していくことが大事と思います。

大西 安心安全はベースで、さらに豊かさとは期待していた以上のものをお客さまに提案していくことで、そこに知恵を絞って感動させることがクオリティで、日本はその部分で他国と戦っていくべきと思います。


インバウンド再開の合意形成に、地域経済への貢献度を地元へ発信

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青木 地域がインバウンド受け入れに否定的な場合、どうしたらいいでしょう?

加藤 観光事業者の意識だけで進めて、地元で非難を受けるようだと商売はしていけない。生活者を含め、地元ごと意識が変わらないと難しいです。

星野 観光産業が地元経済にどうインパクトを与えているか、情報発信が足りないと思います。観光事業者だけが利益を上げるためにインバウンドやっているのではなく、地域経済の新たな担い手になろうとしている姿を伝えないと、観光に関係ない人にマイナスな部分しか見えないと思います。それを伝えるのは重要で、町を歩いている外国人が来ていることが地域経済にプラスだと思ってもらうと「ウェルカム」と笑顔も出てくるわけで、将来の地方の経済へのインパクトを説明することが重要と思います。

実は観光産業側にも生産性が低いという問題があって、28兆円という日本で5番目に大きい産業ですが、金融や自動車のように日本経済に貢献していない感があるのは、利益を出していないからですね。私たちは生産性を高めて収益を出して投資して、地方経済を回していることを、売上だけでなく収益面でも示さないといけない。非正規雇用は75%だが正規雇用を増やさないと地方税も落ちていかない、そのために必要なのが需要の平準化。100日黒字で265日赤字というような状況を平準化するために、本格的に取り組まないといけないと私は主張しています。

青木 最後に一言ずつお願いします。

大西 日本の次世代がどうなるか。観光だけでなく日本の国力としてどう育成、稼ぐか、そのために日本の豊かさを伝えるストーリーも価格に反映できるよう観光が盛り上がっていければと思います。

加藤 インバウンド消費額15兆円になればナンバーワン産業に。サービス業が地方でも成立し、雇用も生める、世界中の人と向き合える平和産業なので、悲観するのではなく前向きに明るく、これまでにもあった問題もこれを契機に前向きな変革点にして、観光を一大産業にしていければと思います。

山田 住む町以外から来れば全部インバウンドです。誰に来ていただきたいのか、皆さんのところでこそ満足いただけるのは誰か、ポジションを決めていただければと思います。こういう状況で戻るのは新規客でなく馴染み客。これまでどれだけ外国人の方とつながってきたかで、戻りが早いかどうかが分かれると思います。

星野 加藤さんの話を聞いて、インバウンドが戻る時は、この産業に居ることのやりがいをますます感じられると思いました。東京の感染者が200人を超えただけで東京がGo Toから除外されましたが、こういうことだと戻ってくるのは不安ですね。国境が空いた時に、偏見なく地方がウェルカムできるかが最初の勝負どころだと、今日の議論で感じました。

青木 本セッションは以上になります。みなさん、貴重なお話をありがとうございました。

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執筆:DeepJapan.org エグゼクティブ・ディレクター 萩本良秀

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▼ 株式会社MATCHA(インバウンドサミット主催者)


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