「本物の日本」で推し進めるクールジャパン戦略
2020年7月23日に開催されたインバウンド業界最大規模のカンファレンス「インバウンドサミット2020」。「クールジャパン」セッションの様子をお届けする。
クールジャパン戦略は、外国人がクールだと捉える日本の魅力を活用し、世界の「共感」を得て日本への愛情を有する外国人(日本のファン)を増やすことで、日本のソフトパワーを強化するための日本のブランド戦略である。
内閣府および各省庁において、国全体としてのクールジャパン関連施策を実施してきたが、新型コロナの影響により、戦略を進める上での従来の前提が崩壊し、調査・分析を踏まえた戦略の再構築が必要となっている。
富裕層に着目し顧客単価を上げるべき
顧客単価を上げることがこれまでの日本のインバウンド業界の課題で、なかなか単価を上げることができずに今日まで来てしまった。そうしたことからも富裕層の長期滞在を大切にすべきだと言える。
自然と文化をマネタイズし、また日本の質の高い食体験と現代アート・建築も彼らに売り込む重要な要素となる。そして富裕層の方々が日本のそうした自然やアートを求めて訪れる際に、どれだけ室の高い宿泊施設、飲食を提供できるかが今後の鍵となってくる。
まずは地域の暮らしがキーポイントに
自然と文化といえばもちろん都心部ではなく、地方が主役となってくる。また、ターゲットとしている富裕層の人々は、日本だけでなく世界中の素晴らしい場所を知っている。
そうした旅行者は日本が素晴らしいということは十分知っているが、世界を回ってきた中の全てとの比較となるため、別府温泉を例に上げても、世界のスパリゾートと渡り歩けるような一流の設備を用意する必要があるだろう。
しかし地方で本当に優先すべきことは、インバウンドでも観光でもなく、まずは地元の人々が楽しく、心地よく、経済的にも不自由なく暮らしていけるような暮らしを作り、暮らしそのものを充実させることである。そしてその上で、国内を含めお客さんを呼び込んでいかなければならない。
ヒントは過去の歴史に
ゴーギャンが浮世絵に出会ったように、ジャパナイズドフェノメノンが起こっている。
海外でも剣道・柔道・合気道の競技人口が約7千万人弱くらい増えているといった事実についても、SBNR(Spiritual But Not Religious/無宗教型スピリチュアル層)的な指標で見ると、何が起因しているのかといったことについての研究・調査が圧倒的に足りていない。
フランスにおけるガストロノミー戦略やアメリカのハリウッド戦略といった確固たる戦略が日本にはまだなく、まとめあげる機関もないため、まずは一旦ジャパナイズドフェノメノンがどういった状態にあるのか、分析・研究すべきである。
また、過去にヒントが隠されている例も多い。例えば山形県・鶴岡市を例に挙げると、鶴岡市は江戸時代の大飢饉で他所が大打撃を受けたにも関わらず、死者が非常に少なかったことが要因の一つとなり、ユネスコが価値を見出し食文化創造都市に指定された。現在では世界中の調理学校からフィールドワークとして訪問されるまでに至っている。
このように過去のヒントを現代版に再解釈するアクティビティ、すなわちインタンジブルバリューをどうバリュー化していくかも鍵となる。コロナ禍のこの1~2年のうちにアクションベースにしていくことが重要となるだろう。
地域に根づいた「本物」を
コロナ禍の今こそ「ピンチはチャンス」であり、新たな価値基準を作るべき最大のチャンスに我々は直面していると渡邉氏は言う。
そして梅沢氏は富裕層になればなるほどグローバルなマーケットに(国ごとの差異はあまりない)なり、彼らは”本物”を求めているので、まず日本全国でニューラグジュアリー層に向けたマーケティングを展開→世界の富裕層といった流れで戦略を展開していきたいという。
また田舎が元気になればなるほど魅力的になるため、今は地域を元気にして、世界水準のコンテンツをどんどん作るべきである。日本はまだまだコンテンツ力が薄いので、地域軸のプロモーション映像ではなく、本物を求める彼らに響くような高いクオリティのコンテンツを作る必要があるとトム氏は述べた。
最後に三又氏はこれからの日本の価値は、物理的なモノではなく非物質的な「無形資産」であるとまとめた。
今こそ新たな価値基準を作り、地域の力をベースにした「本物のコンテンツ」によるクールジャパンが推し進められていくことに期待したい。
<登壇者>
三又 裕生 氏
内閣府知的財産戦略推進事務局長
梅澤 高明 氏
A.T.カーニー 日本法人会長 CIC Japan会長
渡邉 賢一 氏
XPJP 代表取締役 バリューデザイナー
トム ヴィンセント 氏
トノループネットワークス 代表取締役
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執筆:明治大学 篠田誠
編集:明治大学 安田舜
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