世界に評価される日本食に、まだ足りないものとは?フーディーから飲食業界へのメッセージ
2020年7月23日に開催されたインバウンド業界最大規模のカンファレンス「インバウンドサミット2020」。「食」セッションの様子をお届けする。
日本の"食"は専門料理の集合体であり、バリエーションに富んでいる。それは既に、世界の多様な食のニーズと合致しているが、そのことに気付いていない事例が散見される。例えば日本の精進料理の中には、ベジタリアンやヴィーガン食にそのまま置き換え可能なものもある。日本人はこのような食の資源に気付いていないことを知るべき。日本人がこういったことを理解してメニューなどで伝えないと、来訪者はもっとわからない。
そのような日本の食の価値を、世界にPRしていくことが必要だ。海外のトップレストランでは、ネットを活用して個々の顧客に対して直接アプローチしている。日本のシェフは自分をPRすることにためらいがあったり、ネットに抵抗があったりして、機会を失っている。
日本の食は世界に評価される大きな魅力があるので、そのアピールに対する公的な支援も必要。インバウンドがない今だからこそできることを、進めるべきである。
苦戦する世界の飲食店、コスト削減やシェフによるSNS発信など様々な工夫も
新型コロナウイルス下で、欧米では超有名店でも閉店している状況。日本よりも規模の大きい店が多く、新型コロナウイルス対策をしながらの経営は難しいからだ。
続けている店では、メニューをコースのみに絞り、オペレーションを簡略化、仕入れも限定するなどしてコスト削減にも取り組んでいる。
店を開けられない、限定的な営業しかできない飲食店の中には、既存客とりわけ固定ファン向けに情報発信しているところもある。zoomでシェフが料理している動画を配信し家庭でもできるテクニックを伝えたり、またシェフ自身が畑で野菜を摘んでいるところをSNSにアップするなどを通じて、顧客との関係を深めるツールになっている。
店舗で料理を提供するというのが飲食店の基本的サービスだが、そのスタイルにも変化が見られる。
多様性あふれる日本食、工夫さえすればその魅力は世界中に伝わる
観光庁が訪日客に行っている調査結果にもあるように、訪日目的の1位が「食」、6位が「酒」となっており、日本では食こそが最高のコンテンツである。
しかし、外国人にはその魅力が伝わっていないことが多い。ある外国人が、「京都にはベジタリアン向けの店がない。ベジタリアン、ヴィ―ガン向けの店を出したら成功間違いない」と言ったという。日本食には必ずベジタリアンメニューがあるし、精進料理は元々肉や魚を使わない。例えばそば屋もそのようなPRができるのではないか。
また、宗教上食の制限がある人もいる。例えば、沖縄の島料理で使うヤギ料理は、かなりの宗教に対応できる。ハラールに関しては、食肉はハラール処理が必要など決まりも多いので難しいが、既にハラール対応している工場もあるので、こういった向上を使えば対応も可能だ。
日本の食文化は多様で、多くのニーズに対応できるものである。日本人がそれに気付いていないので、海外向けに伝えることもしていない。
コロナ禍のいまだからこそ飲食店ができること、既存の枠を超えた取り組みがブランディング効果にも繋がる
インバウンド客が主だった店はたいへん厳しいが、今は「生き残る」ことが大命題。外国人が物理的に来られない現状、日本人に来店してもらうために価格を下げてでも店を維持しようとしているところもある。
一方、時間がある今だからこそできることもある。例えば、メニューの多言語化や外国人のニーズ(食の嗜好、宗教的制限など)に合わせた表示を工夫するなどが挙げられる。
日本の店舗のコロナ対策は、海外と比べてもレベルが高く優秀であるもかかわらず、その違いが伝わっておらず気付かれていない。どのような対策をしているか、web上で発信することもブランディングのひとつになる。
国内の事例で、インバウンド客の比率が高かった「WAGYUMAFIA」は、海外向けに包丁、バーミキュラのフライパンなどを何万円、数十万円でネット販売し、驚くほどの売上げを上げている。シェフがそれらの調理器具を使って料理する風景をインスタライブで公開してもいる。顧客が来店できないニーズを捉えたものだが、店舗の売上げ減少分を補う勢いがある。
海外向けのPRには、発信が不可欠。しかし日本の飲食業界には、それが不得手な人が多い。店を媒体で紹介しようと、きれいな写真の提供を求めても、持っていないことすら珍しくない。
最低限、自分の店のアカウントを持つこと。そこから、SNSの活用。さらに海外向けの物販にまで広げていこうという方向性が必要だ。インターネット活用のハードルは大きく下がっている。WAGYUMAFIAのインターネット販売も、BASEという無料のアプリケーションを利用していて、誰でもコストをかけず気軽に始められるものだ。
仮にシェフ自身ができない場合も、少しITリテラシーのある若いスタッフならすぐに発信できる。「わからないからできない」と言っている場合ではない。
国や自治体も、日本の食文化のPRに公的資金を入れて支援をすべき。どこに世界的な価値があるのかを理解し、インターネットの活用ができるよう手伝うだけで、より日本の食の価値が世界に伝わる。
現在は、「世界のベストレストラン50」に選出された栄誉あるレストランも、自費でセレモニーに参加しているような状態。そこは日本の魅力を世界にアピールする重要な舞台だということを認識し、国を挙げて支援するような姿勢が望まれる。
<登壇者>
本田 直之 氏
レバレッジコンサルティング 代表取締役社長。ハワイと日本のデュアルライフ。食のイベントを通じてシェフ、農家など生産者たちの地位を上げる活動。
山田 早輝子 氏
国際ガストロノミー学会公認 日本ガストロノミー学会代表、「世界・アジアのベストレストラン50」公式大使。食の外交、食のサスティナビリティに取り組む。18年間でロサンジェルス、ロンドン、シンガポール、日本に居住。
中村 孝則 氏
コラムニスト、美食評論家、「世界・アジアのベストレストラン50」日本評議委員長。雑誌中心に食に関する執筆。ダイニングアウト(日本の地域の魅力発信イベント)のホスト。コロンビアの親善大使 等。
浜田 岳文 氏
世界No1Foodie(OAD) アクセス・オール・エリア 代表取締役。現在は国内外の食べ歩き中心。元は外資系金融機関勤務。食・旅と金融の経験からアドバイザー。地方の食を応援。
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執筆:旅LABO本郷 柳澤美樹子
編集:株式会社やまとごころ 堀内祐香
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