しっかり理解したい、GLP-1ダイエット
インターネットの普及に伴い、幅広い情報が容易く手に入るようになってきました。
中でもダイエットやトレーニング、美容などの分野では常に目まぐるしく情報が更新され続け、SNSを中心に多くの人の注目を集めています。
その中でも、近年話題になっているダイエット法の一つが「GLP-1ダイエット」です。
「食事制限をしなくても痩せる」 「注射を打つだけで簡単」 「誰でも簡単に始められる」 というフレーズと共に掲載されることが多く、美容クリニックでは効果の高い医療ダイエットとして紹介されています。
ただし、このGLP-1ダイエットには副作用などの注意しなければいけない点が多くあり、そもそもの仕組みを正しく理解した上で慎重に判断することが必要です。
今回は、GLP-1ダイエットの仕組みや知っておくべき副作用などについてご説明します。
GLP-1とは
GLP-1ダイエットは、その名の通りGLP-1というホルモンのはたらきを利用したダイエット方法です。
GLP-1は 「痩せホルモン」 とも呼ばれ、食欲をコントロールするはたらきがあります。
食事によって血糖値が上昇するとGLP-1が小腸から分泌され、膵臓にはたらきかけることでインスリンを分泌します。
インスリンは血液中の糖を細胞内に取り込むはたらきがあり、高くなった血糖値を下げる役割があります。
GLP-1ダイエットでは、このGLP-1の分泌を促すGLP-1受容体作動薬を注射もしくは服用して食欲をコントロールすることで、ダイエット効果が期待できます。
しかし、この作用からもわかるように、本来GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病患者の血糖コントロールのために用いられている薬剤です。
2023年7月現在、ダイエット目的での使用は日本で承認されておらず、保険適応外となります。
そのため美容クリニックなどでは自由診療となり、診察代などを含めて1ヶ月に約20,000円~40,000円ほどの高額な費用がかかります。
費用面での負担が大きいことから、中には個人輸入などで安く入手した薬剤を注射・服用する非常に危険な行為も見られます。
個人輸入は、服用量の調節や副作用などの管理が正しく行えないことや、正規品ではない薬剤が届くリスクなどもあります。
このダイエットに取り組むか迷った際には、薬剤の特徴や副作用についてしっかり理解した上で、必ず医師と相談しながら慎重に判断してください。
GLP-1ダイエットの副作用
GLP-1は薬剤であるため、副作用も当然確認されています。
薬剤には副作用はつきものですが、ただの副作用だと軽視して放置してしまうと、危険な状態に陥る可能性もあります。
医師のもとでダイエットに取り組むことはもちろんですが、副作用が起きるリスクを念頭に置いて自身の体を観察することが大切です。
GLP-1の副作用は様々ですが、特に気を付けたい二つをご紹介します。
➤低血糖
血糖値を下げる作用により、逆に血糖値が下がりすぎてしまうことで低血糖症状が出る可能性があります。
GLP-1受容体作動薬は、血糖値が上昇したときにのみ作用する特性があり、他の糖尿病治療薬と比べて低血糖を起こしにくいと言われていますが、不適切な服用や過度な飲酒、食事制限など、様々な要因によって低血糖をきたすことも十分考えられます。
低血糖状態となると、動悸や手の震え、めまいなどが現れ、重症になると痙攣や失神、最悪の場合には昏睡などに陥ることもあります。
➤胃腸障害
GLP-1は、インスリンの分泌を促す以外にも、胃の内容物を腸へ送るスピードを遅らせるはたらきがあり、食べたものの消化が通常よりも遅くなります。
そのため、胃の中に食べ物がずっと留まっているような感覚になり、それが胃の不快感や吐き気などに繋がると言われています。
また、胃に限らずその他の消化器の動きにも影響を及ぼすため、便秘や下痢などの胃腸障害が生じる場合があります。
また、疾患のある方や、既往疾患によってもGLP-1ダイエットを行えない場合があります。
自己判断はせず、医師の診察を受けた上で、GLP-1の使用可否を判断してもらう必要があります。
GLP-1ダイエットによくある勘違い
GLP-1の効果に食欲の抑制がありますが、これは同時に注意点でもあります。
食欲が抑制されることで食事自体の摂取量が下がると、本来必要なエネルギー摂取量が減少することで、筋肉量の減少にも繋がります。
また、薬剤による効果を過信して運動や正しい食事改善をせずにいることも、筋肉を減らす原因となります。
ダイエットの過程で、体重は順調に減っているように見えても、実は体脂肪量ではなく筋肉量の減少によるものかもしれません。
筋肉量は運動などで日常的に使わなければ、20~30代をピークに徐々に減少し、そのスピードも加齢と共に速まっていきます。
また、加齢に伴って筋肉の合成能も低下していくため、若い頃と同じようなトレーニングをしていても、筋肉量が増えにくくなっていきます。
筋肉量が少ないまま高齢になると、サルコペニアやフレイルといった身体機能の低下、精神的な虚弱が生じやすくなります。
※サルコペニアについては、InBodyトピックの「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。
また、順天堂大学の研究では、筋肉量が少なく痩せている女性はインスリンの分泌が低下し、さらにはそのはたらきも弱まっていることが明らかとなっています¹⁾。
痩せていても、筋肉量が少ないことで肥満と同等もしくはそれ以上の糖尿病リスクがあるということです。
このように、筋肉量が少ないということは様々なリスクを高める大きな要因となります。
また、筋肉量がピークを迎える20~30代に筋肉量が不足していると、加齢とともに筋肉量がより一層つきづらくなり、慢性的に筋肉量が不足した状態となります。
GLP-1受容体作動薬を使用すれば痩せる、という安易な考えからダイエットに取り組む方も少なくありませんが、薬剤効果によって体脂肪量だけが綺麗に落ちるわけではなく、筋肉量の減少の原因にもなることを理解する必要があります。
InBodyでダイエット中の体成分をモニタリングをする
ダイエットやトレーニングで忘れてはならない最大の目的は、健康的な体になることです。
健康的な体とは、ただ単に体重やBMIが適正、もしくはそれ以下になることや、見た目がスリムであることではなく、筋肉量や体脂肪量が適正であることです。
余剰な体脂肪量がなくなり筋肉量が増えれば、見た目も引き締まったスリムに、綺麗になっていきます。
また、見た目ばかりに囚われず、長期的な健康を手に入れるために取り組むことが大切です。
今取り組んでいるダイエットやトレーニングの効果をモニタリングする指標として、体重やBMIを確認している方も多いのではないでしょうか。
BMIとは体格指数とも呼ばれ、肥満度を把握する指標の一つです。以下の式で求められます。
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²
式からもわかるように、身長と体重だけで簡単に求められることから、ダイエットの目標値として設定されることも多く見られます。
BMIは様々な基準がありますが、日本肥満学会が定める基準は以下のようになっています。
しかし、体重やBMIは、あくまでも体の「重さ」のみでの評価指標であり、そこには筋肉や体脂肪など「中身」 の区別はありません。
例えばボディビルダーなど、筋肉量が著しく多い方ではその分体重も重くなりますが、そのような方のBMIを計算してみると 「肥満」 と評価されます。
しかし実際には、筋肉量が多いことによる体重の増加であり、体脂肪量は標準値よりも少ないことがほとんどです。
この場合は、その方を 「肥満」 と評価することは正しくありません。
BMIだけではなく、筋肉量や体脂肪量も併せてモニタリングすることで、現状を正しく評価できます。
InBodyで測定を行うと、筋肉量や体脂肪量をはじめとし、自身の体の構成要素である体成分を確認できます。
特に 「筋肉-脂肪」 の項目では、体重の内訳として筋肉量と体脂肪量のバランスが簡単に評価できます。
例えば、体重が標準範囲に収まっていたとしても、筋肉量が少なく、体脂肪量が多い場合は「隠れ肥満」に該当します。
この測定結果に該当する場合、体重や見た目には体脂肪量の多さは表れず、一見すると肥満には該当しないような方がほとんどです。しかし、BMIが標準範囲内もしくはそれよりも低い値であったとしても、体脂肪率が標準値を超えていれば健康とは言えません。
体重やBMIの数値を下げることをダイエットの目標として掲げ、運動ではなく過度な食事制限のみを行っていませんか?
そういう方で特に隠れ肥満が多く見られます。
食事制限をすれば体重は一時的に減少しますが、同時に筋肉量も減少していきます。
筋肉が少ないと基礎代謝が低下し、体脂肪が蓄積しやすい状態となります。
また、この隠れ肥満は、筋肉量が少ないことによる運動機能の低下に加え、体脂肪量が多いことによる生活習慣病のリスクも高まります。
InBodyの測定結果でダイエットの目標を立てる際は、筋肉量と体脂肪量の均衡を保っているI型か、筋肉量が多く体脂肪量が少ないD型を目指してみましょう。
終わりに
GLP-1ダイエットは、本来とは異なった用途で薬剤を使用するため、必ず医師の指導のもとで行うべきダイエット法です。
また、薬剤の作用や本来の用途、そして副作用をきちんと理解し、体調に異変がないかを敏感に観察する必要があります。
適したダイエット法は人それぞれですが、どの方法においてもその仕組みを理解した上で、自分にとって必要な方法なのか、必要以上の危険性はないかを冷静に判断することが大切です。
また、ダイエットの目的は 「健康的な体を手に入れること」 であることを忘れず、筋肉量や体脂肪量などの体成分をモニタリング・評価しながら取り組むことを心掛けましょう。
参考文献
1. Motonori Sato et al, Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, May 2021, Volume 106, Issue 5, Pages e2053–e2062