前庭トレーニングで膝の障害予防!女性アスリートに必要なバランストレーニング
スポーツ選手、特に女性アスリートにとって、膝の障害は深刻な問題です。
過去に所属した女子サッカーチームでは、3〜4人に1人が膝の障害を経験しており、多くがACL(前十字靭帯)損傷・断裂です。
ほとんどの場合、ACL(前十字靭帯)損傷・断裂は手術が必要です。
スポーツ選手にとってキャリアを決める大きな怪我で、引退する選手も少なくありません。また、横浜F・マリノスの宮市亮選手の様に、何度も損傷・断裂する選手が多いです。
ACL(前十字靭帯)損傷・断裂を予防するために効果的なトレーニング方法として注目されているのが、前庭系を活性化させるバランストレーニングです。
バランストレーニングと聞いて、バランスボールや体幹トレーニング(プランクなど)を取り入れている選手も多いでしょう。
しかし、実はこれらのトレーニングだけでは、膝の障害を十分に予防することはできません。
根幹を決めるのは「前庭系」であり、これを鍛えないと、怪我をしてしまう可能性が高いです。
バランスボールや体幹トレーニングの限界
バランスを鍛えると聞いて、多くの方が連想するバランスボールやプランクなど体幹トレーニング。
これらを使用したトレーニングは主に腹筋や背筋に多少の刺激は入りますが、バランス能力そのものにはあまり刺激が入りません。
サーフィン、乗馬など不安定なものの上で何かを行うには有効ですが、特にサッカー、野球など、安定した地面の上で行うスポーツなどにはあまり効果的とは言えません。
バランス能力を上げるには、前庭系の強化が鍵であることが、最新の研究から明らかになっています。
前庭って何?
前庭(ぜんてい)とは、耳の中にある小さな器官のことです。
これがあなたのバランス感覚を司っていて、スポーツをするときに必要な身体の安定性を守るために大切な役割を担っています。
前庭は耳の内側にあり、身体の動きや姿勢を感じて、脳に情報を送ります。その情報をベースに、体が倒れないように、動きを無意識に修正してくれます。
簡単に言うと、前庭はあなたの身体の「バランスのセンサー」のようなものです。
走ったりジャンプしたりしたとき、体が崩れないようにしっかり支えてくれているのです。
前庭ってどんな働き?
前庭の主な機能は、体の位置を感じることと、バランスを考慮することです。
具体的に言うと、次のことを助けてくれます。
・急な動きへの反応:例えば、サッカーで急に方向転換をしたり、バスケでジャンプして着地したりする際に、前庭がしっかり働いていれば、体がバランスをとってくれます。
・姿勢を維持する:立っているときや歩いている時も、前庭がしっかり働いて、体を安定させています。
前庭トレーニングによる膝の安定性向上
前庭トレーニングが、ACL損傷のリスクを軽減できることができるという研究結果があります。
実際、バランストレーニングを受けたアスリートは、ACL損傷のリスクを大幅に軽減できることが示されています。
Guskiewicz, K. (2001)の研究では、バランストレーニングを受けた選手たち、スポーツ関連の怪我を受ける確率が50%減少しました。特に足首や膝の損傷リスクが大きく低下しました。 、前庭系を刺激することで、運動中のバランス感覚が改善され、選手が不安定な状態でも迅速に対応できるようになるためです。
McGuine, TA (2000)の研究では、女性アスリートに対して8週間のバランストレーニングを実施したところ、膝の前十字靭帯損傷リスクを40%減少させることができたと報告されています。前庭を鍛えることで神経筋の協力が改善され、急な方向転換や片足での着地時の膝への負担が軽減されるためです。
女性アスリート特有のリスクとトレーニングの必要性
女性は男性に比べてACL損傷を起こしやすいという研究結果が多くあります。
女性ホルモンの影響や、股関節の解剖学的な違いが関与しており、膝に負担が大きくなると言われています。
特に女性アスリートにとって、前庭トレーニングは重要な予防策となります。
前庭トレーニングの具体例
前庭系を強化するためのトレーニング法として、以下のようなエクササイズがあります。
目を閉じて首を振る、傾ける:視覚を遮断することで、前庭系を刺激し、感覚を鍛える。
何か目標物を見ながら首を振る(視点は一点):前庭動眼反射という働き(頭が動く中でも、はっきり物を見る)を利用し、三半規管に刺激を入れます。
動的バランストレーニング:大幅な方向転換やジャンプ後の着地など、実際の競技シーンに近い動きを取り入れたトレーニング。
これらのトレーニングは、前庭系に大きな刺激を与え、急な動きへの反応能力を高めます。もちろん、バランス能力も高まります‼️
これによって、膝や足首への負荷が軽減され、ACL損傷のリスクが大幅に軽減することが期待できます。
前庭トレーニングで視力が上がることもあります!!
また、めまい、立ちくらみ、乗り物酔いがひどい方にも効果的です。
まとめ
現在行っている体幹トレーニングやバランスボールのエクササイズだけでは、膝の障害予防には効果があるか微妙です。
前庭系を強化するための新しいトレーニングを取り入れることが、膝前十字靭帯(ACL)損傷を予防するためには有効です。
特にジャンプや方向転換が求められるスポーツでは、前庭系を鍛えることで、膝や足首の負担を減らし、再発リスクを防ぐ動きができます。
前庭トレーニングを始めないと、怪我が再発するリスクが高まることを忘れずに、慎重に取り入れることをお勧めします。
参考文献
Guskiewicz, K., et al. (2001). The effectiveness of balance training for reducing sports-related injuries. Journal of Athletic Training, 36(4), 464-470.
McGuine, TA, et al. (2000). Balance training improves neuromuscular control in female athletes. Journal of Athletic Training, 35(4), 397-401.
スポーツコーチ・神経学トレーナー
竹内康弘