それは 泣くほどに
せかせかと
世界はいつも急いでいて
置いていかれないように
わたしもいつも
せかせか せかせか
駅までの道を早歩き
ぱんぱんのお腹がしぼんだかと思えば
ほやほやの生き物があらわれて
わたしの世界は一変した
ほかほかと
それはいつも ミルクのにおい
ほにゃほにゃ ほにゃほにゃ
泣くか眠るか 眠るか泣くか
お腹がすいたらよく泣いた
ああ そうだった
お腹がすくのはつらいことだ
それは 泣くほどに
オムツが汚れてよく泣いた
ああ そうだった
不快感とはつらいものだ
それは 泣くほどに
それはどんどん大きくなった
起きている時間が 増えていったら
笑うことも 歩くことも覚えたし
だんだん言葉も覚えていった
茄子を食べたくないと言う
まだ寝たくないと言う
さっきは出かけたかったけど
今は出かける気分ではないと言う
イヤイヤ主張をしたかと思えば
それはいつも大きな声で泣いた
わたしは大人になるまでに
すっかり忘れてしまっていた
泣いてもいいことだったんだ
小さな手がわたしの指を掴む
ゆたゆたと たゆたうように
わたしたちは 歩いた
せかせかと
世界はいつも急いでいて
置いていかれないように
わたしもいつも
せかせか せかせか
駅までの道を早歩き
あの時のわたしに
教えてあげたい
泣いてもいいのよ
知っていた?
おわり
読んでいただきありがとうございました。とってもうれしいです。またね。