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丁寧な生活

いつも食パンにジャム、たまにバターを付ける。珈琲を呑んで朝が始まる。これが私のルーティンだ。今流行りの #丁寧な生活 と呼ばれるものが好きで、ランチョンマットを引いて箸おきを置いて、お気に入りの観葉植物への水やりもかかさない。たまに散歩をして綺麗な野花を摘んでは一輪挿しの花瓶へ生けたり、道端の花屋さんで気になったお花を買って飾る。ヨガにInstagramも趣味でたまにボルダリングもする。

そんな風に暮らしているごくごく普通のキャリアウーマンだ。ただ、彼氏は居ない。周りは次々と結婚に子育てと変化していくのに対して30も目前となるというのに彼氏はいない。

何が授かり婚だ。良いふうに言いやがって、とご祝儀三万円を渡しながら「おめでとう」と言う。私にそのご祝儀が返ってくることはあるのだろうか、今の所そんな予定は全く無い。

「朝ご飯まだ?」「もう出来てるよ」

そんな彼氏はいない私だがよく分からない関係性の男が月に4回位やってくる。悪く言えばセックスフレンドだ。何でこんなことになってしまったのか自分でもよく分からない。たまに行くワインバーで「もし良かったらこの後もう一軒行きません?」酔っ払ったせいでは無い。今日はそんな誘いに乗っても良いだろう、となった結果がこれだ。

淋しさと性欲とひと肌恋しさを人並みに持ち合わせていたのでズルズルとこんな未来の無い関係性が半年も続いている。

「相変わらず美味しいね」とくしゃっと屈託の無い顔で笑う。「そりゃそうでしょ」と先に食べ終えた私は珈琲を呑みながら言う。「あ、もうこんな時間だ、行かなくちゃ」男は着替えて職場へ向かう。「行ってきます」と頬にキスをして出かけていく。丁寧な生活とは一体何だろうと思いながら私も追いかける様に職場へ向かう。

「こんな日々から抜け出したいか?」と聞かれたら「抜け出したくない」と答える。気持ちも満ち足りていて充実感さえ感じる。恋心が全く無い訳では無いからもどかしさを感じる。一度付き合ってと伝えたらにべも無く断られた「そうゆうの興味無いから」少し傷付いたがこの男のすがすがしさが羨ましくなった。

そんなこんなで結婚への憧れも捨て切れない私はマッチンクアプリや婚活パーティー、様々な出会いの場へ行ってみたがいまいちピンと来ない。この人と結婚すれば普通に主婦になって働いて子育てをしていくという想像は出来る。

想像は出来るだけで実際にそうしたいと思えない。そうこうしてる内に何だか疲れてしまって結婚相手を探すのをやめた。

男と一緒に肌を寄せ合って眠る。幸せだと感じる。体温が暖かくていつの間にか眠っている。私は「普通の幸せ」を諦めた。もしかするといつか後悔する時が来るかもしれない。でもいつか失ってしまっても構わない。

「おはよう、朝ごはん出来たよ。今日は駅前に新しく出来たパン屋さんで買ってきたクロワッサンにしてみた」

「へえ、美味しそうじゃん」

何も考えてない男は今日も美味しそうに朝ごはんを食べる。これが私のささやかな幸せで #丁寧な生活

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