稲穂

エッセイ、短編小説創作しています。

稲穂

エッセイ、短編小説創作しています。

最近の記事

  • 固定された記事

【短編小説】通りと黒猫

情報が溢れている 私たちの体に入ってくる情報は必要か 私は椿  三年前上京してきた 東京の街はいつでも忙しい 眠らない街 睡眠不足のようだ 今日明日の繰り返しを過ごしている 橋の上から見た川は光が反射して綺麗だ 私はまた明日への一歩を踏み締める 鉛のような身体を引きずった 静かな通り 月と星は輝いている 鉛はいつの間にか消えていた 「綺麗」 道の端に一匹の黒猫 頭を撫でた 「温かい」 「にゃー」 猫に手を振る 温もりはしばらく残ったままだっ

    • 【短編小説】空の波

      雲ひとつない青 太陽光が当たった ピカッ 「眩しい」 手をかざすと そこには 一人の青年が立っていた 「綺麗だ」 そう呟いた青年の瞳には 赤色の空が広がっていた

      • 【短編小説】湯気の行方

        「コーヒーでも飲もう」 やかんで湯を沸かす ゴォー 椅子に座りやかんを見つめた ひとしきりすると 注ぎ口から白い湯気が出てきた ポツ 手の甲に何か落ちた 「雨漏りか」 天井を見上げたんだ 「えっ」 そこには 鼠色の雲が広がっていた

        • 【短編小説】未来の衝撃

          この荒地に木を植える 森をつくるんだ 泥だらけになった手を見つめた 「はあ」 不思議と疲労感はなかった 多くの木を植え育てた いつか快適な地になるように ジーーー 突然大きな音が聞こえた 周りの人が何か叫んでいる 「上を見て」 私は言われた通りに 見上げたんだ 「えっ」 そこには 大きなカミソリが押し迫っていた 音が止み どこからか 「これでよし」 そんな声が聞こえた気がした

        • 固定された記事

        【短編小説】通りと黒猫

          【短編小説】水と油

          水と油は混ざらない この世界が水なら 私は油だろう どんなに かき回しても 振っても 交わらない たった 0.1グラムの違いが重くのしかかる 今日も私は浮いている 「はあ」 夜空を見上げ願ったんだ 宇宙ならと

          【短編小説】水と油

          【短編小説】流れる

          スマートフォン 液晶画面を指で触れる電話 三十年前にタイムスリップして説明しても伝わらないだろう ガタンゴトン 私はスマホでニュース記事を読んでいた 不意に周りを見た 手にはスマホ 皆、画面を凝視していた 手には本を持っていた頃が はるか遠い昔のように感じる 時間は過ぎて時代は流れていく 三十年後 手には何を持っているだろう 「あれは」 ふと目に入った おじいさん 手には 「なんだろうあれ」 それは 感情だった

          【短編小説】流れる

          【短編小説】自分の理由

          人間は全員狂っている 十人十色必ずある これを無くしたらほんの少しの意味すら消えてしまう 愛 宗教 自然 絵 音楽 映画 etc. etc. もし これが世界から消えたら自分も一緒に灰になりたいと思う程だ 自分で制御なんてできない 勿論他人は触れることさえ出来ない 私にまとわり取り憑いている 離れない 離したくない 息が絶える一秒前まで抱きしめていたい ゴオォォ チカチカ 「眩しい」 見上げると そこには 空を覆い尽くすほどの隕石が落ちて

          【短編小説】自分の理由

          【短編小説】数字の価値

          インターネットが生まれて五十年が過ぎた パシャ 「写真を載せよう」 我ながらいい写真だと思った 数日後 「あれ、なんで」 投稿ページを見つめた そこには 私の期待とは裏腹に零が並んでいたんだ 「あっ」 次に目に飛び込んできたのは 膨大な数字だった 「もっと…」 「あっ」 そういえば もう私以外誰も居ないんだった

          【短編小説】数字の価値

          【短編小説】三日の月

          赤銅色を帯びた三日月 異様な雰囲気を感じる 「はあはあ」 私は思わず駆け出していた 神秘的な光景に吸い込まれるようだ 私はひたすら追いかけた 追いかけて 追いかけて たどり着いた そこには 大きな建物があった 「何をしているんですか」 私は目の前の人物に尋ねた 「遠くに青い光があるだろう。私たちはあの色に心惹かれるんだ」 「いかにして行きつくか研究をしている」 そう話す人物は地球人そのものだった

          【短編小説】三日の月

          【短編小説】仮面の中

          ニコニコ 笑えてる あまたの仮面が並んでいる 人によって仮面を変えた 「この人にはこの仮面にしよう」 つけかえ続けた 一日仮面をつけていた日もあったくらいだ そんな日々が過ぎ 私は家に居た 鏡を何気なく見た 「えっ」 そこに映っていたのは 笑っている自分の顔だった ぎょっとした なぜなら 私は今真顔だからだ 仮面が外れない 本当の私はどこ 「どれが私?」 仮面を見つめ小さく呟いた

          【短編小説】仮面の中

          【短編小説】蝿の瞳

          私の周りにはいつも虫がいた 昔から虫にだけは好かれる それも蝶や蛍ではない 蝿だ ブーン なぜこの蝿はついてくるのだろう 私は蝿を見つめた 嫌ではない 愛着すら湧いてきたようだ ブーン 蝿が空に向かって飛んだ 我に返る 周りの人は頭上を見上げていた 「あっ」 そこには 大きな青い円盤が浮いていた

          【短編小説】蝿の瞳

          【短編小説】鏡の向こう

          ピカ ゴロゴロゴロ ザァァァァァ 雷だ 空は厚い雲に覆われどんよりしている 「私はこれからどう生きたらいい」 稲妻の光を眺めつぶやく その日私は初めて男性と寝た その男性とはもう会うことはなかった 残ったのは痛みだけだった ポツ 雨が私の頬に落ちた 私の身体は雨に濡れた その日私は仕事を辞めた その仕事に未練はなかった 残ったのは一生治らない傷だけだった 部屋にある鏡が光った 「眩しい」 近づき覗くと そこにはあらゆる天候が広がっていた

          【短編小説】鏡の向こう

          【短編小説】ないもの

          自分にないものははっきり見える aには自由ががある bにはお金がある cには愛がある dには安心がある eには常識がある fには綺麗な容姿がある g(私)には何もない aは言った 「dが羨ましい 自由だけど安心はないんだ」 dは言った 「僕は安心はあるけど自由がなくてaが羨ましいよ」 次々声が上がる bは言った 「お金ならあるけど愛はないよ 愛なんか分からない」 cは言った 「愛はあるけどお金がないんだよ」 愛やらお金やら常識やら綺麗やら みんな散々話してい

          【短編小説】ないもの

          【エッセイ】ないものねだり

          人間とは自分にないものを求める動物 自分にないものは他人にはあるもの 自分にあるものは他人にはないもの 比較する  他人と 理想の自分と 過去の自分と 普通「ふつう」の人間と  あることを望む 現状に満足はできない 人間それぞれフィルターを持っている 近くにあるものは入ってこない 遠くのないものは入ってくる 近すぎて見えない 遠くはよく見える 人間は一生ないものねだり

          【エッセイ】ないものねだり

          【短編小説】裏通りの時間

          情報に囲まれた世界で今日を生きている私 裏通りで一匹の黒猫と出会い 忘れていた大切なものを思い出す 私たちはこのままでいいのか コンクリートに囲まれた世界で私たちは何を思う 人の笑い声、看板の文字、広告音楽の音、LED電球の光 私たちの体に入ってくる情報は本当に必要か 私は椿 三年前上京してきた 胸一杯の憧れを持って 東京の街はいつでも忙しい 眠らない街 睡眠不足のようだ 私は家路に着き明日が始まるのがただ恐ろしくて回り道をした 橋の上から見た川は光

          【短編小説】裏通りの時間