趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.244 映画 黒沢清「勝手にしやがれ!!強奪計画」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は映画 黒沢清さんの「勝手にしやがれ!!強奪計画」(1995/日)です。
今や世界の黒沢清になりましたが、まだVシネマを撮っていた時代の作品。
しかしもう黒沢節はある程度確立されていて、長回しなど使っている。
低予算だけど抜群に面白い。
物語や内容は Vシネマのように軽めなのに、カメラワークや演出はなどは自主映画や芸術映画のように凝っている。
また役者陣が今は皆すごい役者になっている人たちが若い頃こぞって出ている。
哀川翔と前田耕陽がW主演、七瀬なつみがヒロイン、菅田俊、國村隼、大杉漣、洞口依子など。
演出している人も出演している人も皆若くて、エネルギッシュ。
もうなんでも好きなことをやってやろうと気骨が溢れています。
シリーズ化しているので、全部見たいです。
物語は、チンピラの主人公(哀川翔)はヤクザの息のかかった工場の経営者をカツアゲして逆にヤクザにボコボコにされて、幼稚園に逃げ込む。
そこにいた保母さん(七瀬なつみ)が主人公を優しく手当てする。
主人公はその保母さんを天使の様に思い、猛アタックするが冷たくされる。
チンピラの相棒(前田耕陽)はキャバクラの女の子と結婚すると言ってくる。
兄貴分の主人公に会わせたいと、連れてくるとなんとあの保母さんだった。
保母さんは父親が腎臓移植で渡米して3000万円必要だから、昼は保母さん、夜はホステスとして働いている。
そこへ父親の病気を見抜けなくて謝りにきた医者(菅田俊)が2人のところへやってくる。
主人公たちは怪しい商売をしている洞口依子に相談して、ヤクの運び人をして保母さんを助けようとする。
いざ主人公たちと保母さんの3人がその取引に行くと・・・。
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話は割とベタな内容だが、どんどん話が転んでいき結構面白い。
ワンシーン長回しの様に、演技や動きは役者に任せるが、全体の流れは黒沢さんがすごくコントロールしているように思える。
とにかく、動いていく。
そしてキャラクターの作り方が抜群。
主人公のチンピラ2人兄貴と弟分が、ヤクザになりきれず、結構間抜けで人情に弱い。
そしてヒロインの保母さん、優しいのにお金に執着して天然ボケ。
医者は強面なのに性格が弱く貧乏神。
ヤクザは恐ろしいが、ドジ。
主人公たちがたむろするバーのマスターはオカマ。
怪しい仕事を持ってくる女性は非情。
もう全員キャラが立っていて愛おしい。
普通第一作目だとキャラクターの説明があると思うけど、黒沢さんは何も説明せず普通に物語が始まっていく。
その自然さがとてもリアルで良い。
このシリーズはまだホラー要素がなく、結構コメディー路線だ。
その後に「CURE」「回路」「降霊」などホラー作品を多く作るようになるが、
明るいコメディセンスの良い黒沢さんも見れてとても新鮮だ。
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とにかく自由で好きなものを撮ってやるという気合も十分。
それをチンピラ作品なら許すVシネマ。
若い役者が集まり、自由に動いている。すごく風邪通しがいい。
なんて幸せな時間なんだろう。それを見ている自分も幸せだ。
そんなことを思わせてくれる作品でした。
今日はここまで。
「効率がいいのでオリジナルビデオでもよく採用していましたが、『CURE』はなかでも、ワンカットがめちゃめちゃ長いです。やはりこういうジャンル映画での緊迫したシーンは、次に何が起こるのか予想がつかぬまま緊張感が高まっていくと、観客はじーっとスクリーンを凝視してくれるのでは…と、そんな実験のもとに試みていました。意外にうまくいったので、以後、いろいろな作品でも長回しをやるようになりました」
/黒沢清