大人になれば 41『白くま・上澄み・猫』

ぼく あ、ねこ先生。
ねこ にゃんだ。
ぼく 涼しくなりましたね。
ねこ そうだな。(スタスタスタ)
ぼく ちょっと。おしゃべりしましょうよ。
ねこ これから神社の木陰にいくのだ。
ぼく えーいいな。
ねこ 来るなよ。(スタスタスタ)
ぼく ちょっと。ちょっと。
ねこ にゃんだ。
ぼく 夏の名残のかき氷はどう。
ねこ かき氷か。
ぼく うん。
ねこ 白くまか。
ぼく 白くまあるよ。
ねこ にゃ。
ぼく ちょっとまってね。はい。
ねこ 白くま、最高だな。(ぺロペロ)
ぼく あのさあ。
ねこ (ペロペロ)
ぼく あのさあ。
ねこ にゃんだ。
ぼく ブログの原稿がぜんぜん書けなくてさあ。
ねこ だからにゃんだ。
ぼく え、ぐちだけど。
ねこ 書けばいいじゃないか。
ぼく なんかね、いつもなら「これ書きたい」って思ったらスラスラ書けるんだけど、ぜんぜんだめでさ。
ねこ なに書きたいんだ。
ぼく それが浮かんでこない。
ねこ (ペロペロ)
ぼく ねこ先生—。
ねこ うるさいなあ。白くまが溶ける。
   いつも読んだ本だの映画だの演劇だの書いてるんだろ。
ぼく うん。
ねこ それ書け。
ぼく うーん。
ねこ にゃんだ。
ぼく 八月はずっと日本の近現代史の本を読んでたんだよ。
ねこ 書けばいいじゃないか。
ぼく うーん。まだいい。ね
こ なんでだ。
ぼく まだ上澄みのことしか書けない。
ねこ いっつも上澄みだろ。
ぼく そうだけどさー。
ねこ あれだ、沸かしたミルクの膜みたいなもんだ。
ぼく むぐぐ。
ねこ あれはうまいぞ。秋になったらあれだ。
   (空になった白くまの容器を渡す)
ぼく (容器を受け取る)でもね、日中戦争から太平洋戦争に突入していく
   八十年前の日本人と、原発事故を体験したのに何も変われない今のぼく
   たちは基本、何も変わってないんだなーって思ったよ。
ねこ ふーん。
ぼく あとね、日本人は近代戦争に向いてないと思った。
   戦争の善悪とか是々非々の前にぜんぜん向いてないと思う。
ねこ ふーん。
ぼく 戦争って「どこで止めるか」が大切なんだけど、ぼくたちはそれがひど
   く苦手な集合体みたいだよ。止めるってことは「責任を確定させる/傷
   を負う」ってことでさ。昔も今も日本人はそれをずーっと避けて生きて
   るんだなーって思った。だから今の原発問題もすごく似てる。
ねこ ふーん。
ぼく あとね、昭和天皇に興味を持った。そういえば何でぼくはこんなにも
   昭和天皇のことを知らないんだろうって不思議に思った。
ねこ ふーん。
ぼく ちょっと。ふーんばっかりじゃん。
ねこ 上澄みだからな。
ぼく うう…。
ねこ うー。(背中を伸ばしている)
ぼく 神社いいなあ。
ねこ 来るなよ。
ぼく 行かないけどさ。あ、そうだ。ねこ先生みたいな詩を見つけたよ。
ねこ ん?
ぼく 山之口貘って詩人の作品なんだけどね。こんなの。

「猫」
蹴っ飛ばされて
宙に舞ひ上り
人を越え
梢を越え
月をも越えて
神の座にまで届いても
落っこちるというふことのない身軽な獣
高さの限りを根から無視してしまひ
地上に降り立ちこの四つ肢で歩くんだ。

ねこ ほう。
ぼく いいよね。
ねこ まあな。我は猫なり。
ぼく かっこいいなあ。

20150828

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