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「さびしさは鳴る。」

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自作小説を集めたものです。表題は、某芥川賞作品の有名な冒頭から、拝借致しました。
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2014年11月の記事一覧

「賢者の贈り物」

「賢者の贈り物」

【閲覧注意】
子ども虐待が含まれる描写があります。
不快に思われそうな方は、御注意下さい。

クリスマスに土砂降りなんて、こうもついていないことがあるだろうか。

会社の自動ドアを押し破るように出た先で、誠一は天を仰いだ。街全体を洗い流そうとするその雨の勢いは、さながら、クリスマスというイベントを心底よく思わない連中の願いが具現化されたようだった。

いや、でも、今日だ。

誠一はもう一度ポケット

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「放課後クロニクル」

「放課後クロニクル」

西日が射し込む校舎で、およそ10年ぶりに聞くチャイムの音に耳をすませた。

卒業してすぐに建て替えられた新校舎はどこへいったのか。老朽化が心配されていたなじみの校舎の中で、鈴子は困惑していた。
目の前に広がるのは、確かにあの頃自分たちが通っていたままの校舎だった。

ーーーーー既に壊されて、存在しないはずの。

鈴子はなぜ自分がここにいるのか必死で思い出そうとした。
確か、昨日は遅くまで同期と飲ん

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