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「さびしさは鳴る。」

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自作小説を集めたものです。表題は、某芥川賞作品の有名な冒頭から、拝借致しました。
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2014年9月の記事一覧

「海に祈る」

「海に祈る」

誰が作ったのかは知らないけれど、この海沿いにベンチを置いてくれた人に、私は小さく感謝した。

秋口の海は人もまばらで、薄暗い海の前にたった今到着したのは私だけだった。入れ替わりに帰り支度をしている様子をぼんやりと目で追いながら、波の音だけが耳の中でうねった。この海には昔に一度来たことがあるはずなのに、何だか違う海のようで腹が立った。

―――失恋したから海に来たなんて、ベタすぎたかな。

我ながら

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