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「さびしさは鳴る。」

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自作小説を集めたものです。表題は、某芥川賞作品の有名な冒頭から、拝借致しました。
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2014年4月の記事一覧

「ヒカリノカケラ」

 

泣きそうな夕暮れを何度か見たことがある。

 空が両目いっぱいに涙をためているような、そんな気が確かにしたのだけれど、否、思い返すと泣きそうだったのは自分だったのではないだろうか、と、彼は考えていた。

 佐竹一郎は両手いっぱいの花を手に、帰路についていた。何かめでたいことがあったわけではない。強いていうならば、彼のアルバイト先であるレストランで結婚式の二次会というめでたいことがあった。これ

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「放課後を越える」

バス通学の私にとって、自転車置き場は禁足地だ。

何しろ足を踏み入れるための正当な理由が何一つとして、ない。どうして自分はバス通学なのだろうかと、今からではどうしようもないことを再三考えていると、階段の踊り場からやかましい声が近づいてきた。    

これは一種の能力だと思うのだが、どれだけ離れていても、私は彼の声を間違えない。ひんやりとした廊下に、穏やかな西日が差す。がやがやと騒音とともに階段を

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「ユーモレスクの旅人たち」

お昼ごはんの時間を過ぎた頃合いを見計らって、笹川さんはギターを担いで校庭に出る。

適当な場所に座り込んでチューニングをしていると、いつものようにぱらぱらと人が集まって来る。まず、子どもたちが。続いて大人たち。私も配給所の段ボールを潰しながら視線を送る。今日は、スピッツのロビンソン。

笹川さんの一曲目にはスピッツが選ばれることが多い。もともとスピッツが好きなのか、それとも時期的な、場所的な理由

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「ひとりぼっちの夜の底」

「ひとりぼっちの夜の底」

仕事帰りに寄ったコンビニで、お酒と、おつまみと、何となく体のことを考えて野菜スティックと、デザートにプリンを選んでカゴに放り込んだ。店員さんはたった一人で品出しとレジを受け持っていて、私がレジの前に立つと、走ってこちらへやってきた。

ピッ

ピッ

バーコードが読み取られ、値段が表示されると、「あれこんなに買ったっけ」と突然不安になる。こんなこと毎日してるから貯金だって貯まらないし、いざというと

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