立教大学 | カーボンニュートラル人材育成講座
こんにちは。
立命館大学産業社会学部2年生の窪園真那です。
今回は、12月9日(金)に立教大学「カーボンニュートラル人材育成講座」で立命館大学の取組をお話ししました。今回は、100分の授業の内容の一部をお伝えいたします。
この取組は、2022年度立命館大学グラスルーツ・イノベーションプログラム(GRIP)に採択された「カーボンニュートラルを軸とした新たな教育パラダイムの創出・実践・量的評価指標の開発」(代表者:山中 司・立命館大学教授)の研究の一環で実施しています。(注)
今回の経緯(佐藤先生)
初めに、佐藤先生から立命館大学と立教大学のカーボンニュートラル(以下、CN)に関する経緯の説明がありました。
佐藤先生は、立教大学名誉教授である、阿部治先生と親交があり、「立命館におけるCNの取組を立教大学生に紹介してほしい」「CNの政策だけでなく、学生に関わるより身近な部分を授業形式で話してほしい」という依頼を受けたと言います。
佐藤先生は「あくまで皆さんのための授業であり、自分ごととして考えてほしい」「立命館大学の取組を完璧だと思わず、意見を言ってほしい」と立教大学生に伝えました。
学校法人立命館の取組(樅野さん、神田さん)
樅野さん、神田さんからは主に学校法人立命館全体での取組について、財務部管財課の視点からお話されました。
学校法人立命館は2大学5キャンパス・5附属校で構成されており、北海道から大分まで全国に広がります。立教大学と比較すると構成員数やCO2排出量、電気使用量などの項目で、立命館大学の数字が約2倍となっていました。
「2050年までにCO2排出量ゼロ」という宣言による目標の転換
学校法人立命館では2010年に立命館地球環境委員会を設置し、データ整理や環境負荷低減の中長期目標を設定してきました。これまではエネルギーや水の使用量の環境目標設定に関しては、省エネの取組の結果が反映されやすい原単位(1人あたり、1㎡あたりなど)の評価方法を採用していたと言います。当時、2キャンパス3附属校の規模から拡大路線を辿る立命館にとって、原単位(1人あたり、1㎡あたりなど)の評価方法は事業拡大に拘らず削減可能であったようです。「2020年の中期目標に関しては、エネルギー、水、一般廃棄物の各項目で25%削減とし、達成した。しかし、菅元総理の2050年までにCO2排出を実質ゼロにするという国の宣言を受け、エネルギーの使用量は原単位ベースではなく、総量をゼロ、CNにする必要がある。」と樅野さんは話しました。そのため、2030年までの中期目標のエネルギーの項目を「カーボンニュートラル」と再設定したようです。原単位での評価方法からカーボンニュートラルにするという目標の転換は非常に劇的な転換点であると感じました。
省エネ・創エネ・再エネの組み合わせ
2030年のCNに向けて、省エネ・創エネ・再エネを巧みに組み合わせる必要があります。具体的な取組としては、熱源回収・空調更新・断熱改修などの施設設備の向上で省エネルギー、キャンパス内に太陽光発電設備を整備して創エネルギーを実現。省エネ・創エネで削減したエネルギーコストを原資に再エネ購入。保有する演習林でCO2吸収、などが挙げられます。
立命館のCNの取組事例
続いて、神田さんから立命館のCN取組事例の紹介がありました。立命館慶祥中学校・高等学校の木質バイオマスボイラー導入・LPG利用の温水ボイラー導入や大阪いばらきキャンパス・立命館アジア太平洋大学におけるCNを意識した新棟整備などが紹介されました。「太陽光発電設備の設置導入も取組の一つだが、導入には多面的な検討が必要」「設置のポテンシャル、PPA か自己資金か、蓄電池の有無、オフサイトの検討、補助金の有無など、客観的に評価する必要がある」と神田さんは指摘しました。また、立命館地球環境委員会のシンポジウムやコンテストの開催や環境報告書の作成、エコプロ出展、附属校のワークショップやリレー講座など幅広い取組が紹介されました。
新しい取組にも積極的です。バイオ炭のJクレジットを日本の大学で初めて購入、脱炭素先行地域への参画、デマンドレスポンスやBEMSの活用など取組の幅は多岐に渡っています。
立命館学生中心のSDGsムーブメント(上田さん)
上田さんからは立命館大学の学生中心のSDGsムーブメントの紹介がありました。
Sustainable Week
Sustainable Weekは、キャンパスを小さな地球と見立て、様々な分野で活動する学生が、その活動内容や専門性を活かしながらプロジェクトを行ったもので、2017年に設立し、2018・2019・2020と活動されました。学生主体でありながら学内の組織や自治体、企業と連携するなど、様々なステークホルダーと共に活動を発展してきたと言います。活動開始した2017年は、SDGsが世間的にまだよく知られていないこともあり、参加者だけでなく関係者としてイベントに関わる人数を増やしながら、関係者のSDGsに対する理解を深めていったようです。
上田さんがこの取組をする中で得た教訓は「単なるイベントで終結させるのではなく、持続的なイベントにすること」。年間50を超えるポロジェクトを発展・進化させながら行い、さらに学外の方から金銭的な支援を受けること、特に企業より公的な自治体と連携することを意識することが大切であると言います。
さらにこれらの取組で「増殖型SDGsエコシステムの実現」が重要であるという知見を得たと上田さんは指摘します。これは、自分の団体の拡大ではなく、活動を通してマインドやスキルを学んだ学生がリーダーとなり、それぞれの若い世代が別団体で活躍の場を広げていく「増殖型」のシステム。まさに次世代リーダーを育成するシステムです。
一般社団法人インパクトラボ
増殖型の次世代リーダー育成のシステムの体現する形として、上田さんが卒業後に設立したのが一般社団法人インパクトラボです。あくまで学生主体で学内の組織と連携し、地域の自治体や企業を巻き込んで活動しています。「Sustainable Weekの設立メンバーが社会で活躍する一方、持続的にひとを育成する『SDGsに取り組む研究室』はなかった。『社会問題を本気で解決する仲間が集う研究室』を目指し、インパクトラボを立ち上げた。」と上田さんは当時を振り返りました。
事業概要としては、SDGsの教育・研究・実践を若者に向けて行うことやSDGsに関する新規事業・DX・政策デザイン事業、ソーシャルインパクトの評価・研究・運用をしています。例えば、「SDGs Studios」は学生がSDGsに関する知識やスキルを身につけ、個人や企業、NPOなどのSDGsの実践者を取材、記事を作成し、発信する取組です。また、SDGs関連の社会課題を学ぶワークショップなどの「プログラムコーディネート」も学生中心に行っています。
「講演・セミナー」などの活動では、自治体と連携した職員研修や高校・大学と連携した探求活動などを実施しています。こうした活動を通した学びは「SDGs表現論」というオンライン授業となり、立命館大学の一般教養科目として導入、さらに書籍化するなどしています。
さらに、活動の拠点とする滋賀県で「びわ湖版のSDGs:MLGs」を作成しています。これは滋賀県民の合言葉「琵琶湖は母なる湖(マザーレイク)」を活用し、琵琶湖を通じてSDGsに関するアクションをし、琵琶湖を通じて県民一人一人の活動がSDGsにつながっていることを発見することを目的として2030年に向けた13のゴールを設定し、活動を続けています。
滋賀県・CO2ネットゼロ社会の実現(窪園)
インパクトラボのプログラムコーディネートの一つとして、学生の私自身が運営に関わった「しがCO2ネットゼロ次世代ワークショップ」の事例を紹介しました。
滋賀県では「2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする」という宣言を受け、「しがCO2ネットゼロムーブメント」を2020年に宣言しています。その活動の一つとして、「しがCO2ネットゼロ次世代ワークショップ」を行いました。滋賀県らしいCO2ネットゼロの行動・取組アイデアを若い世代が考えることを目的としています。このワークショップは全5回で、今回は主にDAY2、3のフィールドワークとDAY5の成果報告会について説明させていただきました。
DAY2は多賀町という山間地域で、「持続可能な森林活用の仕組みを学ぶ」ことを目的として開催しました。CO2の吸収源である森林の重要性、世界や日本、滋賀県での森林を取り巻く現状や課題、それに対する取組について滋賀県で先進的に活動をしている「一般社団法人kikito」さんよりレクチャーしていただきました。フィールドワークでは、話で聞くだけではなく、実際に山の中に入りました。切り出された大きな丸太を目の前にすると、その労力がより理解でき、市場取引価格の低さや産業としての林業を取り巻く厳しい実情を考えることができました。
DAY3は滋賀県長浜市で実施しました。「具体的なフィールドで、脱炭素の取組アイデアを考える」ことを目的とし、航空写真を見ながら街歩きをし、供給源や需要場所など具体的にアイデアを考える実践をしました。フィールドとなった滋賀県長浜市は450年続く伝統的なまちで観光地です。このまちを大切に思い、守ってきたまちの人々とのディスカッションを通し、「古いものを守りながら、脱炭素などの新しいものを取り入れていくこと」の難しさとそれこそが持続可能な社会であることを学びました。
DAY5は、DAY1~4までを踏まえて各グループでアイデア発表と個人で「マイCO2ネットゼロ宣言」を発表という二部構成で最終成果報告会を行いました。各グループの発表は「ゼロカーボン×〇〇」という形式でアイデアを発表し、個人の「マイCO2ネットゼロ宣言」の発表はこのワークショップで学んだことを受け、「今後自分自身どのような具体的な行動をするか」についてフリップボードにまとめて共有しました。
このワークショップの成果は、成果報告会の各グループの発表に表れていると思います。参加者は「ゼロカーボン×〇〇」という形式で、防災や農業、アートなど様々な領域に発想を展開していました。「脱炭素は単なる環境問題ではなく、脱炭素を切り口に様々な産業、人、社会のシステムに関わり、地域の社会課題の解決や地域資源の魅力向上、経済活性に貢献できることを実感できたことは大きな成果ではないか」と感じています。
最後に
上田さんより立教大学の学生の皆さんにメッセージを伝えました。
1ムーブメント
若い学生の皆さんが考えたアイデアを実行することで、1つの事例だったものが、2つ、3つと事例が生まれてくるとより大きな動きになり、一人では変えることができることができない仕組みを、みんなの力で変えることができます。私は、Sustaiable Weekを通して体験してきました。今回の授業をきっかけに皆さん興味・関心があるところでチャレンジしてほしいです。
2ソーシャルインパクト
今日の話題提供にもあったカーボンニュートラルは、経済的なメリットだけでなく、私たちが社会的に豊かに生活できるようになるなど、新しい価値を生み出すことができることもカーボンニュートラルの取組で意識すると良いと思います。
3地域の生存戦略
立教大学池袋キャンパスがある東京都豊島区と滋賀県にある立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)のような地方では、エネルギーの利活用の意味も変わってくると思います。事例を調べるにあたって、これから人口減少する地方においては、エネルギーを地域が考える生存戦略の1つとなることも知ってもらえると嬉しいです。
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インパクトラボでは、イノベーション創出事業、SDGsレクチャーや各種講演・ワークショップ、SDGsツーリズム、新規事業立ち上げ支援などを実施しています。興味を持たれた方は、是非インパクトラボのWebサイトをご覧ください。
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